ルシフェル、こっぴどく叱られる
えっと、ルーク兄様の”お手々ぎゅっ”で、物凄い色々妄想してしまった。
他にも”お手々ぎゅっ”エピソードはまだまだあるんだけど、いい加減にしとかないと、どれくらい時間たったかな? とはいっても一瞬とは思うけれど。
ルーク兄様の”お手々ぎゅっ”は、いつもと変わらない、でも金色の瞳が、少し揺らいで心配そうに見えたので、私はルーク兄様の目を見て、言った。
「私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます。でも、もし何かありましたら、相談させて下さいね」
と言って私が微笑むと、ルーク兄様の”お手々ぎゅっ”が少し強くなりつつ、大きく頷かれた。
ふとルシフェルとクラウス先生のほうへ視線を向けると、ルシフェルはクラウス先生に怒られて、めちゃしょおんぼりしていた。
「確かに私は過去に一度だけ、ソフィー様に剣を持たせたことがありますが、それは練習用の子供の剣です。それなのに、私がソフィー様に剣を持たせたエピソードを聞いて、どうして本物の剣を持たせようという発想になるのでしょうか?」
クラウス先生は、先ほどまで外していた片眼鏡をかけ直し、ルシフェルを鋭い目つきで睨みつけている。
ひぇー、クラウス先生もめちゃ怖い! ルーク兄様も、ギャップありすぎでめちゃ怖いって思ったけど、クラウス先生も、やっぱりいつもはお優しいからギャップはもちろん、大人の怖さっていうのかな、凍りそうなほどの冷たさが視線だけでなく全身から感じられて、私が怒られてるわけでもないのに、私が凍りそうだよ、ホント!
「え、いや、ほら、ソフィーも光の一族になったからさ、ひょっとしたら新たな才能が開けるかも、みたいな?」
「ソフィー様は確かに養女になられましたが、光の一族の血を引きついているわけではありませんので、光の一族ならではの使命を果たすことはできません。ソフィー様を養女にと王命が下ったのは、それは、ソフィー様に光の一族の使命を果たさせることではなく、一族の光の影響を受け、さらに成長して頂くことが一番の理由です。前にもそう説明したはずですが?」
ひぇー、クラウス先生、さらに目の鋭さが増したよ? 黒に近いコバルトブルーの瞳が、さらに闇色、深さが増したよ??
怒鳴ったりはされないんだけど、あれだ、だからこそ余計に怖いタイプだ。ルーク兄様とおんなじところある。
でも、はたから見てたらそんなお姿もクールで、本当にカッコ良くて、もうちょっと眺めていたいと思う自分が、正直ここにいる。ホント滅多に見れないからね、っていうか、初めて見たからさ、怒ってるとこ。ホント貴重な時間だよ、これ。
私は絶対クラウス先生のこと、怒らせたりしたくないしさ。
私は、冷たいクラウス先生も、ホントいい男でシビれるなあ……とか、イケメンを堪能しつつ、
「あ、そうでしたっけ? ついウッカリしてたかな、あはは」
っていう、ルシフェルのありきたりな言い訳を聞いていた。
絶対私に”酔剣”させてみたかっただけっていうのが、ありありとよく分かる受け答えだね、ホント。
「先ほどルーク様も仰ってましたが、初心者に本物の剣など有り得ません。それどころか、光の一族の剣は特殊で、他人に持たせてはならないと言いつけられているはずですが?」
「ですから、ソフィーは養女になったからさ……」
ん? なんか話がよく分からない方向へ行っている気がする。
さっきから、光の一族とか、血の受け継ぎとか、光の一族の剣は特殊とか……いったい、どういうことだろう?
