初めて『古の魔術』に挑戦
今日の放課後は、王宮の魔法訓練施設に行って『古の魔術』に挑戦したのち、宮殿にてお魚ディナーという、めちゃファンタスティックすぎる予定が入っている。
昨日寮に戻って来ると、ドミがクラウス先生からの伝言を承っており、なんでも今日、魔法師団の水産研究部門の皆さまが、アドリア海に赴き海全般の調査をされ、また、以前私たちが海の調査で取ってきた魚たちと比較するために、また何匹か取って来られたんだけど、調査が済んで食べられそうな魚は、冷凍保存された状態で宮殿の厨房に送られてくることになっているそうだ。
で、宮廷料理人に魚料理を作らせるので、一緒にディナーを食べよう、とご提案下さったのだ。
なんとまあ素晴らしすぎるご提案だろう。
で、ドミいわく、『古の魔術』云々の話を迂闊に王立学院内でできないということで、ドミに伝言を託されたそうだ。
というわけで、私はクラウス先生の周りに誰もいないときにお返事をしようと思い、クラウス先生の王立学院内にある個人研究室に行こうとひとりで向かっていたんだけど、ちょうどそのときクラウス先生が廊下をひとりで歩いていらっしゃったので、『古の魔術』に関しては念のために口に出してはいけないと肝に銘じつつ、クラウス先生に声をかけた。
「クラウス先生」
クラウス先生は私に気が付き振り返られる。ステキな人は、振り返りざまもめちゃステキでカッコいい。
「ソフィー、今日の放課後のこと、ドミから聞いていますか」
「はい、ぜひよろしくお願いします」
「では、王立学院の転移陣の前で、放課後お待ちしています」
と仰って、次の授業に向けて、笑顔と共に去って行かれた。
いやあ、ステキな人は、去り際もめちゃステキでカッコいいなあ……
って、見惚れている場合ではなかった。
私も次の授業に向けて、早く教室戻ろっと。
そして、今日の授業はなんとなく上の空で、ぼんやりしている間にいつの間にか放課後になっていた。
私は、王立学院の転移陣でクラウス先生と待ち合わせをしているので、ルンルン気分でそこに向かうと、既にクラウス先生がいらっしゃった。
「今日は足取りが軽いですね?」
って仰るクラウス先生、既に私の心は見透かされているものの、別に隠す必要もないので、内心めちゃ『うふふふふふ』って思いながら、満面の笑みでクラウス先生を見つめていると、クラウス先生が私に現実を突きつけられた。
「一応言っておきますが、ディナーの前に、『古の魔術』をまずは試してみますからね? まさか、お忘れではありませんよね?」
……
やばい、すっかり忘れてた。
っていうか、まだ時間的にはディナーの時間じゃないのに、なんでこんなに頭ん中お魚さんでいっぱいなんだろう?
食い意地はってるのかな? それも育ちが悪いせいかな?
まあ、それもあると思うけど、基本私は天然なんで、ひとつのことを考えちゃうと、それに集中しちゃうクセがあるんだよね。で、他のことがおざなりになって、その結果さらに大きな天然ボケを引き起こしてしまうという……
私は、さーっと血の気が引いていくのがわかり、一瞬思考放棄状態になったものの、でも次の瞬間我に返り、軽く首を横に振って、クラウス先生に頑張って作り笑いをしてみた。
クラウス先生は、深いため息をつかれる。全てお見通しのようだ……まあ、私がわかりやす過ぎるせいもあるんだけど。
「『古の魔術』に関しましては、まだ挑戦することに意義がある段階です。別に成功しなくても構いませんので、気負わず参りましょう。ですのでディナーの前に、先に『古の魔術』に挑戦です。分かりましたね?」
うう、クラウス先生の目つきが少々鋭い気がするなあ。忘れててマジでごめんなさい、”天然モード”からたった今戻って来たんで、『古の魔術』、ちゃんと挑戦しますからね。
って、私は心の中で弁解しつつ、小声で「はい」って呟いた。
王宮の魔法訓練施設は、長期休み中にいつも魔法の訓練しているので、私にとっては勝手知ったる場所だ。
クラウス先生も、『気負わず参りましょう』と仰ってたし、慣れた場所で気負わずできるのは、よいことだと思う。
「まずは、先日仰っていた光属性の魔術から参りましょうか。丁度、憤怒のジミマイを仮の姿とはいえ一撃で倒したとされる魔術です」
