七つの神体山『七ツ山』とかいろいろ
「私たちが住む王都トリアスオービスは、不思議なことに正七角形なんです」
クラウス先生は、執務机に置きっぱなしにしていた世界地図を持ってきて、私たちがお茶しながら勉強しているテーブルの上に広げられた。
ドミは、お茶を手際よく片付けつつ、世界地図をチラッと見て「私たちが住んでいるところが正七角形って不思議ですね……」とか、ぶつぶつ言っている。
本当に不思議と思う。他の領地は全然普通な感じなのに、王都だけ綺麗な正七角形だ。何か意味があるのかな?
創造主たる神様がデザインされて、この王都が創られたのだと思うけれど、神様の御心をおもんばかるのは、なかなか難しいな。
でも、今は陸だけじゃなく海も魔力枯渇で瘦せ細っているので、この地図よりももっと陸地が多いそうだ。海辺にある領地は近海も魔力を満たさなければならないって朝に教えてもらったけど、今は、実はその辺りまで干上がっている状態で、遠海まで行けば魚はいるんだけど、魔力を自領で満たしたところしか漁猟してはいけない決まりになっているし、あと何より王命も出ているんで、今は魚を獲ってはいけないそうだ。
ということはつまり、今はお魚さん食べられないのか……
そして、私のアニメの勘的に、なんかその海に突出している神体山を解放するのが、一番お魚さんへの近道なフラグな気がするので、ぜひともここに来たいなあ、改めて願掛けを、心を込めてしなければいけないなって、思った。
それからクラウス先生は、七つある神体山は全部含めて『七ツ山』という総称があり、神体山にもひとつずつ名前があるので、教えて下さった。
まず、私が一昨日解放した神体山はイラエ山、ちょうど陸地と海の境目にある二つの神体山のうちのひとつで、南側にある神体山がイラエ山という名前らしい。
でも、転生直後にイラエ山近くの平民街を歩いたけど、特に潮の香りはしなかったな。
神体山を挟んで海とは真逆の位置にあるからか、それとも魔力枯渇が深刻で、めちゃ干上がってるからだろうか。
もし魔力枯渇が原因なら、海の干上がりは相当深刻なんだろうな。
お魚さんが少し遠のいた気がして、ちょっと残念に思った。
そしてその北側隣で海に突出している神体山はエレガンドゥード山、ちなみに海の名前はアドリア海という。
そしてその北側隣りで、陸地と海の境目にある二つの神体山のうちのもうひとつの北側のほうがイルスガウディム山、そしてそのまま反時計回りに一番北側にある神体山がサナモニア山、南下していってヌンティシオニス山、ラヴィンクルム山、ベラスター山と続いていく。
王立学院って筆記試験やっぱあるよね、これ、覚えるの大変そうだな……
神体山の名前、世界地図に書いてある領地の名前、どれも取っつきにくい名前ばかりで、地理の試験は大変そうだなって思った。
まあ、今から少しずつ覚えることにしよう。とりま私がうっかり解放しちゃった神体山の名前は、イラエ山だよね、これは覚えやすいな。よし、こうやってひとつずつ覚えていこう。
ちなみに、先ほどクラウス先生、ルーク兄様とルシフェル連れてイラエ山に軽い偵察に行かれたということで、魔力奉納の現状を尋ねてみた。
偵察に行ったときにも、既に”神の御意思”により、順番に貴族たちが来ていて、魔力奉納、順調だという。
今はまだ王都の貴族が呼ばれてイラエ山への魔力奉納が続いているけど、もう少ししたら他領にも順番が回っていくだろうとのことだった。
