初めての、お魚料理だ!!
そんなことをぼんやり思いながら、ベッドの上でだらだらしていると、クラウス先生がやって来られた。
私は急いで立ち上がり、パパっと身なりを整え、クラウス先生に客室に入って頂く。
メイドさんも一緒に連れて来られたので、そのメイドさんは慣れた手つきでお茶の用意をして下さった。
そして私はクラウス先生に促され、テーブルに着いた。
「もうすぐディナーが参りますよ」
と笑顔で仰るクラウス先生、なんかいつもよりも笑顔の輝きが、五割り増しな気がします……
「とても楽しみです」
私が満面の笑みを浮かべてそう言うと、クラウス先生はさらに優しい笑顔を浮かべ、頷かれた。
ちなみに、ディナーはここ客室まで持ってきて下さるそうだ。
私、一番最初にクラウス先生に宮殿に連れて来てこられたり、あと一回宮殿に来てご飯を食べたことがあるけれど、いつも客室でご飯を食べている。
まあ、宮殿に来てご飯まで頂くようなときはいつも、最初のときのような緊急事態だったり、上級悪魔事件で気を失った時とかなので、さすがに宮殿の食堂で食事、とはならなかった。
じゃあ、今日はどうなの?って感じなんだけど、一応クラウス先生から『食堂で』という打診はあったものの、正直、食堂って、王様いるんじゃね?ってめちゃ思って、私、王様にお会いしたことないし、粗相してもイヤだし、とてもじゃないけど食事が喉を通るとは思えないし、食事の味なんて一切しないに違いないと思ったので、全力でお断りした。
で、クラウス先生は、私のそのテンパり様を見て愉快に思われたのか、クックックってお笑いになりつつ、『今日は王様はいませんよ。”神託の間”にいらっしゃいます』って仰ったんだけど、なんだ、それなら食堂見てみたかったかも?って一瞬頭によぎりつつも、でもやっぱり慣れた場所のほうが緊張もせずに味もよくわかるに違いないと思い直し、『客室がいいです』と、改めて言った。
で、メイドさんが入れてくれたお茶を頂きつつ、クラウス先生と軽く談笑していると、早速給仕さんがディナーを持ってきて下さった。
わあ……! めちゃいい匂いする! お魚さんの焼ける匂いに、ハーブの香りもする!
私が期待にめちゃ胸を膨らませていると、給仕さんがクラウス先生と私の目の前に魚料理とパンとスープを置かれた。
「舌平目のオーブン焼きでございます」
おお、舌平目とか、よくわかんないよ!? でもなんか高級そうだ!
そして、クラウス先生が促して下さったので、私もひと口食べてみた。
……
めっちゃ美味しい!
魚の身がめちゃふっくらしてて、それでいてほろっとしてて、めちゃ味わい深いなあ……前世でもこんなに美味しい魚料理は食べたことないかも知れない。
私はめちゃ満面の笑みでディナーを食べていると、クラウス先生も食事をとりつつ笑顔で仰った。
「ご満足頂けたのでしたら、よかったです」
いやあ、今日のクラウス先生の笑顔はめちゃ眩しくて、神々しすぎるな。
って思わず見惚れていると、今日の一番大事なこととして、クラウス先生が仰った。
「本日ソフィーが闇属性の『古の魔術』は、『神託の間』で許可が得られるまでは口外禁止、披露するのも当然禁止ということにしておきましょう。ソフィーはこの世界でただひとり、『古の魔術』が使える人間ということになりました。よって、『古の魔術』の情報の取り扱いについては、私に指示に従って下さい。ソフィーの身を守るためでもあります。分かりましたね?」
クラウス先生はめちゃ真剣な眼差しで私をご覧になる。
……そうか、『古の魔術』はクラウス先生にも使えない、私にしか使えない魔法なのか……
なんか考えたら、ガクブルしてきちゃった。
でも、使えるようになっちゃったもんはしょうがない……
とりあえず、クラウス先生が指示を下さるんで、それに従っていれば、いいんだよね?
うん、難しいことを考える必要はないな。とにかくクラウス先生の指示通りに動こうと思う。
で、難しいことを考えるのはキレイさっぱり諦めて、美味しい魚料理に国宝級イケメンの笑顔を堪能しつつ、今日は最高のディナーだなって、感慨深く思っていると、ふと、ひとつの疑問が頭に過った。
そういえば、この世界では”お刺身”ってないんだろうか?
