七大天使ラファエル
急いではいけない……
慌ててもいけない……
ゆっくりと丁寧に、貪汚を除去していく……
そしてそれを、ゆっくりと魔力エネルギーに変換……
腐ったヒノキの浄化作業を思い出すんだ……
……私は時間をかけて、クラウス先生にまとわりついていた貪汚の瘴気を、とりあえず全部取り除いた。
そしてここからは『ヒール』だ。
今魔力エネルギーに変換した魔力を、クラウス先生に注ぎ込めばいいだけだ。
私は心落ち着けて、ゆっくりと唱えた。
「ヒール」
いつもは『ヒール』で魔法陣は使わないけど、少しでも効果を高めるため魔法陣も発動させる。
キラキラと光る光属性の魔法陣がクラウス先生を包み込む。
そしてしばらくすると、クラウス先生の瞼が、微かに動いた気がした。
「クラウス先生!?」
私は思わず声かけると、クラウス先生はゆっくりと、瞼を開けられる。
「……ソ、フィー……」
まだきちんとお話はできないみたい……
でも、クラウス先生が、意識を取り戻された!
私はおもむろにクラウス先生の右手を取り、号泣し始めた。
「クラウス先生……クラウス先生……!」
私があんまり泣きじゃくるので、クラウス先生は少し困った顔をされながら、私に微笑みを向けられる。
「助けてくれて……ありがとう……」
助けるなんて、当たり前じゃないですか、そんなの絶対、助けるに決まってるじゃないですか……??
私はもう泣いちゃって、目をつむったらクラウス先生の手の上に涙がぽたぽたと落ちてしまう。
するとクラウス先生は、
「……人の涙は……温かいな……」
と仰って、何やら無詠唱で呪文を唱えられた。体がぼんやり光るので分かる。恐らく体力を戻していらっしゃるのだろう。
そしてクラウス先生はゆっくりと体を起こされて、私を見て、微笑まれた。
「もう、泣かないで下さい」
そう仰って、私の頭を左手でぽんぽんとされた。
そんな、泣くなって言われたって、そのクラウス先生の笑顔を見たら、私はさらにめっちゃ泣けるし、だからもっとめっちゃ泣いちゃうし、クラウス先生の右手は確保してるんで、思わずぎゅっと握っちゃうし、また涙がぽたぽた落ちちゃうし、そしたらクラウス先生が優しく涙を拭って下さるし、おまけにクラウス先生の片眼鏡は今どっかに行ってしまってないんで、片眼鏡なしの先生の笑顔は国宝級のイケメン笑顔だなって再確認しちゃうし、当然”心のサプリアルバム”に永久保存だし、そんな色んなことを頭の中で錯綜させながらわんわん泣いていると、突然神々しい光が現れて、目の前で輝き始めた。
私は涙目で鼻をすすりながら、その強い光の方を見ると、突然、いかにもって感じの大天使が現れた。
めちゃ神々しい光を放っているんで、例によって例のごとく、七大天使に違いない。
大きな翼、天使の輪、古代ローマの人ふうの装いなのは相変わらずおんなじだけど、今回の天使様は少し女性っぽい雰囲気がおありだ。でも、七大天使ハニエルほど女性っぽくもない。
そんな勝手な感想を抱いていると、その大天使は、私に優しく微笑んで言った。
「私の名はラファエル。神の癒し、治癒、バランス、調和、平和を司る大天使です」
わあ! ラファエル! これまたメジャーどころの七大天使、来た!
