王族についてのお話
「その金髪は、王族の証的なものなのでしょうか?」
私が質問すると、クラウス先生は首を横に振られた。
「王族が全員、金髪に闇色の瞳というわけではありませんよ。前にもお話したと思うのですが、自分の属性が必ず髪色や瞳の色に出るとは、限りませんので。周りを見ての通り、様々な髪色や瞳の色の人間が、この世には存在していますから」
「では、クラウス先生はたまたま……というか、光属性も闇属性も半端なく魔力をお持ちだから、金髪に闇色の瞳なのでしょうか?」
「いえ、魔力量と関連性は、正確には分かっておりません。実際、魔力量が多い者でも、その属性の色が髪や瞳の色に出るとは限りませんので……ただ、出やすい傾向にはあるのかなと思います。そして、ソフィーの髪と瞳が黒いのも、闇属性がかなり影響しているのではと、私は考えています」
「私、色々考えてることが顔に出やすいって時々言われるのですが、お互い、いろいろ表に出やすい体質なのかも知れませんね」
私はそう言って、クスクス笑い始めると、クラウス先生はめちゃ”心外だなあ”という顔をされて仰る。
「私はソフィーのように、色々表に出やすい体質ではありませんが?」
「え、でも、出てますよ? 髪色と瞳の色に」
そう言って、また私がクスクス笑うと、クラウス先生、今度は私をチロリと睨まれた。
「……以前、蛍を見に行ったときに思いついた、『サイレント』と『ライト』の合作魔法陣、今無性に使いたくなりました」
あ……
露骨な言論統制、来た。もうこれ以上、言うのはやめておこう。
「でもクラウス先生、折に触れて時々私に『いずれお分かりになる時が、来ると思います』と仰ってましたけれど、それがまさか昨日とは、思っていませんでした。クラウス先生は、本当ならいったいどのタイミングで、私たちに正体を明かそうと思われていたのですか?」
「私は、王の指示か、『神の御意志』によって明かされるものだとばかり思っていました。ですので、昨日まさか大天使ラファエルの『神の癒し』によって、正体を明かされることになるとは、さすがに思っておりませんでしたよ。私自身も非常に驚きましたね」
「クラウス先生、非常に驚いてらしたんですか? 少し困ってる様子には見えましたけれど、そんなに驚いてらっしゃるようには見えませんでした……やっぱり、もろもろ表に出やすいのは、私だけかも知れませんね」
私は少し、てへって感じで笑うと、クラウス先生は目をぱちぱちされて、
「分かって下されば、よろしい……」
と、私とは目を合わせずに、仰った。
あれ、リカバリーにつもりで言っていたんたけど、お気に召さなかったかな? じゃあ、もうちょっと、褒めとこう。
「まあ、『神の御意志』も『神の癒し』も似たようなものだと思いますよ。あと、『神の癒し』直後のクラウス先生の髪は、天使の残滓が含まれていたのか、とっても神々しく輝いていて、美しかったです」
これはめちゃホント事実。当然”心のサプリアルバム”には、永久保存してるしね。
私が”心のサプリアルバム”から昨日の天使の残滓クラウス先生を引っ張り出し、思い出に浸り、にこにこしていると、クラウス先生は一瞬真剣な表情になられる。
「髪が美しいのは、ソフィーのほうが……」
そう仰ってクラウス先生は、私の髪に触れようと手を近くまで持って来られたんだけど、でも、一瞬固まったのち、髪に触れることなく、その手は膝の上に置かれた。
どことなく少し、固く握られたような気がする。
確かに私の髪は、黒髪ストレートロングで、艶もあるので美しい髪だと思う。初めて鏡見たとき、めちゃびっくりしたもん。まあ、驚いたのは髪だけじゃなく、容姿全般だけどね。
なので、クラウス先生なら髪を触って頂いても全然大丈夫というか、むしろ時々頭をぽんぽんされるし、そういうことには特に抵抗はないので、いつも通り触って下さっても、いいんだけどなあ……
私はそんなことを思いながら、クラウス先生をぼんやりと見ていると、先生は軽く咳ばらいをされて、話を続けられた。
