エイデン先生の、おもしろ朝練
エイデン先生のお部屋は、クラウス先生の個人研究室とは全く違う感じだった。
本とかはあまりなくて、でも、魔術具はある。でもその魔術具もなんていうか、筋肉増強トレーニング用かな?って感じのや、筋肉疲労回復マッサージ用かな?っていうのばっかりだ。
フィジカルケアには念を入れてらっしゃるのかも知れないな。まあ、武術ってホント、体が資本だもんね。
で、エイデン先生は私たちにとりあえず、椅子に座るようにすすめられ、仰った。
「昨年度、朝礼で私が披露した自作曲を聞き、感動に打ちひしがれ、湧き起こる情熱を押さえきれず、ファイフで伴奏がしたいと申し出るという実に見どころがある生徒……それは、君かね!?」
と満面の笑みでエイデン先生が私を、”ビシィっ”ってな感じで、力強く指を差された。
え、待って、なんのことですか? 感動に打ちひしがれ……??
私は思わずキョロキョロすると、ルシフェルは、
「あれ、そこまでは言ってねーけどな、俺……」
って小さく呟いている。
で、私はというと、とにかく必死に首をぶんぶんと、めちゃちぎれるかと思うくらいに横に振った。
すると、ハンナ様がその場を取り繕おうとされたのか、めっちゃ真っ赤なお顔をされ俯かれ、そして、
「そ、それは、わたくしです……」
と、めちゃ小声で仰った。
は、ハンナ様、マジゴメンね! っていうか、どういう経緯でエイデン先生があんなこと仰ってるのか、ルシフェルが大袈裟に言ったのか、エイデン先生が脳内で勝手にイメージ膨らませて変に変換されたのか、私にはわかんないけど、とりまあとで、ルシフェルには事情を聞いてみるね!
でも、さっきルシフェルが『そこまでは言ってねーけどな、俺』って言ってたんで、やっぱエイデン先生が勝手に脳内変換の可能性が高いかな?
すると、エイデン先生の顔がさらに輝いて、ハンナ様の両肩を両手で揺さぶられた。
「君は! なんと音楽性の溢れる感受性豊かな女子なのか!? 今まで、私の音楽に聞き惚れる者は多くいたが、伴奏までしたいと言ってきたのは君が初めてだ! 実に素晴らしい!!」
え、エイデン先生、それ以上ハンナ様を揺さぶるのは、もうやめてあげて下さい、脳震盪起こす寸前ですよ??
ルシフェルと私が必死にエイデン先生を止めると、さすがにエイデン先生も、ハッと気づかれたようだ。
「おお、そう言えば君は、武術の授業では見たことがないな! すまなかった! 名は、なんという!?」
ハンナ様は、クラクラする頭を押さえられつつ、「ハンナ・フルーリーです……」と小声で仰った。
「ハンナ君か! その見事な心意気、感動した! 私もいっぱしの男だ! 君の申し出に受けて立とうではないか! さあ、遠慮はいらない! ファイフを出したまえ!!」
……もう、本当に暑苦しいなあ……朝からこれだもん……このテンションが午後まで持つのか本当に不思議なんだけど、でもいつもこんな調子だから、持つんだろうな……こんなテンションで朝から夕方まで……もうホント、驚くしかないなあ……
と、私がちょっぴり呆れていると、ルシフェルはクククって笑いながら、
「こんなんに、”いっぱしの男”だとか”受けて立つ”とか、なんのこっちゃ」
と、小声で呟いていた。
ハンナ様はというと、緊張されているのか始終おどおどされているので、私は横から「エイデン先生はね、個性的なだけで、悪い人じゃないんだよ」と、ちょっとアドバイスしてみた。
私は神体山解放でエイデン先生のことを少しは顔見知りだけど、武術も取ってないハンナ様にとっては、こんなに近くで接するのは初めてなんじゃないかな?
で、見た目がめっちゃデカくてちょー筋骨隆々で、声めちゃデカいし、性格豪快だし、まあ、ちょっと驚くというか、ぶっちゃけ引いちゃうよね。
ファイフを出されるハンナ様に、私は胸の前で両手を握り、「大丈夫」と言って頷くと、ハンナ様も力強く私を見て、頷かれた。
「まずはハンナ君が、感動し、思い込み上げ、胸が熱くなり、心震え、魂が揺さぶられた昨年末の歌から参ろうか!?」
……えっと、この雰囲気から察するに、きっとルシフェルに責任はなさそうだな。
エイデン先生が勝手に妄想を膨らませていかれたんだと思う。だって、だんだんと言い回しが、酷くなってきてるもん。
でも、ハンナ様はエイデン先生の言い回しには特に気になさらず、手に持っていたファイフを口元に持っていかれ、スタンバイに入られた。
そのハンナ様のご様子をご覧になったエイデン先生、早速めちゃ気持ちよく歌い始められた。
「未来~輝く~若人よ~振り向くな~振り向くなよ~その胸に~熱い炎~心を燃やせ~ハレルヤ~っ! ハ~レ~ル~ヤ~!!」
な、何度聞いても恥ずかしいな、この歌詞? それにしても、エイデン先生、よく覚えてらっしゃるな?
