エレガンドゥード山の防御結界に明けられた謎の穴
そして、今度はちょっとまともな話でもしてみようかなって思い、エミール様と一緒に調べに行かれた”謎の穴”についてお伺いしてみた。
すると、やっぱりエミール様の予想通り人為的に作られた穴だとクラウス先生も思われたそうだ。
誰が穴を開けたのか。それは今後調査していくことになるという。
神体山には基本貴族しか入れないし、また他領地の貴族は魔力奉納のときしか神体山には入れない。また、登録されている魔力でどの貴族がどれくらいの時間神体山に滞在していたかわかり、また他領地の貴族は必要以上に滞在できないようになっているので、他領地の人間がエレガンドゥード山に魔力奉納したついでにそのような穴を作るのは、極めて難しいそうだ。
そういうことから穴を開けたのは王都の貴族の可能性が高いということになるけれど、一番そのような穴を開けていそうなのは、やはり上級悪魔だったマケイラ・パーラーだ。
とにかく魔界側としてはあらゆる欲望があればあるほどよいということで、海の大魔物『カリブディス』の召喚に挑戦したのか、または他の理由か、今はまだわからないという。
ちなみにカリブディスとは、飽くなき食欲で大きな渦巻きをつくりだし、大量の海水もろとも飲み込み、その欲求を満たすというめちゃ怖い魔物だ。
そんなのがもし召喚されていたら、大変なことになる。
クラウス先生いわく、カリブディスが召喚された形跡はないようで、上級悪魔にその能力がなかったのか、単なる下見なのか、他に理由があるのかわからないけれど、様々な可能性を考えて、これから調査されるそうだ。
まあ、とにかく今は、カリブディスっていうのが召喚されてなくてホントによかったと、素直に喜んでおこう。
あんなのが召喚されちゃったら、本当いろいろ大変だよね。せっかく海も少しずつ魔力で満たされてきたというのに、次から次へと海ごと魔力を奪っていく……ぜひともそんな魔物の召喚は阻止されなければいけないって思ってしまった。
そして、他の貴族の可能性ももちろん考えて、この状況を王様に報告し、エレガンドゥード山の警戒態勢をさらに強めることになるだろうとも仰った。
ぜひそうして頂きたいと心から思う。エレガンドゥード山を入口としたアドリア海に変なことが起こったり、魔力が満たされない状況になってしまったら、それこそお魚さんが遠のいちゃうもん。
ぜひとも警戒を強めて頂いて、お魚さんを死守して欲しいなって、私は心から思った。
私はそんなことを思いながら、お魚さんの今後の無事を祈りつつ、エミール様ってやっぱスゴイなって感心しつつ、アドリアーナ先生が相変わらず妖艶すぎて目のやり場がなく困ってときどき目を逸らしつつしていると、なんだかんだでようやく無事に帰路についた。
衝撃の?海の調査課外授業からしばらく経って、今日は久しぶりにハンナ様とエイデン先生のファイフの朝練の様子を見に行っていた。
そう、行っていたんだけど、なんかもう、エイデン先生の歌の歌詞がさらに奇想天外になっていて、朝っぱらからめちゃ濃ゆ~い時間を過ごしちゃったんで、もうすでに疲れちゃったな……
隣にいるルシフェルはというとめちゃ思い出し笑いをして、お腹抱えて苦しそうだけど……
そのあとルシフェルは武術の授業、そしてハンナ様はクラスが違うので皆んなそれぞれの場所に向かっていると、クラウス先生とバッタリお会いした。
クラウス先生は別の授業に行かれるところで、途中まで私もご一緒させていただく。そして廊下を歩きながら、クラウス先生から海の課外授業の後日談をお伺いすることとなった。
海の調査課外授業でゲットしたお魚さんたちは、途中で神体山凱旋門での魔力奉納を男子生徒たちにさせつつ、なんとか魔法師団水産部門研究所に無事に運ばれたという。
アドリアーナ先生の妙な『くねくね人魚』で死んでる魚がいたらどうしようかと思ったけど、ちゃんと無事に運ばれて、本当によかったなって思った。
それで、そんなに遠瀬まで行っていないせいか魔物の魚はいなくて、全部食べられる魚だったらしい。
それを聞いて私が思わず目をキラキラさせてしまうと、クラウス先生が仰った。
「今度、また魚を取ってきて、宮廷料理人に何か魚料理を作らせようと思っていますが、ソフィーも来ますか?」
「え? 行っていいんですか?!」
「構いませんよ。恐らくは、宮廷料理長がソフィーに跪くかも知れませんが、それでもよろしければ」
えっと、宮廷料理長さんが跪かれるということは、私が魔法の練習がてら作った料理を、私が発案したと勘違いされているということか。
一応クラウス先生にも、必死の思いで『ウリエルのお告げ』でゴリ押ししてるんで、もちろん宮廷料理長にもその路線で突き進むつもりだけど、魚料理でも『ウリエルのお告げ』があると思われても困っちゃうなあ。
前世の調理実習で魚料理と言えば”鮭のムニエル”を作ったけれど、正直ムニエルなんてこっちの世界じゃ珍しい料理でも何でもないはずだし、ご期待には添えられないと思うのよね。
「……あの、私、魚がとても好きなので、今回は食べることに専念したいと申しますか……厨房には寄らなくても構わないのですけど……」
と、しどろもどろ言うと、クラウス先生は少々驚かれたものの、にっこり微笑まれた。
「それはもちろん構いませんよ。初めての魚なので、ソフィーなら魔法の練習がてらまた何か作るのではと、勝手に考えてしまいましたが……でも、今回は食べるだけが良いのですね? 分かりました。では、久しく食べられなかった魚料理を一緒に楽しみましょう」
おお、異世界に来て一年半余り、いよいよお魚さんにありつけるのか!