ちなみに岩の精霊ウルルが元気に働いていて、魔力奉納に来た貴族に対してガイドっぽいことしたり、”神の御意思”に反して一枚岩に来て魔力奉納しようとした貴族に対しては、追い返したり、王様にチクったりしているという。
王様にチクられたりしたらイヤだから、勝手に魔力奉納とかは絶対しないけど、ウルルのガイド、可愛いだろうな。
「あの、質問なんですが、私は神体山解放だけでなく、魔力奉納のためだけに神体山に行くことってありますか?」
私はウルルに会いたいなって思ったので、クラウス先生に尋ねてみたら、
「それはもちろんです。”神の御意思”がありましたら一緒に参りましょう」
と仰ってくれた。楽しみにしてようと思う。
あと、許可なく一枚岩から魔力奉納しようとすれば、ウルルにチクられるけど、神体山に猟とか、魔法の練習とか、遊びに行くとか、魔力奉納と関係ないことをするのであれば、ウルルにチクられることはないとも教えてくれた。
ところで、神体山解放後の魔力奉納の感じは何となく分かったけど、そう言えば植物はどうなんだろう? 仮にも神体山だし、生息している木々って結構重要な気がして、ちょっと訊いてみたいと思った。
すると、クラウス先生は、少し神妙な面持ちになられて、仰った。
悪魔が神体山を乗っ取っる理由は、色々あるけれど、その内のひとつに神体山の正常な魔力エネルギーを貪汚エネルギーに変えていき、魔物を大量発生させるためだという。
そのときに、神体山の土地が貪汚に汚染され、それと同時に植物の根っこも貪汚に汚染され、腐ってしまう植物が出てくるそうだ。
で、先ほどルーク兄様とルシフェルを連れて軽い偵察に行ったとき、植物のほうも見てきたんだけど、年中緑であるはずの常緑樹なのに枯れているものもあったり、酷いものは根っこが腐り果て倒木している木々も少しあったそうだ。
これは、神体山が正常な魔力で満たされれば、徐々にまた元に戻るという。でも、かなり時間はかかるだろうと、クラウス先生は仰った。
つまり、貪汚エネルギーで神体山が満たされ始めると、代わりに正常な魔力エネルギーが減ってくるんで、それゆえ魔力枯渇にも繋がる。
おまけに神体山を悪魔に乗っ取られた状態のままでは、魔力枯渇を補うための魔力奉納ができない。(凱旋門からの非効率な魔力奉納を除いて)
そして木々は腐るは、魔物も大量発生させるはで、本当に、踏んだり蹴ったりな状態なのだそうだ。
そう言えば一昨日、神体山を解放しようと、凱旋門から一枚岩に向かっていくとき、結構魔物、私に襲って来てたもんな。
でも、私が歩いていたその光に照らされた道は、両サイドに透明の壁があるかのように、魔物を跳ね飛ばしていたけれど。あれは、ウリエル効果なのかな?
今のこの神体山を悪魔に乗っ取られた現状は、貪汚が貪汚を呼び、貪汚が蔓延、そして魔力枯渇、魔力枯渇はさらに貪汚を呼び、まさに負の連鎖、この酷い状態がさらに加速していくので、本当に何とかしなければならない。
とは言っても今は、ひとつだけだけどイラエ山を取り返し、七ツ山全部を乗っ取られていたことを思えば事態は好転したと言えるし、やっと形勢逆転の布石というか、状況が変わりつつあると言えるので、これからが大変だけど、でも、世界のためにはやるしかなく、王族を筆頭に周りにいる側近の皆さんたちも、強い決意と共に気を引き締めているという。
正直私にしてみたら、”世界のために”とか、考えたら身が縮こまって仕方ないけど、まあ、きっと私は、そんなに深く考えずとも、クラウス先生の言う通りにして、大天使ウリエルの光の導きに従っていればいいんじゃないかな?