なんか、前世のアニメ知識では、ファンタジーの世界では生魚は食べられてなかった気がするなあ……
ちょっと不思議に思ったので、話の種がてら、クラウス先生に質問してみた。
すると、クラウス先生はちょっと驚いた顔をされ、私に質問返しされた。
「魚を生で食べるのですか? そのような発想には、今まで思い至りませんでした……」
なんでもこちらの世界では、魚は”冷湿性”なので熱く乾燥したスパイスを調味に用いて、揚げ物、オーブン焼きなどの調理法で加熱、乾燥させるのが一番であると考えられているからだそうだ。
……そうなんだ。
なんか、”なんとか性”みたいなのはハッキリ言って意味わかんないけど、お刺身もし食べられるなら、食べてみたかったんだけどな……
ちなみに私は前世では、お刺身は食べたことない。
で、凄い高級な食事っていうイメージが私の中にはあったので、こっちの世界でもし食べられたらいいなあって、ちょっと思ったのだった。
とはいっても、お刺身食べるとなると刺身醤油がいるし、でも、この世界に醤油なんてあるわけもないし、で、前世のアニメ的流れから行くと、本来ならこれはフラグで、主人公がお刺身を食べるために醤油作りから始めるっていうのがセオリーなんだけど、とにかく私は料理に関しては調理実習の経験しかないんで、それができないんだよね……
まあ、しょうがない。この世界に転生して来たからって、いくらアニメで見たからって、同じようにできないことも当然あるよね。
同じようにできないことは、特に、私のナンチャッテ剣裁きで激しく実証済みだ。
なので、潔く諦めることにしよう。
「食事の調理法には、昔から受け継がれてきた料理人の知恵が詰まってて、凄いなって思いました。教えて頂きありがとうございます」
私がそう満面の笑みで言うと、クラウス先生は少し訝しそうな表情になられて、私をご覧になった。
「ですが、なぜソフィーは魚を生で食べたいと、突然思われたのでしょうか……いくら平民出身だからといっても、平民でそのような食事があったとは、とても考えられません」
そして、クラウス先生の私をご覧になる目が、少し鋭さを増した。
「これもまた、『ウリエル的お告げ』系の、発想か何かでしょうか……?」
……う、ヤバい、なんて説明しようかな?
なんで生の魚を食べたいと思ったか……
なんて言おう、なんて言おう……?
「あ、あれですよ、あれ! 私、牛肉のカルパッチョがめちゃ好きで、超好物なんですけど、生のお肉って美味しいですよね? だから、生のお魚も美味しいんじゃないかなって、ちょっと思ったんです!」
って、私は一気にまくし立てた。
うん、嘘は言ってない。以前ボールドウィン侯爵家で実際牛肉のカルパッチョが出たけれど、ホント美味しかったし、めちゃ好物だ。
すると、クラウス先生は私の発言を受けて、少し考え事を始められた。
どうやら、ピンチは切り抜けたらしい。
「ですが、魚を生で食べるなど、できるのでしょうか……」
できる、できる。前世では皆んな美味しいって言って食べてたもん。ぜひ私も、前世からの悲願を達成させたい……お刺身、食べたいな……
「クラウス先生、舌平目はまだ厨房にまだ残ってるんでしょうか?」
「どうでしょう? 厨房に行かなければ分かりませんが」
「では、この食事のあと私、厨房に行ってもいいですか? 料理人の方とお話してみたいです」
「構いませんが……貴女が来られると、跪かれますよ……?」
う、なんだそれ。跪かれるなんて、なんでそんなことになってんの? めちゃ恥ずかしいですから。
っていうか、なんで私が料理の発案者っぽいことになってんだろう? クラウス先生が考えたことにしておけばよかったのにさ。
でも、背に腹は代えられない。
「ま、まあ、少々恥ずかしいですが、参ります。ちょっと試したいので」
「分かりました」
とクラウス先生は承諾して下さると、給仕さんに、
「厨房に残っている舌平目があるか、もしあるなら解凍し、下処理を済ませてておくように。もしなければ私にその旨伝えるよう戻ってくるように」
と簡潔に仰って、給仕さんを下がらせた。
その、流れるように指示を出されるクラウス先生を見て、やること手際よすぎるなあって思い、めちゃ惚れ惚れして見ちゃった。
仕事できる男って、めちゃセクシーでステキよね。
……って、いけない、いけない。見惚れている場合ではなかったな。
とりあえず、今はこのめちゃ美味しすぎる”舌平目のオーブン焼き”、この世界初のお魚料理をを堪能し、クラウス先生とのディナーをめちゃ楽しんだ。
で、結局給仕さんが戻って来られたので、『ああ、もう舌平目なかったのか……』って、一瞬ガッカリしたんだけど、舌平目が厨房にあろうがなかろうが、クラウス先生に報告するのが義務っていうことで、戻ってこられただけだった。
舌平目は、まだ残っているらしい。そして、解凍と下処理を始められたそうだ。
おお、素晴らしい! こんな機会はなかなかない……っていうか、今後あるかどうかもわからない。
魚を生で食べたい私、クラウス先生はとりあえず私の意見を聞いて下さるけど、他の方がクラウス先生と同じように柔軟な感性をお持ちとは限らないもんね。
この機会を、十分に活かしたいと思った。




