クラウス先生の正体
な、な、なんて美しカッコいいご様子なんでしょう!?
私はもう当然、”心のサプリアルバム”に超永久保存とか、もうめちゃ張り切ってしてしまう。
するとルーク兄様やルシフェル、エイデン先生やエミール様、そして養父様は騎士団の皆さまを引き連れ、急いでこちらに集まってこられた。
何やら顔が真っ青になっていらっしゃる方もいる。
まあ、負傷された方もいるので当然と言えば当然なんだけど、ルーク兄様もルシフェルも、本当に真っ青だ。
いったい、どういうことなんだろう……
ルシフェルは、どこか負傷したのだろうか?
でもルーク兄様、先ほど『皆は大丈夫』と仰ってたし……
そしてルーク兄様ご自身も、凄くお疲れは見えたけれども、そんなに負傷していらっしゃる様子には、見えなかった……
私がそんな風にめちゃ不思議に思っていると、養父様が声高らかに、仰った。
「クラウディウス王子、拝謁いたします!」
養父様がそう仰ると、なんと集まって来られた皆さま全員が、片膝を地面につき、右手を自身の胸にあて、俯き、最敬礼をされ、恭順の意を表され始めたではありませんか!
それに加え、え? クラウディウス王子? それ、どなた様のことでしょう??
おまけに、クラウス先生を前にしての突然のこの光景……
……
ええっ?? ひょっとして、クラウス先生が、この世界の王子様なの!?
私はめっちゃテンパりながら、でもここで私が突っ立ったままでいいわけないと思い、私も思わず皆さまと同じように跪き、クラウス先生に最敬礼をした。
すると、なぜかクラウス先生も私の目の前で屈まれて、私と目線を同じにして、ゆっくりと仰った。
「ソフィー、立ちなさい。前にも言っているように、君は王族同等なのだから」
いやいやいや、ちょっと待って! 私はなんちゃって王族同等で、本物の王族、しかも第一王子の隣になんて、絶対に立てるわけありませんよね?
もう思わずめっちゃテンパって、変なことまで口走ってしまう。
「か、数々の今までのご無礼! お許しくださいませ!!」
私はもう顔真っ赤になっちゃって、さらに俯くと、クラウス先生は優しい声で語りかけて下さった。
「ソフィーが私に無礼を働いたことは、今までない……まあ、多少寂しいと感じたことはあったかも知れないが、それは、君が謝ることではない。だから、立ってくれないだろうか? 君には、命令したくない」
「で、では、皆さまにも立ちあがって頂きたいです! 皆さまが立てば、私も立ちます! 特にエイデン先生は、俯くことが非常に苦手でいらっしゃると思われるんで、今すぐ立ち上がって頂いたほうがよろしいかと思われます! エイデン先生、お首を痛めかねません!!」
私が必死の思いで、わけの分かわらないことを喚いていると、クラウス先生はクックックってお笑いになってから、「分かった」と仰った。
クラウス先生は未だに身をかがめながら皆さまのほうを向き、「皆、顔を上げ、立ちなさい」と仰ると、皆さまが続々と立ち上がっていらしゃるような音が、私にも聞こえた。
なので私も顔を上げ立ち上がろうとすると、目の前にはめちゃ優しい微笑みのクラウス先生がいらっしゃって、あまりの麗しさにさらにめちゃ顔赤くなって一瞬時が止まってしまう。
すると、クラウス先生が私の手を取り、ゆっくり立ち上がらせてくれた。
身のこなしが本当にエレガントだ……
クラウス先生、ホントに王子様だったんだ……
なんか、さっきのさっきまで瀕死のクラウス先生を見て、めっちゃ泣いて、先生をやっと助けられたと思い今度は安堵でさらに泣いて、今はめちゃ驚きで顔真っ赤でテンパって、さらにやっぱり泣いちゃうよね…
私は立ち上がったものの、やっぱり俯き加減でしょんぼりしつつ、目をこすっていると、養父様を筆頭にルーク兄様とルシフェルが、私たちの前までやって来られた。
そして養父様を始め、ルーク兄様とルシフェルも片膝を地面につき、俯き加減で仰った。
「クラウディウス王子、拝謁いたします」
「立ちなさい」
クラウス先生は、王族ならではの品を見せながら仰った。
すると、許可を頂いた養父様は、立ち上がった後さらに深々と頭を下げながら、仰った。
「本日はどうしてこちらへ? 本作戦総指揮であるクラウスからは何も伺っておらず、ご挨拶が遅れ誠に申し訳ございません。ただ、クラウスも瀕死の重傷を負っておりますのに何故か行方知れずで……事態の収拾が未だついておらず、誠に申し訳ございません」
……ああ、養父様、クラウス先生の”変身”を間近で見てないから、クラウス先生=クラウディウス王子っていうのが、まだ分かんないんだ。
クラウス先生、なんて仰るんだろ……?
