美少女剣士は諦めよう……
私がボールドウィン侯爵家に養女に来て、あっという間に二か月が経った。
ボールドウィン侯爵家での日々は、忙しいけどとても充実していて、密度の濃い日々を送っていた。
ディナーの時間など、ご家族の皆さまとご一緒する時間は、とても楽しいし、座学の勉強は、覚えるのとかは大変なところはあるけど、こっちの授業はただ覚えるだけではなくて、深く考えさせられるというか、なんか人間を追及する学問みたいな側面もあって、とても興味深くクラウス先生のお話を聞いていた。
そして、何よりワクワクするのは魔法の授業だ。
私が前世のアニメで何回も見た、あの憧れの魔法がリアルで使えるなんて、本当に胸アツである。
魔法の授業は、モーゼの杖がどれほど周りへ影響を及ぼすのか未知数だったり、秘匿情報とかが出てきてくるかも知れないので、そのときだけ転移陣で王宮まで来て、魔法訓練実験施設とかいう、広い体育館みたいな場所に行って、クラウス先生の指導を受けていた。
といっても最初のうちは、そんな仰々しい魔法は全くしない。簡単な魔法から少しずつだ。それでも私は十分楽しい。魔法少女、異世界転生の醍醐味と思う、ホント。
ちなみにボールドウィン侯爵家には、魔法訓練場というより、それも兼ねている、主に剣など武術を磨く訓練場がある。
でも、こちらは当然異世界なので、剣や槍を使っても、切ったり突いたりするだけで終わらない場合があって、様々な魔法効果が付与された攻撃も普通にあるので、訓練場とはいっても当然、魔法耐性のある作りになっている。
私はこの道場に、一度だけ来たことがある。クラウス先生に無理を言って、連れてきてもらったのだ。
なんで無理を言って連れてきてもらったのかというと、ボールドウィン侯爵家の皆さまと初対面のとき、養父様が『中には剣に秀でた女子もいるので、剣の道に進む女子もいる』とか仰っていたのを思い出し、そう言えば私が前世で見たアニメでは、多くの可愛い女の子たちが剣を振るって戦っていて、ひょっとしたら私も異世界転生特権で、うっかり戦えたりするのだろうか? って、ちょっと試してみたくなったからだ。
で、私は超初心者なので、貴族のお子様が七歳から剣術を教わるのに、初めて子供に持たされる、練習用の剣を持たされ、クラウス先生がお手本を見せて下さったように、とりあえず見よう見まねで剣を上から振り下ろそうとした。
すると、剣を上に上げた瞬間、私の腕は剣に取られ、体はふらつき、あっちよたよた、こっちよたよた、何とかバランスを取ってみたものの、剣の重さに耐えられなくなって、結局剣を地面に突きさし、思わず体を支えてしまった。
……
私には、剣の才能が全くないことが、判明した。
なんだ、異世界転生特権、全然ないじゃん。
ちょっと剣を握ったら、いきなりめっちゃ身体能力上がりまくりで、めっちゃ高いところに跳躍とか、軽々できちゃうもんだと思ってた。
クラウス先生はめちゃ笑っていらっしゃるし、ホント恥ずかしいったらないわ。先生に無理行って連れてきてもらったっていうのにさ。ホント、一応モーゼの杖所持者だというのに、面目丸つぶれよ。
まあ、いいけどね。アニメの中でカッコ良く可愛く活躍するヒロインたちに、ちょっとは憧れたけれど、無理なものは、しょうがない。潔く諦めよう。
にしても私、非力過ぎるわ。ホントにこれ、子供用の剣だろうか?
でも、クラウス先生の剣と見比べたら、全然大きさ違うし……やっぱり、子供用の剣なのだろう。
クラウス先生は、笑いを堪えながら仰った。
「他の武器も試しますか? 弓とか槍とか」
いえいえ、無理ですから。超非力過ぎて、弓なんて全然矢が飛ばないの目に見えてるし、下手したら飛ぶどころか真下に落下して、自分のつま先射てしまうかも?
槍なんてのは以ての外。剣ですらちゃんと持てないのに、槍なんて、体支える杖にしかならないよね、ホント。現に今、子供の剣を現在進行形で、杖として使用してるし。
正直杖は、モーゼの杖だけで充分間に合ってんだよね。何本も杖、要りませんから。まだおばあさんじゃないもん。
まあ、モーゼの杖を、リアル歩行用の杖代わりに使っていいのかは、知らないけどさ。
と、ちょっとぶーたれつつ、私はふと不思議に思った。
モーゼの杖って、実は重さを感じないんだよね。なんでかな? 私仕様になってるのかな?
