アドリアーナ先生とエイデン先生、王立学院教師採用時のこぼれ話
反対側の山道も、見た目はほとんど変わらない。山道の両脇にある山林には、ヒノキとハスノハグサが繁茂している。なんか、来た道を帰ってきてるんじゃないかと思うほどだ。
でも、少し歩いて行くと、だんだんと海が見えて来た。
……海面が陽の光に照らされて、キラキラしてめちゃキレイ……
海の青さはとても澄んでいて、陽の光や泡立つ波のも良い感じに交じり合って、本当に美しい。で、真っ青って感じでもないのが、さらにとても神秘的だなあとか思っていると、目の前にいらっしゃるアドリアーナ先生の後ろ姿が目に入った。
風になびく、薄い青色をしたゆるふわロングヘア、まんま目の前に広がる美しい海とめちゃリンクしている。
アドリアーナ先生の髪も、本当キレイだなあ……
って、めっちゃ見惚れていたら、クラウス先生が海の名前を教えてくれた。
「アドリア海が、見えてきましたね」
え、アドリア海? めっちゃアドリアーナ先生みたいじゃないですか!?
私は早速クラウス先生に話かけてみる。
「アドリア海って名前、なんかアドリアーナ先生みたいって思っちゃいました。髪色がまんま、海の色です」
「仰る通りですね。恐らくはアドリアーナ先生のご両親が、生まれたばかりのアドリアーナ先生の髪色を見て、アドリアーナと名付けられたのでしょうね」
「おまけに目の色も珊瑚のような赤い色で、アドリアーナ先生は、海の女神みたい……いや、女神ではないか、あれはその、なんて言いましょうか……」
「全ての生命は海から生まれたといいますから、それほどの生命力を……まあ、アドリアーナ先生からは感じると、言えなくもないでしょうか……」
私たちは、めちゃ言葉濁して、苦笑いしあった。
で、なんだかちょっと気まずい雰囲気なので、話を変えてみることにする。
「ところでアドリアーナ先生は、めちゃ剣の達人で、大天使から聖具を賜るほどの実力者なのですけれど、騎士団を志望されたり、または騎士団のほうからスカウトがあったりとかは、なかったのでしょうか?」
クラウス先生は、先ほどからの苦笑いを崩されないまま教えて下さった。
「私が王立学院に赴任する時に、各先生方の身上書を念のために確認しましたが、アドリアーナ先生たっての希望で王立学院の教師になられています。志望動機には『力みなぎる若い男子を育て、はぐくむのがあたくしの使命』、とありました」
……なんか、完全にご自身の嗜好と趣味だけなんじゃないかって、思わずにはいられないんだけど……まあ、物は言いようなのだろうか。
「また、騎士団のスカウト権限は騎士団長であるボールドウィン侯爵がお持ちですが、アドリアーナ先生の剣の腕は認めるものの、騎士団での活かし方が分からないとの事で、特にスカウトも考えられなかったそうです」
”活かし方が分からない”ってめっちゃウケるって内心思っちゃって、私はちょっと声を殺して笑ってしまった。
「ちなみにエイデン先生も似たような感じなんですよ。王立学院の志望動機には『青春こそ我が人生! 教師と生徒という間柄、そして王立学院という学び舎は、いつの世も青春を生み出す舞台! 若人が青春を通して、勇気と希望に満ち溢れた心をはぐくみ……さあ顔を上げろ! 振り向くな! 拳を高く突き上げたまえ! 若人たちに輝く未来へ羽ばたく決意をさせるのが、正に私の使命なのだ!』とありました」
……相変わらず暑苦しいったらないな……あと志望動機もホント、アドリアーナ先生と似ているなって思った。完全に志望動機が、自分の趣味嗜好じゃん。
一応王立学院では、進路指導のときに本人の希望を聞き、どこに就職するか、進路指導の先生と、本人の希望就職先、そして本人と入念に話あうことになっているらしいんだけど、でも、この進路指導を担当された先生、あまりに特異で突拍子もない志望動機に、本人の希望を書面に書き記すの、ものすごい苦行だったに違いないな。
「で、騎士団のスカウト権限を持つ養父様は、エイデン先生に対しても、『武術の腕は認めるものの、騎士団での活かし方が分からない』と、仰ったのでしょうか?」
「まさに、仰る通りですね」
思わず私たちは、まだ苦笑いをしてしまった。
ハッキリ言って私、お二人とも性格が個性的過ぎて、教師としてもどうかと思わずにはいられないんだけどさ。
でもとにかく武術のレベルが聖具を賜るほどの腕前なので、そこを買われたのだろうと思う。
この魔力枯渇で世界存亡の危機に瀕し、貴族も少なくなってきている世の中で、背に腹は代えられない部分もあったんだろう。お二人とも、個性が突飛なだけで、悪い人なわけじゃないからね。
それに、私は武術に関してはよくわかんないところはあるけど、でもあのレベルの先生に毎日武術を教わってたら、やっぱり伸びるんだろうなって、なんとなくわかる。
まあ、アドリアーナ先生に変に目をつけられたら、指導がおかしな方向へ行くので、それはそれで大変そうではあるけれど、でもまたそれが神体山解放以前の世界を地道に救っていらっしゃったとなれば、やっぱりアドリアーナ先生を教師にしたのは正解なんだろうな。
