正体を知り驚きの皆さま
翌日……
諸々の事情を知らないほとんどの生徒の皆さん、クラウス先生が教室に入って来られたときは、顎抜けるほど驚いてらしたな。
だって突然、第一王子が教室にやって来るんだもんね。
クラウス先生は、もう闇色髪と伊達眼鏡での変装はしないと昨日宣言されていた通り、王子スタイルで教室に入って来られた。
で、皆さん慌てて片膝つき始めるんだけど、クラウス先生が、
「私はクラウスだ。ここへは教師として来ている。今まで通りに接して欲しい。これは、命令だ」
と仰るや否や、生徒たちは、
「「「かしこまりました」」」
と、男子は敬礼しつつ、女子はドレスをつまんでお辞儀しつつ、うやうやしく仰ったのち、それぞれの席に着かれた。
女子生徒たちは席に戻りながらも驚きと感激がどうにも隠し切れない様子で、
「クラウス先生が、まさか、クラウディウス王子だったなんて……!」
「美しく気品もおありなので、高貴な出身でいらっしゃるとは以前から思っていましたけれど……」
「それにしても、どうして変装なさってたのかしら?」
「そもそもどうして王立学院で教師の職に就かれたのでしょう?」
「輝くような金髪が、本当に素敵ですわね……」
などと、思い思いのことを仰っている。
まあ、驚くよね。私もめちゃ驚いたもん。
そして、隣に座っているルシフェルが、その様子を何故だかちょっと、ぶーたれて見ていた。
「あーいいなー、俺も皆んなを驚かせてー」
どうやらルシフェル的には、クラウス先生が女子に人気が出始めたのが腹立つのではなく、自分がクラウス先生みたいに、人を”あっ”と驚かせられないのが、ぶーたれポイントのようだ。
……まあ、ルシフェルらしいっちゃらしいけど。
今までだって、ルーク兄様がモテモテなのに対して、腹立ってるところとか見たことないからね。
「ルシフェルはもうそれ以上、皆んなを驚かせないほうがいいと思いますよ?」
「マジで言ってんの? あーあ、俺も視覚誤認の『カウザアスペクトゥ』使えたら、髪の毛”総立ち”にしてやんのに」
……
えっと、どこのヘビメタバンドの人ですか??
大体、クラウス先生見てて知ってるけど、髪色は変えられても、髪型は変えられないと思いますよ??
とまあ、一応ルシフェルに忠告しておくと、
「え、マジで? 髪型変えられねーとかチョーしょぼくね? まあしゃーない、とりま髪色24色で我慢しとくわ」
……
我慢すると言ってやることが、髪色24色なんだから、いったいどこに我慢が見えるのか、私にはさっぱり分かんない。クレパスじゃないんだからね、ホント。
でも、ルシフェルならやりかねないからマジで怖いなって思った。
放っといたらクレパスカラーで髪の毛総立ち、ヘビメタっぽい曲を、ファイフで吹くマネしながら、音(ハミング?)を豪快に上がりまくり下がりまくりの謎のナンチャッテ超絶技巧、おまけに最後はファイフの先端から紙吹雪が舞ってフィニッシュとか、やりかねないもん。
で、その紙吹雪もクレパスカラー、24色なんだよ、きっと。
魔法には適性が本当に大事なんだけど、ルシフェルには視覚誤認の適性がなくて、とりあえずよかったなって思った。
視覚誤認魔法『カウザアスペクトゥ』は、動かない物質に対しては難しい魔法じゃないんだけど、動く物に対してはレベルがめちゃ跳ね上がって難しくなり、動いた途端、魔法が解除されることもあるのだ。
なのでクラウス先生が、髪の毛一本一本に『カウザアスペクトゥ』をかけていて、その魔法が今まで解除されず、今まで先生の正体がバレなかったということは、先生の魔法技術がどれほどまでに素晴らしすぎるのかという証明でもあり、まさか髪の毛に『カウザアスペクトゥ』をかけているなんで、当然誰も想像できない所業なので、それ故にクラウス先生の変装が、今までバレなかったというのもある。
……というわけで、ルシフェルが『カウザアスペクトゥ』を覚える道のりは、果てしなく長いと思われるので、とりあえずは安心していてもいいんじゃないかと思っておこう。
ちなみに光の一族の皆さまは、光属性にほぼ全振りしているんで、闇属性や無属性の魔法は、使えないとまでは言わないけど、得意なほうではないらしい。
その代わり光属性の魔法は、他の方々が使うよりも、威力が半端なくデカいという。
そういえば去年、ルシフェルは魔法『サンシャイン』、ルーク兄様は『サンセット』を見せて下さったけど、クラウス先生の解説では、通常の魔法よりもさらに威力が大きいとか仰ってたのを思い出した。
それらのことを踏まえると……うん、ルシフェルが『カウザアスペクトゥ』を覚えるのは、相当困難な道のりだな、よし、安心、安心。
私はひとつの結論に達したので、胸を撫で下ろしながら、クラウス先生の数学の授業に集中した。
そして授業が終わり、私はクラウス先生のところまで行った。『古の魔術書』の件で、話があるからである。
でも、私がクラウス先生の元へ行き「クラウス先生」と言って呼びかけると、教室の空気が、変わった。
特に、女子生徒の視線が少々痛い。
……ああ、この視線は覚えがある。ルーク兄様が近くにいるときと、同じ視線だ。
そしてもちろんクラウス先生も、この空気がお分かりにならないはずがなかった。
クラウス先生は少々険しい顔をされながら、「手短に」と仰った。
私は、「お借りしている本についてお話があります」と端的に言うと、クラウス先生の表情が一瞬固まり、驚いた表情をされたものの、すぐに平静を取り戻されて、
「では放課後、セバスチャンに話を通しておきます」
と、仰った。
私がお借りしている『古の魔術書』は、クラウス先生の特製恐怖ブックカバーがかけられているので持ち歩けない、そして、『古の魔術書』が保管されているのは、あと、王宮図書館の鍵のかかっている書庫室と、魔法師団の研究室だ。
なのでこれは、宮殿の執事セバスチャンのところに行けば、恐らくは王宮の書庫室にある『古の魔術書』とクラウス先生のところまで連れて行って下さるのだなと瞬時に理解した。
「分かりました。放課後王宮に参ります」
と、私は簡潔に返事をした。
少し、クラウス先生が苦笑いされていたので、私もちょっと苦笑いになりつつ、クラウス先生が教室から出ていかれるのを見送った。
放課後、ドミに連れられて、私は王宮に向かった。
王立学院と王宮は隣なので歩いても全然行けるんだけど、王宮にはめちゃ防御力高い防御結界が張られているんで誰もが入れる仕様にはなっていない。
いつも私が王宮に来るときはクラウス先生と一緒だったんで何の心配もないんだけど、今日はいらっしゃらないので、王宮のめちゃ豪華な正門のところに執事のセバスチャンがいて、私たちを中に入れてくれるのかな?
