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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
長期休みから王立学院二年生
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初めての生魚!!

 そして、私たちはディナーを食べ終わり、早速厨房へと向かった。

 厨房までの道のりはけっこうある。そして、相変わらず廊下の絨毯がフカフカなので、こけそうだ。

 クラウス先生は、そんな私を気遣われ、時々微笑みかけられたり、手を差し伸べたりされながら、ゆっくり歩いて下さる。


 ホント申し訳ないなあ……クラウス先生、めちゃ足長いから、この速度の三倍以上の速さで通常は歩かれるだろうに……


 私が情けない気持ちで内心”とほほ……”って思っていると、なんとかこけずに宮殿の厨房まで辿り着いた。


 おお、さすがにボールドウィン侯爵家の厨房よりもやっぱり大きいし、あと、働いている料理人の数が全然違う。めちゃたくさんいらっしゃるな……


 で、私は圧倒されつつ、クラウス先生のあとをついて厨房に入ると、私たちに気づくや否や、料理人の皆さんはすぐさま跪かれた。


 ……本当だ、クラウス先生の仰ってた通りだ。

 っていうか、これって第一王子であるクラウディウス王子が来たから跪いてるだけなんじゃないかな?

 なんだ、私じゃないんじゃん? めちゃ自意識過剰なこと思っちゃってめっちゃ恥ずかしいな。


 って、心の中でテヘペロしながら、クラウス先生のあとをついて歩いていると、ひとりの中年風の男性が私たちのところへやって来た。

「クラウディウス王子、お待ちしておりました」

 と言って、その方は跪く。

「良い、立ちなさい」

 クラウス先生がそう仰ると、その男性はスッと立ち上がった。

「ソフィー、こちらが宮廷料理長だ。料理長、こちらがモーゼの杖所持者であられるソフィー様だ」

 クラウス先生が私たちを紹介して下さる。すると、その宮廷料理長はせっかく立ち上がったというのに、瞬く間にまた跪かれた。

「ソフィー様、お初にお目にかかります。ソフィー様が発案された料理には、私も頭に雷が落ちたかのような驚きと共に感銘を受け、感謝の意を表明したく存じます」

 と言って、右手を胸に、めちゃ深々と頭を下げられた。


 ……ああ、クラウス先生の仰ってたことは、やっぱり当たってたか。

 この”跪き”はクラウス先生に対してのものではなく、私に対してのものであるということは、さすがに私にもわかる。

 私は宮廷料理長の腕をそっと触って、立ち上がるように促した。


「どうぞ立ち上がって下さい。宮廷料理長がすぐさま料理に取り入れて、さらに美味しくアレンジも加えられ、思慮工夫なさることによって、私も王立学院での食事を大変美味しく頂いています。こちらこそ感謝しています。ありがとうございます」

 って私が言い終わるくらいに立ち上がってくれた宮廷料理長……でもちょっと、目がキラキラしているのが怖いな……今日は特に、発案とかはないのだけど。

 まあ、言っててもしょうがない。私は自分の希望を伝えるだけだ。


「あの、早速なんですけど、牛肉のカルパッチョソース、ソースだけを作ってもらってもいいですか? 舌平目は私が適当な大きさに切りますんで」

 私の申し入れに、宮廷料理長は訝しげな表情をされる。

「……構いませんが、料理に使われるのですよね?」

「はい、もちろんです」

 私がそう言うと、宮廷料理長が私を舌平目のところまで案内してくれた。


 おお! ちゃんと下処理されてる……っていうか、三枚おろしされた状態になってる! めちゃ感激だ!

 恐らく、私がさっき『カルパッチョ』とか『生魚』等いろいろ言ってたんで、それを聞いていた給仕さんが、下処理する料理人さんに告げられて、三枚おろしまでしておいて下さったんだな。

 至れり尽くせりでめちゃ助かった。

 で、私がこの舌平目を、カルパッチョ風薄切りにすればいいんだよね。

 テレビのグルメ番組や料理番組で見たイメージ……

 私はモーゼの杖を出し、呪文を唱えた。


「セカーレ」


 で、見てみると、そこには程よい感じの切り身になった、舌平目があった。

 おお、これだけでもめちゃ美味しそうだ!と、テンションアゲアゲでいると、宮廷料理長のカルパッチョソースもできあがったみたいだった。

「ソフィー様、ソースができあがりました」

 と言って、私のとこに持ってきてくれる。


 ……うん、ニンニクの香りが立って、めちゃいい匂いだ。食欲そそるな。さっき食べたとこだけど。


 私はボールに入ったソースを受け取り、刺身くらいの大きさに切った舌平目をボールの中に入れて、スプーンであえてみた。

 で、ひと切れ食べてみた。


 ……

 おお! 魚のカルパッチョだ!

 正直私は牛のカルパッチョしか食べたことないけど、その魚バージョンの味っていうことは、魚のカルパッチョよね!?

 しかも、身がプリプリしていて、噛み応えがありめっちゃ美味しい!

 そして何より前世からの悲願達成で、超うれしい!!