だって、そんな大そうなこと、考えられないよね? 十三歳なんだから……あ、違った、こっちではまだ十二歳だもんね。
とにかく私は、言われたことを一所懸命頑張ろうって、そう思った。
あと、さらにまた疑問が湧いて、じゃあいったいいつから神体山は七大悪魔に乗っ取られていたのだろうかと不思議に思い、クラウス先生に尋ねてみたら、詳しい時期は分からないけれど、ご自身が七歳で魔力登録しなければならないときに、神体山を使えず、神体山の凱旋門のところでしか魔力登録できなかったので、少なくともそれ以前から、神体山は全部悪魔に乗っ取られていたと教えてくれた。
そんなに長い年月乗っ取られていたなんて、本当に驚きだ。
元々ある程度正常な魔力は蓄えていただろうし、効率悪いとはいえ、凱旋門から細々魔力供給できたから、一応今まで何とかなったけど、でも良くここまで持ちこたえたなって、正直思った。
ちなみに、悪魔に乗っ取られる前はどのように神体山を守っていたかというと、ひとつの神体山は七大天使のひとりが担当していて、七大天使による防御結界と、神体山に満たされた魔力によって王族が施す防御結界で通常は守られていたという。
でも、七大天使は基本見守るだけっていうスタイルらしく、七大悪魔のように常時そこに居座り続けるわけではなかった。
なので悪魔たちは、人間に汚い心を植え付けたり、唆したりして貪汚を生み出し、その人間たちの貪汚エネルギーによって、大天使と王族が張った防御結界は、徐々に蝕まれ、脆弱となり、そこを突かれてついに、七大悪魔に乗っ取られてしまったという。
貪汚は、木々を腐らせたり、魔物を発生させるし、また人間も貪汚に蝕まれ始めると、魔界のエネルギー源となるし、悪魔にも乗っ取られやすくなる。また人間の魂は悪魔の食糧なので、人間を唆して貪汚へ落とすのは、悪魔にとっては一石二鳥ということだ。
もっと言うと、貪汚に蝕まれている人間は、悪魔さながら他の人間を陥れにかかり、貪汚に引きずり落とすので、悪魔にとっては一石二鳥どころか、三鳥、四鳥で、美味しすぎるのだ。
本来なら、人間が安易に貪汚に落ちないようにと、貴族ならば各家庭で幼少時から、貴族は神と王族に仕え、貪汚に落ちないようしっかり言い聞かせて育てられるし、また貴族は王立学院に必ず入学するので、王立学院に入ると、王立学院でそのような教育が施される。
では平民はどうなっているのかというと、平民は学校に行かないので、その王立学院の役割は、正教会が負っているらしい。
教会って聞くと、なあんかイヤな感じになる。きっと変なカルト宗教の猟奇的な犯罪ニュースや、政治家との汚い金繋がりニュースとか見たり、アニメの設定でも怖いのが多かったりするからかも知れない。
平民は、貴族が通う王立学院のような学校に通うことがなく、戸籍もなければ魔力も持たないので、神とか、魔力を持つ王や貴族とは、基本縁のない生活をしている。
でも実際、この世界を創造したのは神様だし、魔力エネルギーで土地を満たして世界を安定させているのは魔力を持つ貴族、そして、魔力はもちろん、神と貴族を繋ぐ王族がいてこその世界の安定なので、世界の九割にもなる平民に、王族と貴族がいることの有難みや存在価値について教育をし、創造主たる神の尊さを広め、平民に対して布教活動を行うのが、正教会の一番の仕事となっている。
でも、そうはなってはいるんだけど、でもだからこそ、悪魔が狙うのは正教会で、正教会に悪魔の手が伸び、正教会から平民へ貪汚が広まっていったり、また、正教会はその立場上、平民ではありながらも貴族とも繋がっていて、酷い場合は貴族にまで、貪汚の悪影響が広がっている可能性もあるらしい。
もちろん、そうはなっていない、悪魔の誘惑にも乗せられずに貪汚に蝕まれなくて済んでいる正教会もある。
元々正教会には、本来ならば人々のために奉仕の気持ちを持って、神に尽くし、人々のために働きたいと願う、志高い人々が、聖職者となり教会で活動するので、そういう人たちは、まあ、元々聖職者になるときに俗世の欲を捨ててるというのもあり、悪魔の誘惑を一蹴し、事なきを得る場合が多い。
私の勝手なイメージだけど、そういう人たちは前世でいうところの、何の見返りも求めず、善意で進んでボランティアに参加するような、そんな人たちと重なって見える。
前世でも自然災害とかで被災地の映像がテレビで流れたとき、必ずボランティアの人、映ってるもんね。何のお金にもならないのにさ、人のために頑張れる、善意の塊みたいな人、そういう人が結構どこにでもいるということに、人間って捨てたもんじゃないのかもって、一瞬だけ頭に過る。まあ、過るだけだけどね。私のことは誰も助けに来てくれないうちに、私、死んじゃったし。