私はそんなことをふと頭の端で考えながら、ドミと楽しく雑談する。
「ドミ、これで私が本当に、『古の魔術書』をちゃんと読んでいることが、分かったでしょう?」
と、私が自信たっぷりに言うと、
「昨日今日ですぐに読まれるなんて! さすがでございます、ソフィー様。私も誇らしい気持ちでいっぱいです!」
と、朗らか笑顔で返してくれて、二人で”きゃいきゃい”言いながら、王宮までの道のりを楽しく歩いた。
王宮のめちゃ豪華な門のところに着くと、門の前で執事のセバスチャンが私たちを待っていてくれた。そして、私に魔石を渡される。
「この魔石を持っていますと、一度だけ宮殿全域に張り巡らされている防御結界をすり抜けることができます」
おお、なるほど。魔石を使って中に入るのか。
私はセバスチャンと一緒に門から王宮敷地内に入り、一回限りの魔石をセバスチャンに返す。
ちなみにドミは一緒に中には入らない。私をセバスチャンに引き渡し、ドミの”私お見送り任務”は完了だ。なのでドミは私をセバスチャンに託したのち、寮へ戻って行った。
そして私はセバスチャンの後を、この道は歩いたことないなあとか思ってキョロキョロしながらついて行くと、宮殿とはまた違う、これまた大きく豪華な建物に辿り着いた。
「ソフィー様、こちらが王宮図書館でございます。クラウディウス王子が書庫室でお待ちですので、ご案内致します」
おお! クラウス先生が、クラウディウス王子呼びになってる! なんか妙に、テンション上がっちゃうな!?
私は初めて来る場所というのもあり、さらにワクワク感を募らせ、王宮図書館に入り、書庫室までの道のりを歩いた。
王宮図書館は、王立学院の図書室とは比べ物にならないくらいの蔵書が、天井高くまで並べられていた。
ふと疑問に思ったんだけど、あんな高い位置にある本、いったいどうやって取るんだろ……?
ああ、この世界は魔法があるから、魔法の細工がなんかあるのかも知れない。
クラウス先生も、『古の魔術書』に、恐ろしい細工、仕込んでるもんね。
私は、王宮図書館の目もくらむような蔵書数に圧倒されながら、めちゃきょろきょろしつつ、セバスチャンの後をついていく。
王宮図書館には、少しばかり人もいた。
王族の方はもちろんだけど、王族に仕えたり、王宮で仕事をしている高位の貴族の皆さまも王宮図書館には入れるので、そのような方々がいらっしゃるのだろうなと思った。
ちなみに、鍵のかかった書庫室には王族でも簡単には入ることができない。王様の許可がいるという。
でも、セバスチャンが『クラウディウス王子が書庫室でお待ちです』て言ってたんで、王様の許可は取れたんだろうな。
めちゃ早いなって思う。まあ、息子だからかも知れないけど。
そう言えば、神体山解放確認のとき、クラウス先生が『ミコモーヴェレ』で、めっちゃ一瞬で王様のところを行ったり来たりされるけど、ひょっとしたらそれも、”息子特権”もあったかも知れないな。
私がそんなことをぼんやりと思いながら、ただひたすら後をついて歩いていると、これまた豪華で重々しい扉の目の前でセバスチャンが立ち止まった。
「こちらが書庫室でございます。少々お待ち下さい」
そう言って、ドアについてる取っ手みたいなのをコンコンすると、少ししてクラウス先生が、扉を開けてくれた。
「ソフィーは中へ、セバスチャンは下がりなさい」
クラウス先生のご容姿と、その凛とした仰りようが、またこの豪華な扉と似合うなあと思わずぼんやりと見惚れていると、セバスチャンが「かしこまりました」と言って、速やかに去って行った。
それで私もふと我に返ると、クラウス先生が私に中に入るよう、めちゃ美しく手で促して下さったので、私も早速書庫室の中に入った。