「クラウス先生、めっちゃ美味しいですよ! しかも私、今食べてみましたけど体のどこにも異常をきたしておりません! 大丈夫ですよ! 食べてみますか?」


 私がクラウス先生に提案すると、クラウス先生が私のところに歩み寄って下さったので、私はスプーンにひと切れだけ乗せて、クラウス先生に差し出してみた。

 そしてクラウス先生は、そのひと切れを口に運ばれる。

 すると、一瞬驚かれたものの、すぐさま満足気な表情になられて、大きく頷かれた。


「これは、非常に美味しいですね……火を通して食べる魚とは違い、身に弾力もあり、実に新しい触感です。宮廷料理長も、試食してみて下さい」


 宮廷料理長は未だ訝しげな表情をされて、生の魚なんて大丈夫かなあ……みたいな思いが顔前面に出ている。

 でも、この世界第一王子の申し出を断れないという思いもあるのか、はたまた研究熱心からくる使命感かはわからないけれど、宮廷料理長も恐る恐る、ひと切れ口に入れた。

 すると、顔の表情がみるみると、驚きと喜びの表情に変わっていく。


「なんと、これは素晴らしいですな! クラウディウス王子が仰るように、実に新しい触感で、かつ生魚特有の臭みもなく、非常に美味しく頂けます!」


 と、満面の笑みで言った。

 おお、宮廷料理長にも喜んでもらえたようだ! よかった、よかった!


「でも、仰るように生魚は臭みも出てきますし、何より鮮度が大事です。なので、この料理を王立学院のメニューなどで出すのは、食中毒の観点からいっても危険だと思います。ですので、レシピを広められる場合は、注意喚起も一緒にお願いします」


 と言って、宮廷料理長の満面の笑みに、私も笑顔で応えた。

 で、宮廷料理長はというと、私の手を両手でガシっと強く握り、ぶんぶんと上下に振って、

「心得ております! 神に感謝! ソフィー様に感謝!」

 と言って、心なしか涙ぐまれた。



 ……えっと、それで残った舌平目のカルパッチョは、他の料理人の皆さんも味見され、感心されつつ各々感想を述べあったり、クラウス先生や宮廷料理長がもう二、三切れほど試食されたりしていると、あっという間になくなってしまった。


 いやあ、皆さん満足して下さったみたいで、よかった、よかった。

 漁猟が再開されたら、ぜひボールドウィン侯爵家でも魚のカルパッチョ食べたいと思った。きっと家族の皆んなも喜んで下さると思う。

 なにより、今日食べたのひと切れだけだし、もうちょっと食べたいよね。

 などと、新たな野望を抱いていると、今日の予定はひと通り終わったということで、クラウス先生が寮まで送って下さることになった。


「宮廷料理長の、ソフィーへの崇拝ぶりが、分かったでしょう?」

 と、クラウス先生は苦笑い交じりに仰った。

「正直最後、『神に感謝』とか言われたときは、新しい宗教でも始められるのかと思って、ちょっと怖くなりました」

 と言って、私も苦笑いで応じる。


「ところで、今ふと思い出したんですけれど、以前宮廷料理長がサンドイッチを作って下さるということになったとき、クラウス先生が『私が来ると、跪くようになりました』とか仰ってましたが、そもそも王子なので、もともと跪かれていたんじゃないんですか?」

「まあ、確かに跪く時もありましたが、例えば料理中で目を離せない時などは、簡易敬礼の時もあったんです。ですが、私がソフィーのアイデアを伝えるようになってからは、どんなに取り込み中でも料理から目を離し、私の目の前まで来て、跪くようになりました。実際、ソフィーを神の如く称えるようにもなってしまいましたし、私の言っていることは大袈裟ではなかったと、今回証明できたと思いますよ?」

 と仰って、クスクス笑い始められた。

「それにしても、料理を放ったらかしてまで最敬礼をしに来るとなると、他の料理人の皆さんは少し大変ですね?」

「そうですね。慌ててフォローに入られるのを何度か見たことがありますので、ほどほどにして頂きたいとは思いますね」

「そうですか……宮廷料理人の皆さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「まあ、ソフィーが気にする必要はありませんよ。他の料理人も、実は概ね宮廷料理長と似たようなもので、大なり小なりソフィーを憧れの眼差しで見ているようですから」

 とクラウス先生が仰るのを聞いて、私は一瞬驚きで目が点になったあと、次の瞬間、思わず苦笑いをしてしまった。

「それは、困りましたね。でも、これからさらに酷くなって、誰も料理を見なくなったらどうするんでしょう?」

「それは非常に困りますね。今回の件で、さらにソフィーへの尊敬度が上がったことでしょうから、ソフィーはあまり、宮廷の厨房には行かないほうが良いかも知れませんね」

「それは大変ですね、ぜひ宮廷の厨房には今後寄り付かないように、気をつけたいと思います」

 とかなんとか言って私は乾いた笑いで適当に、とりま”宮廷厨房寄り付かない宣言”を一応しておいた。

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