でも大天使ラファエルは、私がこの胸アツ展開にめちゃ興奮していることを全く知らないので、いつもの大天使と同じように淡々と、お話を始められた。
「前回に続きサナモニア山も解放して頂きありがとうございます。こちらでも他の神体山同様、魔力奉納が可能になります。そして神体山だけでなく、ゆくゆくは世界全体を魔力で満たすことができるでしょう。しかし、その道のりは未だ遠いです。悪魔に乗っ取られた山が、あと三つあります。まずは、七つの神体山解放のため、引き続き尽力頂けますよう、よろしくお願い致します」
……うん、相変わらず大天使は皆んな似たような内容のお話をされるなあと思いながら聞いていると、突然大天使ラファエルの両手に弓が現れた。
めちゃ神々しく光っている。
そしてあんまり神々しく聖弓が光るんで、当然クラウス先生も驚かれ、その聖弓のほうに視線を向けられた。
「これは聖具のひとつ、聖弓です。この聖弓は、こちら男性に適性があるようです」
そう言って大天使ラファエルは、ふんわりとした優し気な手つきで、クラウス先生に聖弓を授けた。
クラウス先生が目の前にある聖弓をとりあえず手に取りつつ、お目々ぱちぱちされている。
なので、
「今、隣に七大天使のラファエルがいます。クラウス先生に聖弓の適性があると仰ってますよ」
って私が説明すると、クラウス先生は驚かれたものの、次の瞬間少しはにかみ系の微笑みをされて、そしてすぐさま真剣な表情になられた。
「身命を賭して、聖弓の所持者としての役目を果たしていくことを、ここに誓います」
クラウス先生はそう仰って、右手を胸にあて、敬礼された。
……クラウス先生の敬礼……めちゃ美しい……
あと、今回の聖具はまともな人に与えられたのは、めちゃ嬉しい……
などと勝手な感想を抱いていると、突然ラファエルがクラウス先生を強い光で包み始めた。
な、なんですか、この光は!?
私はめちゃ驚いてクラウス先生から少し離れ、その光景を見てたんだけど、私の驚きなんて超そっちのけで、ラファエルは涼しい顔で淡々と仰った。
「私は『神の癒し』を司る天使……よって、この者に『神の癒し』を与えました。神の御導きにより、全てが滞りなく、癒されることでしょう……」
おお! クラウス先生に『神の癒し』を!? なんか効き目が凄そうだ! 恐らくゲーム的に言うと、全てのステータスが全回復するとか、そんな感じに違いない!
まじラファエル様! めちゃありがとう!!
私がラファエルに対してそんな感謝感激の視線を向けていると、ラファエルは癒しの天使という名に恥じないほど美しい微笑みを浮かべ、
「全ては神の御導きのままに……」
とか仰って、大天使ラファエルは消えていった。
……今回は癒しの天使だからか知れないけど、女性っぽいシルエットだったな。
でも、女性っぽいシルエットだからといって、聖具を授けるのは女性とか、そういう決まりはないみたい。
私はそんなことを考えながら、クラウス先生を包む光が落ち着くのを待っていると……
……
あれ、なんか様子がおかしい……
めちゃ服が破けたり泥だらけのご様子だったのに、新品の服かのようにキラキラしているのは”神の癒し”なんかなあとは思うけれど……
なんで光が薄れていってもクラウス先生の髪の色……金色に光っているんだろう……?
そしてゆっくり目を開けられるクラウス先生。瞳の色は?って思って確認すると、瞳の色はいつも通り、紺色よりも深い黒い闇色のままだった。
でも、相変わらず髪色は、どれほど周りの光が薄れようと、輝く金色のままだった……
これはいったい、どういうこと?
これも”神の癒し効果”ですか??
もうそのクラウス先生のその髪は、この世の物とは思えないくらい美しくて、ひょっとしたら天使の残滓みたいなのを含んでいるからかも知れないけど、細くて柔らかくてそして輝きながら風にふんわりと漂っている。
なんていうのかな、光で髪が透きとおっていて、絹のような美しい髪だ。
私はもうホント、めちゃ美し過ぎてめちゃ驚愕で、開いた口が塞がらない。
まじで顎抜けるかと思った。
ちなみにこの異世界に来て『顎が抜ける』かと思った出来事は、自分の顔を鏡で見たときと今回で二度目だ。
そんなことを考えながらお目々ぱちくりでクラウス先生を見ていると、クラウス先生はこれまたこの世の物とは思えない微笑みを浮かべられて、仰った。
「ラファエルの『神の癒し』は凄いですね……ご覧の通り、全回復しました。驚きましたね」
私はそのクラウス先生の言葉を受けて、首を縦に振ったり、横に振ったり、よく分かんない行動をしながら、めちゃ口あわあわさせて、言った。
「いえ、クラウス先生、確かにスゴイんですが、その、違うんです、先生の髪色が今、大変なことになってます!」
「……髪色が……?」
クラウス先生は、ご自身の前髪やこめかみ辺りにある髪を手に取り、ご覧になった。
……少し、驚いていらっしゃるみたい……
私は息を呑んで、クラウス先生のお言葉を待った。
すると、クラウス先生は一瞬困ったような表情になられ、そして、はにかみながら仰った。
「……これは、参ったな……」