私は決して横から口を挟んだりせず、様子を伺うことにした。
「ああ、なるほど。それならば気にする必要はない。私は君の養女、ソフィーに命を助けられ、またラファエルの”神の癒し”もあり、この通り元気だ……つまり、私がクラウスだ。今まで黙っていて、すまなかった」
クラウス先生がそう仰ると、お三人の周りだけ一瞬時が止まり、口を開けて呆然とされ、私が今まで見たこともないほど驚愕されたあと、再び跪き、最敬礼された。
「立ちなさい。私は王命で神体山解放の総指揮を執り、またボールドウィン侯爵家では家庭教師という立場でいる。今までと変わらない態度で接して欲しい。これは、命令だ」
クラウス先生がそう凛としたご様子で仰ると、そのクラウス先生の下された命により、養父様、ルーク兄様、そしてルシフェルはゆっくりと立ち上がった。
「クラウディウス王子……いえ、クラウス先生が、ご無事で何よりでございました」
養父様が、言葉を選びながら仰る。
「心配をかけました」
クラウス先生は、笑顔でお答えになる。
「とんでもございません……では、私はまだ事後処理がございますので、これにして失礼致します」
「騎士団長、よろしくお願いします」
クラウス先生はいつもの口調でそう仰ると、養父様と微笑み合われ、養父様は去って行かれた。
するとクラウス先生は、次はルーク兄様とルシフェルのほうに顔を向けられた。
「ルーク、ルシフェル、もう正体がバレてしまいましたので、今後は面倒な変装もしませんし、名前を呼ぶときも特に敬称はつけませんが、私はあなたたちの師です。ですから、いつも通りでお願いしますね」
クラウス先生は優しく微笑んで仰った。
でも、ルーク兄様とルシフェルの緊張はまだ溶けていないようで、
「はっ 今まで通りご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」
「はっ 兄上に同じであります!」
とか、全然今までと違う感じで、お返事をされた。
特にルシフェルが面白いな。『兄上に同じで』っていうのが、あれで敬意を表せてるのかはさっぱり分かんないけど、ルシフェル的にはどうやらめちゃ恭順の意を表しているようだ。
なんていうかさ、もう緊張がひしひしと伝わってくるよね。
特に光の一族は『王族を守る剣』として育てられてるから、余計にそうだろう。
でも、私があんまり他人事みたいに面白いなあとか思って見てはいけないな。
だって、私自身がさっきめっちゃ鬼のように驚愕して、意味不明なこと喚いていたもんね。
むしろ二人……特にルーク兄様のお返事は上出来すぎると思う。さすがルーク兄様だなって思った。
そしてクラウス先生は、二人の肩を軽く叩いて仰った。
「今回もよく頑張ってくれた。ありがとう……そして、もう少しいつも通り、言葉を崩してくれていいから」
すると、ルーク兄様とルシフェルは、少し恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに「はい」と仰って、そして三人は本当にとても麗しくカッコよく、微笑み合われた。
そんなお三人方の超イケメンぶりを”心のサプリアルバム”に永久保存していると、クラウス先生が辺りを見渡され、皆さまに号令をかけられた。
「皆、無事のようなので速やかに下山する。今回は負傷者も多く、まだ傷が癒えきっていない者もいる。下山途中は無理をせず、問題があれば周りの者を頼るように」
そう仰って、私たちはサナモニア山を下山することになった。
今回はあまりにも衝撃的な展開過ぎてウルルには会えなかったけど、また次は会えるといいな。
私は一枚岩のほうを見ながら、心の中で『バイバイ』って手を振ると、なんか向こうのほうからエイデン先生の叫び声が聞こえてきた。
「騎士団長! 作戦総指揮であられるクラウス先生をこの山に置いていかれるのか!? なんと、薄情な!!」
と、わけの分からないことをのたまっていらっしゃった。
……ここに、未だにクラウス先生=クラウディウス王子の図式を理解していない人が、約一名いらっしゃった。
養父様のほうを見ると、ほとほと困り果てたご様子でいらっしゃる。
「ですから、クラウディウス王子が、クラウス先生なんですよ」
「は? 何を寝ぼけたことを? 騎士団長はここで優雅に昼寝でもされてたのか?? だが、確かに今日はお日柄も良く、原っぱの上で昼寝をすれば、気持ちがよいであろう!!」
「……いえ、そもそも寝てる暇などありませんから……」
と、エイデン先生のあまりのデタラメな物言いに養父様がとてもお困りのご様子なので、クラウス先生がエイデン先生の前まで行かれ、「カウザアスペクトゥ」と、魔法を唱えられた。
すると髪色はいつも見慣れている夜の海のような深い黒に近い紺色になった。
エイデン先生は、驚愕で目を見開き、わなわなと震え始められる。
でも、そんな驚きのエイデン先生をよそに、クラウス先生は淡々とお話をされた。
「視覚誤認の魔法ですよ。で、この視覚誤認を解除すると……『レメディウムアス』」
すると、クラウス先生の髪色は、たちまち鮮やかでふわふわで美しい金色になった。
「こちらが私の本当の姿です。今までかけていた片眼鏡も伊達眼鏡ですよ。今後はもう面倒ですので王立学院で変装することはありませんが、いつも通り接して下さると嬉しいです」
クラウス先生はそう仰って、エイデン先生ににっこりと微笑まれたあと、また私たちのところに戻って来られた。