「まあ、話を元に戻しますと、王族は基本光属性と闇属性、割合が半々ですので、見た目の髪か瞳が、どちらかが金色でどちらかが闇色だと、見た目にも王族だと分かりやすく、認識しやすいかも知れないとは思います……ただ、血さえ引いていれば直系、傍系、男女、髪色や瞳の色は一切関係なく『神託の間』に入る資格は得られますので、特に髪色や瞳の色にこだわりを持っているということも、ないですね。ただ、王にならないと、『神託の間』には、入れないのですが」
「では、クラウス先生は第一王子ではありますが、王様ではないので”神託の間”に入ることはできないのですね?」
「その通りです」
そしてクラウス先生は、王族のことについて、少し教えて下さった。
王族とは、人間で一番神に近い存在で、人間界での神様の直属の配下的存在というか、神様と人間を繋ぐ役割を担う存在であるという。
なんかイメージ的に、巫女さんみたいな感じなんだろうか? 王様になると日常的に『神託の間』に入って『神の御意思』をお伺いなさるというし……それならばなおのこと、男女問わずっていうのはわかる気がする。
そして、『神の御意志』を伺い、神体山を管理して、地上の魔力管理の任を子々孫々受け継いでいるらしい。
なんか、平民と貴族を繋ぐのが”正教会”だったら、人間と神様を繋ぐのが王族なのかなって、ちょっと思った。
でもそんな大切な役割を果たす王族の、しかも第一王子が、神体山解放に自ら赴いて、あんな危険なことしていいのかな?
昨日なんか、本当に死にかけていらっしゃったし、もし万一のことがあったらどうされるのか、本気で心配になってきた。
以前、モーゼの十戒の授業で、一夫一妻制の話とかも出たけれど、『万一のときは神様が具合よく調整されるんじゃないですか? 創造主でいらっしゃるんで』とか、めちゃ適当なこと仰っていたけれど、ホントにそんなノリで、大丈夫なのだろうか……
私はちょっと心配になり、尋ねてみることにした。
「でも、クラウス先生って第一王子だとお伺いしました。そんな、次期王様、継承権第一位の人がこんなにいっぱい戦ったり、昨日なんか命も危なかったし、こんな危険なことをしていていいのか、とても私、心配になるんですけれど……」
でも、私の心配をよそにクラウス先生は、私の目をしっかりと見据え、仰った。
「王族は命をかけて世界を守ることが第一の任務。ですので、神の御意思が反映される”救済の杖”と”粛清の杖”の役割を担うモーゼの杖所持者の補佐は、王族以外にできません。それに、神体山解放も世界の存続がかかっています。できなければ、世界が滅んでしまうわけですから、そもそも自分の命がどうとか言ってる場合ではないのです。つまり、全ては王族の使命であり、危険なのは、承知の上です」
「クラウス先生には、他にご兄弟はいらっしゃらないのですか」
「私に兄弟はいません、が、父上の兄弟には子供、つまり私には従妹がいます。もし万一私に何かあったとしても、神託の間で『神の御意志』を伺えばいいのですから、特に問題はありません……あなたのそばにいるのが私では、ご不満ですか……?」
クラウス先生の眼差しが、ひと際強くなった。
ふ、不満なわけないです。むしろ、そばにいて欲しいです。クラウス先生は、めちゃ頼りになるのはもちろん、何より信頼しているし、モーゼの杖所持者のそばにいることが王族の使命だと仰るんだったら、そばにいて下さるなら本当に嬉しい。
ただ、クラウス先生の仰りようが、『私の替えはいるから大丈夫』って仰ってるみたいで、それはイヤだなあと思ってしまったというか……
だって、クラウス先生の”替え”なんて、いないもん。
私にとってクラウス先生は、クラウス先生ただひとりだもん。
だからどうしても、『神の御意志』とかよりも、ご自身を大切にして欲しいって、やっぱり思ってしまうんだよね……
「不満なんてとんでもないです。ただ心配で……」
私が心配そうにそう言うと、クラウス先生は少し困った顔をされて、微笑まれた。
「いいえ、こんなにか弱い女の子ひとりに世界の命運を押し付けてしまい、申し訳ないのはこちらのほうです……だからどうか心配しないで下さい。他の貴族たちが私の身を案じるのは、まだ分かりますが、貴女にこんな過酷極まりないことをさせておいて、この世界の王子たる私が逃げるわけにはいきません。分かって下さいますね……?」