でも、中にはそういう高い志を持って聖職者になった人でさえも、悪魔の誘惑に負けてしまって、貪汚に心蝕まれ、悪魔化か悪魔のエサ化まで、片足突っ込んでる聖職者もいるという。
また、酷いケースでは、最初から高い志も何も全くなくて、欲深く、お布施目当ての、貴族と繋がりお金目当ての人間が、聖職者を目指すというのもやっぱりあって、そういう奴はちょっとつついたら、すぐに欲望を刺激されてあっさり貪汚落ちするので、そんな感じで貪汚に汚染されてしまっている正教会も、残念ながらあるそうだ。
そして、その汚染された正教会と貴族に繋がりがあるのかどうか、色々探りを入れる中で、証拠はまだ上がってないけれど、この酷い惨状を見ると、貴族にも影響が出始めている領地もあるのではと、懸念されている。
調べが難航するのには理由があって、悪魔が人間に憑依、擬態したとき、見た目人間にそっくりなんで、誰にも見破れないからだ。調べようとしても、どこに悪魔が紛れ込んでいるか分からない中で、下手に動けないらしい。
善人面したリアル本物の悪魔がこの世界にはいるのか、マジでシャレになんないなって思った。
そうやって世界中の多くの人間の心に、徐々に貪汚が浸透していって、神体山を全部奪われ、世界は危機に瀕しているので、一刻も早くこの状況を打開しなければならないと、王様を筆頭に司令部の中枢にいる側近の貴族の皆さまも、本当に必死なのだ。
そう言えば、ウリエルが私にモーゼの杖を授けると言ったとき、”神は……まだ、この世界に期待している”とか言ってたっけ。
個人的に、『まだ』のところが非常に気になった。
本当に世界は、存亡の危機だったのかも知れない。
神体山の魔力枯渇問題だけじゃない、悪魔のこと、正教会のこと、平民とひょっとしたら貴族にまで及ぶ貪汚の影響、世界存亡の危機……
これはもうなんか、どえらいところに転生してきてしまったなあ……
でもそれでも、前世の私の境遇よりも、現世のほうが遥かにマシだと、断言できる自分がいる。凄く悲しいけど。
そりゃあ、殴られ蹴られするのを、蹲って耐えて、死ぬのを待つだけの人生なら、今のほうが、断然マシよね。
っていうか、ひょっとしたら、こういう現世のような状況でもまだマシと思える私だから、転生させられたとか、そういうのもあったりして? 分かんないけど、”神の御意思”的な?
前世の世界で”神の御意思”が通用するのかは、知らないけどれど。
そして例によって例のごとく、やっぱり話が逸れてしまったので、授業は王都トリアスオービスの続きになった。
王都トリアスオービスのど真ん中には王宮があり、それを取り囲むように貴族街、貴族の人口は全体の一割程度、さらにそれを取り囲むように平民街があるそうだ。平民の人口は先ほどのお話にもあったように九割程度、そして、王宮、貴族街、平民街には高い魔法防御壁で仕切られているという。
ちなみに県境には、もっと高い魔法防御壁で仕切られていて、他領の者が勝手に入ったりはできないようになっている。
移動方法は、王宮と貴族街は転移陣(王族の許可必須)、王宮と平民街が直接行き来できる手段はない。
貴族街と平民街は、基本正教会経由で移動するんだけど、王都では、正教会ではなく代わりに大聖堂があるので、王都の貴族と平民は大聖堂から行き来するらしい。
また、他領地も大体同じような配置になっていて、中央に領主の城、その周りに貴族街、そしてその周りに平民街で、領主と貴族は転移陣で行き来して、貴族と平民は正教会を介して行き来できるようになっている。
……なるほど。正教会が平民にも貴族にも近くいられる理由が分かった。
いくら魔力がないからとはいえ、人口の九割とも言える平民を放ったらかしにすることは当然できない。農業や商業、その他なんでも平民が携わってる分野はたくさんあるに違いないし、また平民も、お金持ってる貴族相手に商売するだろう。こりゃあ正教会の重要性が高まるのは必然と思う。そしてそこを悪魔に狙われたら、ちょっと痛いどころでは済まないな。影響力が大きくて、貪汚が広がるのはあっという間かも知れない。
もちろん王族やその側近など司令部の中枢にいる方々は、当然そこを何とかしたいと思っていらして、他領地の貪汚に汚染された可能性が高いと思われる正教会には、王様の指揮のもと、他領地の貴族が、人間に憑依や擬態した悪魔に気取られないように慎重に調査しているという。
と同時に、王都は正教会ではなく大聖堂だけど、注意深く見守りつつ、まずは全部の神体山解放を目指し、正常な魔力エネルギーで土地を満たすことができるよう、全力で取り組んでいくそうだ。
そしてその全力で取り組んでいくメンバーの中に、クラウス先生も、私も入っている。
深刻な話が本当にいっぱい過ぎて、深く考えても全く全然よく分かんないので、とりあえず私は、求められたことを一所懸命頑張ろうって思った。