そう仰って、クラウス先生は『古の魔術書』をパラパラとめくられて、該当ページを私に見せて下さった。
『前方に光の力を収束し、光線のように一直線状の範囲のものを消滅させる』
……以前見たときと、特に変化なしか。
呪文の名前がまだ読めないので、つまりイメージの膨らましが足りず、できるかどうかはわかんないけど、とりあえずやってみることにしよう。
私はモーゼの杖を取り出し、母親擬態ジミマイを倒したときのことを思い出し、イメージを自分なりに膨らませながら、
「前方に光の力を収束し、光線のように一直線状の範囲のものを消滅させる」
と言って、モーゼの杖を力強く前方に出した。
……
なにも起こらない……
私はクラウス先生を見ると、クラウス先生は特に残念がられる様子もなく、私に優しく微笑まれた。
「ソフィー、最初にも言いましたが、できなくてもいいのですよ。”今はまだこの魔術は使えない”と知るだけでも、貴重な情報を得られた事になるのですから」
クラウス先生はとても優しい口調で仰るので、魔法は発動できなかったけれど、でも私はなんだか慰められたような気持ちになりほっとして、笑顔で頷いた。
「では次はこちら、先日仰っていた闇属性の魔術です」
とクラウス先生は仰って、『古の魔術書』をパラパラとされる。そして、該当ページを私に見せて下さった。
……
わ、これも前に見た時と同じだ。
このページを見た途端、バッとイメージが飛び込んできて、どんな魔法かすぐにわかって、モーゼの杖を出して呪文唱えてもいいかもって、やっぱり思っちゃうんだよね……
私がそんなことを考えていると、右手に持っていたモーゼの杖の光が、さらに強くなったような気がした。
クラウス先生もそれを目で確認され、息を呑まれる。
「……使えそう、ですね……ですがこれ、相当恐ろしい魔術ですので、発動される場所によっては私も命を落としかねません。初めてのことで何が起こるか予想もできませんので、最上級の防御結界を張りながら、成り行きを見守らせて下さい。また、ソフィーに何かあれば、私が命を投げ出してでも、すぐに救いに参りますから」
と、真剣な眼差しを私に向けられて、仰った。
私もコクリと頷く。
そして私は、イメージを膨らませる。
神経を研ぎ澄ませ、さらに集中する。
モーゼの杖が放つ光がさらに強くなる。魔力が集結しているような感じだ。
そして私が『今だ!』という意識がいっぱいになった瞬間、私はその闇属性『古の魔術』の呪文を唱え、『古の魔術』を発動した。
「はぁ~疲れた~」
私は思わずそんなことを口に出しながら、ベッドの上でゴロンとなった。
周りには誰もいない、私ひとりなので変なことを呟いても、だらだらしてもなんの問題もないと思う。
ちなみにここは、宮殿の客室だ。
『ディナーの時間まで、客室で休んでいなさい』とクラウス先生が仰りつつ、ここまで連れて来て下さったので、仰ることを忠実に守り、今はだらだらタイムを満喫している。
今日のお魚さんは、なんのお魚さんなのかな?とか、いろいろなことを妄想しながら。
にしてもさっきの『古の魔術』、凄かったな……
魔術を発動した直後、あんまりにもその凄さに呆然としちゃって、クラウス先生に、『もう結構です』と言われるまで、意識がどっか遠くのほうへ行っちゃってたもん……
自分で発動しといてなんだけど、よく腰を抜かさなかったなって思う。ひょっとしたら、神体山解放で色んな凄惨な思念を見せられたり、七大悪魔と対峙したりしてるから、少しは度胸がついたからなのだろうか。
わからないけれど、魔術を解いたあとクラウス先生をふと見てみたら、先生も目を見開いて驚愕していらっしゃった。
クラウス先生はそれでなくても、光属性、闇属性、無属性、全ての属性で最上級魔法が使える魔法の達人でいらっしゃり、なおかついつも冷静沈着でいらっしゃるというのに、そのクラウス先生があのように、今まで私も見たことないくらい驚いていらっしゃったということは、相当大変な魔術なのだろう。
それにしても私、意識をちゃんと保っていられたことは、とってもよかった。
そして、できるならこの魔術を使う機会がなければいいなって、めちゃ思った。