思わずさらに目をキラキラさせちゃうよね。
で、クラウス先生はめちゃお優しいので、そんな私を見て頭をぽんぽんして、
「待っていて下さいね」
と仰った。
その微笑みが相変わらずカッコよく、また、いつにも増して神々しくも見え、何だか拝みたい気持ちになったけれど、うっと堪え、「楽しみにしています」と、笑顔でお返事した。
そんなことがあり、ルシフェルとハンナ様とご一緒しているランチの時間は、食べながらお魚さんのことを思い出して、ニヤニヤしちゃう変な奴になっていた。
でもランチの話題は今朝のエイデン先生の朝練で、相変わらず衝撃?で意味不明な朝練は、いつも通りちょっと疲れるよねとか、でもやっぱり面白いよねとか言い合って、楽しく皆んなでランチを食べる。
そして、ランチを食べ終わってから私たちは、それぞれの授業に向かうべく、ハンナ様とは途中で別れ、ルシフェルと一緒に教室に戻って来た。
すると、すぐにジョルジュ先も教室に入って来られたので、私はすぐにルシフェルと一緒に席に着くと、私の隣にはすかさずエミール様がやって来られた。
「ソフィー様。少し、お疲れですか……?」
そう仰るエミール様を少し見たあと、私はルシフェルと顔を見合わせ、エイデン先生の朝練のことを思い出し、思わず苦笑いしてしまった。
「おや、どうやら疲れは疲れでも、笑い疲れたといったところでしょうか? 楽しそうで羨ましい、私もその場にいたかった……」
そう仰って苦笑いされるエミール様は、相変わらずお美しかった。
ちなみにエミール様は、毎回私の近くにいらっしゃるわけではない。いろんな方と分け隔てなく話されて、授業によって、自分の興味の赴く方と一緒にいたり、ひとりでいたりされている。
今はルーン文字の授業なので、エミール様的にはきっと私のそばにいたかったのだろうなあと、容易に推察できる。一番最初にお会いしたときも『古の魔術』がなんとか、仰ってたもんね。
ルシフェルも、ときどきエミール様が私の近くにいらっしゃることに関しては、なにも言わない。他領地の生徒だからとか、将来私の側近になりたがっているとか関係なく、他の男子と同じように接していると思う。
まあ、エミール様はホント研究者肌なのか、ご自身の興味の向くことにしか行動を起こされないんで、そういうのをルシフェルも、見てたら分かるからなんじゃないかな。
ルシフェルは研究者肌ではないけれど、でも同じように自分の興味を持つほうへ動きたがるところあるんで、きっと気持ちがわかるのだろう。
「今朝、私たちは灼熱地獄にいたのですが、エミール様を見ていたら、それとは真逆のオアシスに来たような爽やかさを感じられます」
って私が言うと、ルシフェルも同意して、
「今日は一段と熱かったからな。拳上げながら、『耐えろ、耐えるんだ』からの『ハレルヤ』だし。マジ意味分かんねーって思った。俺、また遊びに行こ」
そう言って、クククって笑い始めた。
「その仰りようは、エイデン先生ですね? 今日のソフィー様もご機嫌麗しく何よりです」
エミール様の仰りように「麗しいというか……」と少々困惑しつつも、三人で笑い合った。




