初めて行く魔石実験室
そして今日は、初めてのヒノキチオール抽出精製授業ということで、魔石実験室に移動教室だ。
ヒノキのヒノキチオール抽出精製は、そこからポーションを作ったり、魔石を作ったり、色んなことができるので、自分でできるようになるととても便利らしい。将来魔法師団に入りたい生徒は、必須の授業だ。
魔石実験室は、そういう実験する授業自体が二年生からということもあり、二年生の教室がある階に設置されている。なので、今回行くのは初めてである。
で、早速行こうかなと荷物をまとめていると、エミール様に話しかけられた。
「ソフィー様、魔石実験室の、行き方はご存じですか?」
そう仰って、クスクス笑っていらっしゃる。
もう、早速からかいに来られたんだ。腹立つなー。
で、腹立つから言い返したいんだけど、さらに腹立つことに私、魔法実験室までの行き方、そういえばさっぱりわかんないんだった。なので余計に言葉に詰まってしまう。
私はぷいって明々後日のほうを向き、むぅっとしていると、エミール様が優しく微笑まれた。
「私と一緒に参りましょうか」
と申し出て下さるエミール様……まあ、実際私は行き方わかんないんで、ちょっとふくれっ面のまま、しぶしぶコクっと頷いた。
ちなみにヒノキチオール抽出精製授業は選択科目で、魔法師団入団希望者のみ必須だ。
なのでルシフェルはこの授業を今日は選択しておらず、武術の授業に行っている。
光の一族なので私を守るために同じクラスになったけど、武術系のルシフェルと、魔法系の私がずっと一緒にいられないのは、まあ、仕方ないよね。
で、エミール様はというと、横で相変わらず私の恥ずかしい黒歴史を思い出して、笑っていらっしゃった。
「今日はまだ時間に余裕がありますので、ゴールは五百メートルほど先に伸ばしにしましょうか?」
と仰って、クックックと笑われるエミール様、きっとまた私が目的地を通り過ぎると思われているに違いない。
私が返事もせずに、やっぱりむぅってしていると、エミール様が軽く私の背中に手を置かれて、仰った。
「こちらが、魔石実験室でございます」
右手を扉の前に広げて優しく微笑まれるエミール様、マジで美しカッコよすぎるんで見惚れちゃうな……それに、今回はちゃんと、私が通り過ぎてしまわないように止めて下さるのも、実は何気にお優しいんだなって思った。
てっきりまた私が通り過ぎるのを見越して、笑う準備でもされてるのかなって思ってた……
私は、エミール様の紳士的なお振舞いにめちゃ顔が赤くなってしまって、俯いてしまう。
「あの、ありがとうございます」
「礼には及びません、ソフィー様のお役に立つのが、私の使命ですから」
私は顔を上げエミール様を見ると、エミール様の笑顔はまんま雪の精霊ばりに幻想的でステキすぎたので、思わず見惚れて”心のサプリアルバム”に永久保存していると、後ろから、声が聞こえて来た。
「もうすぐ授業が始まります。早く教室に入りなさい」
ふと声のするほうへ顔を向けると、
おお! 今日はクラウス先生だ!
あまりに美しいんで、「先生、おはようございます」とめちゃにこやかに挨拶したんだけど、クラウス先生は「ああ」とだけ仰って、じっとエミール様をご覧になった。
せっかくめちゃ笑顔で挨拶したのに、そっけない挨拶でなんだか肩透かしくらっちゃったって思い、少し拗ねたのも束の間、クラウス先生とエミール様の間に一瞬緊張の糸がピンって張られたような気がした。
でもエミール様はいつも通りの涼やかなお顔でクラウス先生にご挨拶をされた。
「クラウス先生、おはようございます」
それに対してクラウス先生はというと、やはり少しぶっきらぼうに、
「ああ」
とだけ答えられて、教室に入って行かれた。
……なんだろう、今日は朝からご機嫌ななめのような……あれかな? 実は低血圧で朝が苦手とか、おありなのかな?
それかもしくは最近王子だと身バレしたばかりなので、ちょっと窮屈な思いとか、されているのかも知れない。黒髪に伊達眼鏡時代は王族扱いされてなかったから、色々何をするにも自由だったと思うし……
そうだ、いつか私、疲労回復のポーション作って、クラウス先生にあげたいな。
感謝の気持ちが少しでも伝わればいいと思うんだよね。どこまで効果のあるポーションを作れるかは分かんないけど……正直、一番最初の黒歴史である剣の二の舞になってしまわないかめちゃ不安だけど、とりあえず、一度挑戦してみる分にはいいんじゃないかな?
