冗談が、あまりにもすぎると思うんです……
そう仰って、王子の美しい顔が私に迫ってきた!
なんて妖艶でなまめかしい瞳、気品と情欲そそる唇、
私は恥ずかしくて顔めちゃ真っ赤で、でも声出せないからすぐさま両手で口を塞ぎ、力いっぱい目をぎゅーって強く瞑って、かまえた。
少しの沈黙の後、クラウディウス王子はクスっと笑われ、「冗談だ」と仰って、私の額に軽くキスをされた。
私は目を開けたら、少し寂しそうに、でも優しく微笑まれる、いつものクラウス先生がいらした。
そして、「今日の事は、内緒ですよ」と、仰って、『古の魔術書』を片付けられたのち、いつものクラウス先生の口調や立ち振る舞いで、書庫室から出るよう優しく私を促して下さった。
書庫室を出て王宮図書館をさっと見まわして見ると、来る時とさほど変わった様子はなく、人もまばらで閑散としている。
私は少し声を上げてしまったので、ちょっと大丈夫かな?って思ったけれど、パッと見た感じ大丈夫そうだなって思った。
そして、クラウス先生が『モーゼの杖所持者のそばにいるのは、王族の使命』と仰って私を寮まで送って下さり、優しい微笑みを残して帰って行かれた。
私は先ほどの姿勢……腰をねじったままクラウディウス王子の胸に抱きすくめられていたため、腰のよじれというか、違和感を少々感じ、部屋に入るや否やすぐさまベッドに飛び込んで、脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えするクラウディウス王子のなまめかしいご様子を振り払いながら、一心不乱に自分の腰を、とんとん叩いた。
サナモニア山解放後、王立学院の授業は滞りなく開始され、私の二年生の学期がスタートした。
ハンナ様魔力向上委員会を脳内で勝手に立ち上げている私は、早速ランチではハンナ様を誘い、ルシフェルと一緒に食べて、皆んなで面白おかしく過ごした。
ハンナ様は基本大人しくいらっしゃるので、闇属性でも、内に秘めて気持ちをため込む系なのかも知れない。
ちなみに同じ闇属性でも私は悲観系、エミール様は『お主も悪よのう』系かな? まあ、エミール様はどっちかっていうと闇属性が強いっていうレベル、闇属性にめちゃ振られているわけではないんだけどね。
こうやって比べてみると、同じ属性でも色々だなあって思った。
同じ光属性でも、ルーク兄様はお優しく真面目、正義感溢れる系だし、ルシフェルは面白明るい系、エイデン先生は異常に前向き系だし、ホント個性豊かだなと思う。
そんな中でもハンナ様は、貯めこむ系のように見えるので、後天的に伸ばせるものも多いんじゃないかなって、個人的には思っている。
なので私も、ハンナ様魔力向上委員として、精一杯頑張りたいところだ。
そんな感じで今日も、ルシフェルとハンナ様と私は、めちゃ楽しくランチを取っていると、ルシフェルがもしゃもしゃ食べながら、話をし始めた。
「今日さ、朝の武術の授業がエイデン先生だったんだけど、終わってからエイデン先生に、『エイデン先生の歌、めっちゃ聞きたいっす! しかも、即興でファイフで伴奏できる子もいるから、ぜひユニット組んで欲しいっす! エイデン先生は”美声”だから、ファイフとの音色ともバッチリっすよね!?』って、おべんちゃら半分言ってみたら、『君、素晴らしいアイデアではないか! ファイフの音色に私の歌声のユニットということであれば、爽やかな朝が良いな! よし、早速明日から朝練開始だ!!』って、めっちゃ上機嫌で言われたんだけど、どうする?」
……ルシフェル、相変わらず人を乗せるのが上手だなあ。素晴らしい特技と思う。
ハンナ様とエイデン先生のユニットは、これもハンナ様魔力向上委員会の一環で、私がルシフェルに、エイデン先生をなんとか取り込めないかと相談したところ、ルシフェルが今日、説得してくれたようだ。
……いや、説得とは言わないか……ハンナ様の魔力向上については一切触れておらず、ただエイデン先生を褒めちぎってただけのようだから、”単にうまく乗せられてくれた”っていうほうが、正解かも知れない。
にしても、エイデン先生は相変わらず面白変過ぎる。特に、自分の歌声を”爽やか”とか表現する辺り。
歌に関しては、正直以前聞いたときは歌詞があまりに衝撃的過ぎて、よく覚えてないんだけど、多分、悪くなかったように思う。
あと、普段発していらっしゃるお声も、壇上でマイクの魔法陣なしでも通るお声だし、張りのある美声のような気もする。
でも、”爽やかな朝”向きの声かと問われると、ちょっと……
どちらかというと、暑くて寝苦しいときのほうが、イメージとしては、ピッタリかも?