ちなみに、アドリアーナ先生も男子生徒全員に興味がおありなのではなく、特別興味を持たれない生徒や、武術を専攻している女子生徒に対しては、普通によい先生なのだという。ルーク兄様が仰ってた。
で、毎回興味がおありの男子生徒をローテーションで回して、まあ、いろいろ指導を凝られるそうだ……
ちなみに、アドリアーナ先生が興味を持つ持たないの判断基準は、ヤル気があり、かつご自身の”攻撃”に対し、魔力の器がはちきれんばかりになる生徒が、好ましいという。
で、そうなるとほとんどの男子生徒はアドリアーナ先生の”好みの男子”ということになるのだけど、ルーク兄様のように元々魔力が高くて、魔力の器が大きい生徒に対しては、すぐに興味を持たれなくなるそうだ。
……ルーク兄様、ホント命拾いされたな……
ちなみにルシフェルも、ルーク兄様と似たような感じで魔力が高く、あと最初に”酔剣”披露したりしてヤル気がないのをめちゃアピールしたらしいので、ルーク兄様よりもさらに興味を持たれることなく、普通に武術の授業を受けているという。でも、それだけでは退屈なようで、アドリアーナ先生の”指導”に耐えられず、正座させられている生徒たちを見て、指差して大笑いしているそうだ。
……えっと、そこはさすがに笑っちゃいけないとは思うんだけどな、ルシフェル……
まあ、男子生徒にも色々いて、アドリアーナ先生の指導に疲労困憊の男子もいれば、楽しくて仕方がない男子もいるようなので、王立学院が先生として認めている以上、素人の私があれこれ心配することはないのかも知れないか……
などとぼんやりと考えていると、私たちは山道の出口に近づいていた。
出口には入口と同様大きな凱旋門があり、近づくにつれ、大きくなってきて、それと同時に凱旋門の向こうに広がる海も、段々と視界に広がってきた。
凱旋門に近づくと入口と同じように転移陣があった。
「クラウス先生、ここにも転移陣がありますが、ここに直接転移してくることは、可能なのでしょうか?」
「いいえ、できません。他の神体山でも同じ作りになっているのですが、他の神体山は海続きではなく他領地と繋がっているため、王都トリアスオービスの反対側にある転移陣は『神の御意志』で許可を得て、神体山に魔力奉納する他領地の貴族しか入って来れない仕様になっています。また、転移してきた他領地の貴族が、制限時間内に転移陣を使って自領に戻らなければ、王都への不法侵入、並びに反逆罪と見なされ、処罰されます。このように、王都の外側に位置する転移陣は、守りが固くなっているんですよ」
「それは致し方ないとはいえ、とても厳しいですね……でもまあ、神様と王様を怒らせたら、自領の祠に今後魔力奉納できなくなるんで、滅多なことする貴族も、いないとは思いますが……」
「通常ならそうなのですが、人間危機に陥ると何を考えるか分かりませんので、念には念を、ですね」
そうか、だったら仕方ないよね……正直、この海側に速攻転移できたら、海までの道のりも近くてめちゃいいじゃん? って思ったんだけど、そういうわけにもいかなそうだ。
まあ、私が漁猟するわけでもないんで、漁猟再開されたら、プロの皆さんにはぜひ頑張って頂きたいなと思った。
そして、凱旋門をくぐると、目の前には陽に照らされ輝く海が、視界いっぱいに広がっていた。
めちゃキラキラして本当にキレイ……
水平線のところなんか、光輝く宝石が、横一面に広がり散らばってるみたいだよ……
なんか、あんまりにも眩しくて、霞がかって、目に沁みちゃうな……
目の前は、この土地の高さを維持したまま道が繋がっていて、船の係留場があるという。そしてその左右は、土地がなだらかに降下していき、砂浜が広がっている。砂浜に波打つ音も、本当に心地いい。海に来たんだなって思う。
でも、引き潮なのか魔力が足りてないからか分からないけれど、砂浜部分がやっぱり多いな、とは思った。
私たちはそのまま、船の係留場まで進む。
左右を見ると、遠目からでは分からなかったけれど、海藻、貝、小さなカニだけでなく、死んでいる魚もところどころにあった。この様子から見て、引き潮なのではなく魔力枯渇が原因なんだなってやっぱり思った。
さらに進んで行くと、海と砂浜の境目から海となり、しばらく進むと船の係留場へと着いた。
クラウス先生が、険しい顔をされながら、色々目視で確認されている。その間、私たちは待機だ。
でも暇なんで、ついでに私もちょっと、かがんで見てみる。
海が透き通っていて本当キレイ……けっこうこの辺りはもう深いと思うんだけど、底の方まで見えそうなほどキレイだ。海藻がゆらゆらと揺れている。なんだかちょっと気持ちよさそう。
そして、魚も何匹か目で確認できた。よかった、ちゃんと生きてる魚もいるんだな。
私はほっと胸を撫で下ろし、立ち上がると、クラウス先生が色々と指示を出し始められた。