私は、ルーク兄様のほうを見ると、兄様は私の意を汲んで下さった。
「光の一族が使う剣は、他の貴族が使う剣と違って少し特殊なんだよ。ひと言で言うと、”退魔の剣”。でも、剣のレベルや、使う者の力量によって差が出るんで、万能ではないんだけどね」
なるほど、そうか。でも、使う者の力量にも寄るんなら、私が持ったところで虫一匹殺せないと思うな。
「ああ、だからでしょうか? ルシフェルは、私が光の一族の養女になったし、かつ、剣の腕前が超初心者なんで、誰に危害を加えることもないだろうと、安心されたとか?」
私の話を聞いて、ルーク兄様は少し可笑しそうに微笑まれた。
「いやでも、ルシフェルはそこまで考えてないんじゃないかな? 単に君のよたよた話を聞いて、面白そうだと飛びつき、やらせただけだと思うよ。何か面白そうなことを見つけると、あいつは目の色変わってしまうから。それは、ルシフェルのいいとろでもあると思ってるけど、今回は悪く出てしまった。本人の力量によると言ったって、他人に怪我させなくても、自身が誤った使い方をして、自分が怪我することは充分有り得る。君を危うく怪我させるところだった、本当にすまないと思っている」
そう言って、ルーク兄様は申し訳なさそうに私を見た。
まあ、ルシフェルの興味本位が一番の理由っていうのは、私もそう思ってるんだけどね。
「ルシフェルには、きちんと言い聞かせておく。私たちは光の一族として、神と王族を守る剣としての使命を果たすよう、小さなころから教育されているけれど、それはつまり、モーゼの杖の所持者であるソフィーを守ることも、私たちの使命と思っている……」
そう言ってルーク兄様は、私の目をじっと見て、私の手とをり、”お手々ぎゅっ”された。
「必ず、ソフィーを守るから」
金色の瞳が、キラキラ輝いて、ホント美しいし、真剣な眼差しが、とにかくめちゃカッコいいです!
しかも、『必ず守る』って、女の子なら誰でも一度は言われてみたい言葉、トップにランキングする言葉ですよ?
い、いや、やっぱりあくまで私の私的ランキングかな? まあとにかく、そんな言葉は今まで言ってもらったことがなかったので、めちゃ嬉しくて、かつ、ルーク兄様の手のぬくもりが、私の心をじんわりと暖かくした。
でも、ルーク兄様はあまりにステキ過ぎるので、ずっと目を見ていられなくて、スッと目を逸らし、赤くなった顔を気取られないよう少し俯いて言った。
「ありがとうございます。私もルーク兄様たちに守って頂けたら、こんなに心強いことはないです。そして、私も兄様たちのお役に立てるよう、少しでも頑張りたいです。
あと、一応私、ボールドウィン侯爵家に養女に来ましたので、光の一族や剣のこととか、知識として知っておきたいです。私は血のつながりがなく、光の一族の剣を持つことができない人間なので、どこまで教えて頂けるか分かりませんが、養女として恥ずかしくないレベルの知識は、持っておきたいって思ってます」
なんか、あんまりにも恥ずかしいんで、思わず早口になって一気にまくし立てた。
「そうだね。クラウス先生のお話を聞く限りでは、ソフィーはとても優秀で、既に色んなことをを覚え、理解しているようなので、そろそろ話をしておいてもいいと思う。父上と母上には、私から話しておくね」
そう仰って、ルーク兄様の”お手々ぎゅっ”が、さらに少し強くなった。
私が顔を見上げてルーク兄様を見ると、見慣れた優しい笑顔があった。
ルーク兄様の暖かな笑顔に、私が心ほだされていると、隣ではクラウス先生が、
「このことは、侯爵と侯爵夫人にも私からお伝えしておきます。初心者に本物の剣を持たせるなど、看過できませんので」
と、ピシャリと言い放たれた。
すると、ルーク兄様は私の手を離し、ルシフェルの前に立って、
「それはいい。父上と母上に、こってり絞られろ」
と言って、人差し指でルシフェルのおでこをツーンと押すと、ルシフェルは、
「そ、それはちょっと、なんとか内密には、できませんかね??」
と譲歩を迫る。すると、クラウス先生は、
「なるほど。光の一族の教育の中に、『裏取引』なるものがあるのですか? ぜひご両親に、そちらも”合わせて”確認させて頂きますね」
と言って、トドメを刺された。
ルシフェルはその場でふらふらとしゃがみ込み、
「もうすぐ『ブルー・スリー』の新刊が出るのに、買ってもらえないだろうな……」
と小さく呟いて、意気消沈し、ガックリと項垂れた。