まあ、だからと言って夜に集まれるわけでもないんで、朝で全然いいんだけどね。何より朝は夕日がないんで、走らされることもないだろうし。
そんなことを考えつつ、でもルシフェルの提案はめちゃ素晴らしすぎるので、ハンナ様と私は顔を輝かせて、返事をした。
「それはもちろん参ります、ね、ハンナ様?」
「もちろんです、ソフィー様!」
「ルシフェル、早速いろいろ動いてくれて、ホントありがとう!」
私がそう言うと、ルシフェルはさも当然って感じで、おでこのところに右手人差し指と中指を持っていき、前後に”チャッ”って感じで振って、
「ま、余裕かな?」
と言って、カッコよく決めた。
……
うう、いちいちカッコいいんだよなあ、めちゃキザなんだけどさ……でも、分かってはいても、やっぱ見惚れちゃうよね……
以前、”美しさは罪”っていう言葉を聞いたことあったけど、”イケメンだって罪作り”っていう言葉も、合わせて広めないといけないって思うな。
そして翌日の朝、私はハンナ様と女子寮前吹き抜けのところで待ち合わせをして、エイデン先生個人のお部屋に向かった。
王立学院の先生はそれぞれ個人のお部屋をあてがわれるんだけど、例えばクラウス先生の個室は魔法研究施設の手前にあるのと同じように、エイデン先生の個室は、闘技場の手前にある。
ハンナ様も私も武術を選択していないので、闘技場へ行くことはほとんどない、行っても毎年一回だけ行われる対抗戦のときくらいだ。
私たちは「生き慣れない場所は少し緊張しますね」とか話しながら歩いていると、後ろからルシフェルの声が聞こえてきた。
「よお!」
ルシフェルはいつものように、右手をおでこのところで”チャッ”ってやって、私たちに向かって歩いていくる。
相変わらずカッコいい……朝だし余計にそう思っちゃうな。
ルシフェルの笑顔と朝の陽の光って、最強コンビなんだな、知らなかった。ぜひとも私の”心のサプリアルバム”に永久保存しておこうと思う。
私がそんな風に、こっそりルシフェルに見惚れていると、ルシフェルは足のコンパスが長いので、速攻私たちに追いついた。
「おはよう、ルシフェル、いよいよですね?」
「ちょーウケる」
わかる、思わず笑っちゃうよね。エイデン先生は、どんなお歌を歌って下さるのかな?
「わたくし……少し、緊張してきました……やはり、ご迷惑ではないのでしょうか……」
「大丈夫じゃね? どっちかっていうと、いつも人に迷惑かけるほうだから」
「そうですよ。とにかく暑苦しいことが予想されますので、私たちが朝のうちに少しでも発散させてあげたら、朝一で武術の授業を取ってる生徒の皆さんが、泣いて喜ばれるかも知れませんね。むしろ、人助けです」
「それ、言えてる!」
「そ、そういうものなのでしょうか……」
みたいな感じで、ルシフェルと私は笑いながら、ハンナ様は少しおどおどされながら歩いて行くと、エイデン先生の個室に着いた。
まずは、約束と取り付けたルシフェルが、ノックをする。
「エイデン先生、おはようございます。ルシフェルです」
すると、次の瞬間、豪快に扉が開かれ、エイデン先生が両手を広げて私たちを迎え入れてくれた。
「おはよう、諸君! よくぞ来てくれた! さあ、入りたまえ!!」
……やっぱり、朝から暑苦しいなあって、思った。