私はめちゃ戸惑っていると、ルシフェルは声を殺して笑っている。
ルシフェルは、いつも楽しい時はお腹抱えて指差して笑うんだけど、さすがに目の前に対象者がいらっしゃるときは、それはしないらしい。
……でも、ハンナ様の伴奏がつくと、めちゃ美しくかつ凛とした曲に聞こえてくるから、不思議じゃない?
歌詞を無視してメロディーと伴奏だけに集中してみると、なんともまあ、なかなかの名曲に聞こえてくるじゃないですか?
私はめちゃ驚いてハンナ様を見ると、それはそれは美しい表情で、ファイフを演奏されている。
でもさ、こういうの、ぱっと聞いてすぐさま伴奏付けられるのって、やっぱり才能よね……凄いな、ハンナ様……
真剣に演奏していらっしゃるハンナ様に、私は声かけられない、邪魔してはならない、今はただハンナ様の名演奏に耳を傾けておこう……
そしてエイデン先生はというと、超至極ご満悦といった感じで、さらに今度はなんか両手とか広げ始めちゃって、めちゃ伸びやかに歌われた。
「未来~輝く~若人よ~過ぎ去りし~過去は見るな~前を向け~拳上げろ~胸ときめかせ~ハレルヤ~っ! ハ~レ~ル~ヤ~!!」
……どうやらこの曲は、二番もあるようだ。
私がちょっと驚いていると、ルシフェルが小声で、
「この曲のどこに、”胸ときめき”ポイントがあるんだよ!?」
とか呟いて、また声を殺して笑っている。
確かにそうだよね、胸ときめきポイントは全くない。面白ポイントばっかりだ。
まあ、私は楽しいからいいけれど……でも、肝心のハンナ様はどうかな……?
私はハンナ様のほうを見る。
すると、ハンナ様のめちゃ可愛らしいピンクのボブヘアが、音楽に共鳴しているかのように、少しふんわりと揺らいでいる。
……わあ、これはいったいどういう現象なのだろう?
エイデン先生は、とにかく光の魔力だけは異常に強いし、とにかく異常に前向きなんで、内向き志向のハンナ様に、なにか良い影響があればいいんだけどな……
そして、お二人の歌とファイフがひと段落したので、私はお二人にめちゃ拍手喝采した。
「ハンナ様! 本当に素晴らしい音色でしたよ! 私、本当に感動致しました! エイデン先生も、ハンナ様のファイフが伴奏に入ると、美声が際立ちますね? とっても素晴らしいです!」
って、めっちゃ褒めちぎった。
まあ、エイデン先生にはこれからもハンナ様の魔力向上に付き合って頂きたいと思っていたので、良かろうが悪かろうが拍手してめちゃ褒めちぎろうとは思っていたんだけど、でも、純粋にハンナ様の伴奏がプロフェッショナル過ぎるんで、とっても感動してしまった。
で、エイデン先生は当然ご満悦で、これまたハンナ様の両肩を、ご自身の両手で激しく揺さぶられた。
「ハンナ君! 君にはファイフの才能がある! ぜひ精進したまえ! 私で良ければいつでも練習に付き合おう!!」
おお! エイデン先生のお墨付きを頂いちゃったよ!? これでハンナ様、いつでも魔力向上に付き合ってもらえるね!
でも、とりあえずハンナ様が脳震盪を起こしてはいけないから、その揺さぶるのはやめて欲しいな。
ルシフェルと私はまた必死に、エイデン先生の両手をハンナ様から剥がした。
そしてハンナ様を見ると、若干頭くらくらされている様子が伺えるものの、少し顔を紅潮されつつ、仰った。
「わたくし、ファイフで歌の伴奏をしたの、初めてなのですが、歌と合わせるのも本当にステキですね……あと、エイデン先生は美声ですし、メロディーも素晴らしいと思います。ぜひまた伴奏をさせて頂きたいです」
そう満面の笑みで仰るハンナ様は、本当にお人形さんのように、可愛らしかった。