よし! そのためにも今日の授業は全力で頑張んないと。ポーション作りの最初の一歩ともいえる授業だから。うん、めちゃ頑張ろう!
私はそんなことを考えながら、めちゃ張り切って、魔石実験室の中に入った。
魔石実験室は、前世でいうところの理科実験室に雰囲気が似てるなと思った。
私のあとをついてエミール様も教室に入って来られる。なんとなく目についた椅子に腰かけると、エミール様も私の隣に腰をかけられた。
「エミール様は、神体山解放のメンバーに選ばれるほど武術も達者でいらっしゃるのに、武術は選択されないんですか?」
「武術も選択してますよ? ソフィー様が受ける授業に、時々私が参加していないものも、あると思いますが」
……そう言えば、地理の授業とか魔法が絡まない座学系は、エミール様がいらっしゃらないときもあるような気がする。
「そうですね、受けていらっしゃらない授業、ありましたね」
「……今、私が教室内にいなくても、ソフィー様は気にも留めていらっしゃらない事が判明し、非常にショックを受けております……」
そうエミール様は仰って、伏し目がちになられた。
「いえ、あの、エミール様のことだから、また悪巧み……いえ、買収用の魔石作りでもしていらっしゃるのかと思ったものですから……あはは」
って私は適当なことを言い、なんとか誤魔化そうと妙な作り笑いまでしてしまう。
まあ、こんなことで上手く誤魔化されてくれるようなエミール様ではないっていうことは、百も承知なんだけど。
「さすがに授業をさぼったりはしませんよ? 単位の問題もありますので……ただ、私の印象がこれほどまでに薄いとなりますと、今後に差しさわりがありますので、武術の授業は控え、座学で単位を取ることも視野に入れなければならないと思いました」
「いいえ、エミール様の印象は充分過ぎるくらいありますので、遠慮なく武術の授業を選択して欲しいです。神体山でもぜひ守って頂きたいので」
「それは、そうですね……エイデン先生やアドリアーナ先生レベルの騎士に指導して頂けるのは武術面でかなり向上できますので、”今後”私はソフィー様をお守りする立場となるわけですから、武術は必須ですね……」
えっと、神体山で守って欲しいとは言ったけど、さりげに”今後”とか仰ってるし、なんか範囲が広がってるような……
私がそんなことをぼんやりと思っていると、エミール様が私をじっと見つめられた。
エミール様の青い瞳の輝きが、ちょっと揺れて憂いを含みめちゃ美しい……
「どうすれば、私はソフィー様のお心に、もっと強いインパクトを残すことができるでしょう? 私は……」
「授業を始めます」
エミール様の言葉を遮るように、クラウス先生が授業開始の号令をかけられた。
クラウス先生のお顔を見ても、特にいつもと変わった様子はない。
……一瞬、今の話聞かれたかな?とも思ったけど、あのご様子では大丈夫と思う。距離も結構あるしね。
で、エミール様を見ると、なにかメモ書きをされている。
なんだろうって思っていると、私にそのメモを、手渡された。
『私も『カウザアスペクトゥ』で髪を黒くし伊達眼鏡をかけたら、少しはインパクトを残せますでしょうか?』
え? どういうこと??
私はめちゃ驚いてエミール様を見た。エミール様はいつも通り、涼しい顔でお笑いになっている。
これはなんだろ? 探り? 牽制? え、ちょっと待って??
でも、クラウス先生の私に対するお気持ちは、私自身つい最近知ったことだし、なにより王族は、そういったことを気取られないように細心の注意を払っていると、それもつい最近教えてもらったことだ。
なのでエミール様が知ってるはず、ないよね……?
……
まあ、私の考えすぎだろう。
それに、エミール様が知っていようが知らなかろうが、私の取るべき手段はひとつ、しらばっくれることだ。
なので私は気を取り直して、その裏面に返事を書いて、エミール様に渡した。
『インパクトは残せると思いますよ? 悪い意味で』
って私は、”王族相手に冗談言ってはいけません、おわかりですね”ってな感じで、めちゃにっこり微笑んでエミール様を見た。
だけど、エミール様はなにをどう思われたかわからないけど、少し寂しそうに、私に微笑み返された。