……分かんないけど、まあ、そういうことに、しておこうと思う。
と、ひとつの結論を導きだしたところで、
「私は今、これまで以上にとてつもなく、モーゼの杖に愛着が湧きました。無理を言って、こんなところまで来させてしまい、本当に申し訳ありません」
と素直に謝った。するとクラウス先生は、
「いえ、私もソフィー様の能力を多角度から知っておく必要がありましたので、非常に貴重な情報を得られました。ありがとうございます」
と言って、やっぱりクスクス笑っておられた。
うう、恥ずかしいよう。
やっぱり調子に乗り過ぎるのは、良くないな。ここまでなかなか順調に来てたんで、勘違いしちゃったなあと思う。アニメで見たことあるからって、それが自分に適応するとは限らないのだ。肝に銘じておこう。
あとクラウス先生に、私の体力のなさがハンパないことがバレてしまい、いたく心配され、体力をつけるためにも時々神体山に行って、門から一枚岩まで往復してみようと提案された。
もちろん私はその提案を快諾した。
解放後の神体山を、私も見てみたかったし、ウルルにも久しぶりに会いたかったからね。
というわけで、今日がその”神体山で体力つけよう”授業の日である。
お天気に恵まれて、とても嬉しい。
ちなみに神体山に行くときの恰好は、前の恥ずかしい剣の授業?のときと同じ、動きやすいパンツスタイルだ。イメージ的には中世の貴婦人が乗馬するときに着用するような服装に似てるなって思った。ドレスよりもやっぱり体の自由が利くんで、着ていて楽だな、服を準備してくれたドミに感謝だ。
ドミと一緒にボールドウィン侯爵家の転移陣でクラウス先生を待っていたら、ふっと転移陣からクラウス先生が現れた。
一瞬驚いたけど、相も変わらずクールカッコいいな。
クラウス先生は、王宮から転移陣でやって来たのかと思ったけど、実はイラエ山からやって来たという。
既に、ルーク兄様とルシフェルがイラエ山にいて、先ほどまで剣の稽古をつけていらしたんだって。で、二人は私が合流するまでの間、イラエ山で剣の稽古でもして、待っているそうだ。
おお! 今日の授業はなんと、ルーク兄様とルシフェルも一緒なの? クラウス先生の授業で、ご一緒するのは初めてだ!
そう言えば昨日、ディナーのときに、ルーク兄様が『明日神体山に行く』とかどうとか仰ってた気がするけど、まさかご一緒のタイミングとは思わなかった。
実は私は今まで、二人が剣を振るっている姿とか、魔法を使っているところとか、見たことないんだよね。
もちろんクラウス先生も……いや、クラウス先生は前に、私の黒歴史であるナンチャッテ剣の授業?のとき、ひと振りだけされたことがあったけど、まあ、それはカウントしないとして、そう、クラウス先生が実力通りに剣を振るったお姿は、まだ見たことないんだよね。魔法を使われるのは、魔法の授業で見れるんだけど。
なので今日はとても楽しみだなあと思った。
転移陣の上で、ドミに見送られ、目の前の景色がグニャってなると、気づけばもうそこは、イラエ山の入口にある凱旋門の転移陣の上にいた。
以前来た時は冬で夕暮れ、でも今は三月初旬で、まだ少し寒くはあるけど昼間ということで、以前来た時よりも景色が随分違って見えた。昼間と言ってもルーク兄様とルシフェルが軽く剣の稽古をした後なので、三時ごろなのだけど。
なんか、昼間に来ると、やっぱり色彩が鮮やかに思うなあ。
でも、良く見ると、ところどころ枯れているところや、そんなに多くはないけど倒れている木もあった。
そして、いわゆるスギやヒノキのような、神体山を形成している大きな木の下には、高さ五十センチほどの木々も生息していた。なんか、葉っぱがめちゃ大きいよ、初めて見た。あと深紅のまん丸いのがいくつかぶら下がっているのが、とても可愛い。この植物の実なのかな? でも、実がなるにしては季節的には早いと思うけど。まあ、ここは異世界だし、別に早くてもいいんだけどさ。郷に入れば郷に従えよね。
私がいつものようにぼんやりしていると、クラウス先生が、
「さあソフィー様、体力づくり、一緒に頑張りましょうね。ルーク様、ルシフェル様が、山頂でお待ちですよ」
と、美しい笑みと共に、励まして下さった。
ルーク兄様とルシフェルが、剣の稽古をしながら山頂で待って下さっているので、稽古が終わらないうちに早く辿り着きたいな、二人の剣の勇士めちゃ見たいし。がんばろ。
私は笑顔で頷いて、一緒に歩き始めた。
「せっかくなので、神体山に生息する植物の勉強でもしながら、進んでまいりましょうか」
と優しく仰るクラウス先生。
「ぜひぜひ、お願い致します」
こうして今日は、体力増強も兼ねた課外授業から始まった。




