四つ目の神体山解放へ!
そしてモーゼの杖からは、また光の筋がスーッと一直線に伸びている。これは、神体山解放だと思う、クラウス先生に知らせなきゃ!
私が突然モーゼの杖を出したので、エミール様はすぐさま笑うのをやめ、驚きながらモーゼの杖をご覧になる。
「……それが、モーゼの杖……」
花と葉っぱが散りばめられ、ほのかに光るモーゼの杖、歴史書とかでしか見たことがないモーゼの杖を目の前にして、エミール様の瞳は一段と輝きが増しているように見える。
でも、今はエミール様のことを気にしている暇はない。
「エミール様、私、今すぐクラウス先生のところに行かなければならないので、失礼します!」
私はおもむろに立ち上がり、クラウス先生個人の研究室がある魔法訓練施設のほうに向かって小走りし始めた。
すると、なぜかエミール様も、私のあとをついて来られる。
「ひょっとして神体山解放でしょうか? でしたら私も一緒に参ります、私も神体山を解放メンバーですので」
「まだそうと決まったわけではありませんが、どうしてそう思われるのですか?」
「去年の神体山解放の時期も、王立学院の学期が始まった直後だったと、記憶しています」
なるほど、神体山解放関連も調べつくしていらっしゃるようだ。
私は、「分かりました」とだけ言って、あとは無言で、さらに小走りのスピードを早めた。話しながらだと、息切れちゃうからね。
にしても、去年のドミと一緒に向かったときもそうだったけど、廊下って走ってもよかったんだっけ?
まあ、今さら気にしても仕方ないか。もし誰かに怒られたときは、事情を軽く説明して、それでも聞き入れてもらえないときは、大人しく歩こう。押し問答している時間があったら、少しでも向かったほうが、いいからね。
それにしてもエミール様、私がモーゼの杖をパッと手にし、『クラウス先生のとこに行かなきゃ』って言っただけで、すぐに神体山解放かもってひらめかれるところは、すごい情報処理能力が早いなって思っちゃった。
いったい頭ん中、どんな構造してるのかな?
一度、覗いてみたいかも?
って思っていたらエミール様が、私の小走りスピードに歩行速度を合わせながら質問された。
「ところでソフィー様?」
私は、話すと息がさらに切れるので、エミール様をふと見るだけにする。
なんだろう? 微笑みが深いように思うんだけど……?
私はちょっと疑問に思っていると、エミール様は一切息も切れることなく、そして、めちゃ優雅に、
「ソフィー様は、クラウス先生の研究室までの道のり……ご存じなのですか?」
とか仰って、またクックックって笑い始められた。
……
ちょっと、この緊急時に、また私をからかわれるなんて、いったいどういう了見でしょ?
いえいえ、魔法訓練施設は一年生のときも授業で時々使いましたし、先生方の個人研究室はその手前にあるんで、いつも目の前通ってましたから、さすがに知ってますけど??
こんな緊急時にも、私をからかわずにはいられないなんて、ホントいい性格していると思う。さすが、私の側近になりたいとか突拍子もないこと考える人は違うなって、もうちょっと半分呆れちゃうな。
って、私がめちゃ虚ろな目でエミール様を見ていると、エミール様はさらに容赦なく私にたたみかけられた。
「ですが今回は、目的地のゴール地点を伸ばせそうにありませんね……すぐ目の前には魔法訓練施設がありますので……寂しいです」
とか仰って、寂しいはずのくせして相変わらず、ずっと笑っていらっしゃる。
寂しいとか、どの口が言うのかな、ホント?
この緊急時に、もうめちゃ信じられなさすぎて、でも、体力的になにも言い返せないんで、私は思わずむぅっとしちゃって、口を尖らせた。
すると、エミール様はまた、ぬけぬけと仰った。
「ソフィー様は、怒った顔も、可愛らしいです」
思わず私はエミール様の顔を見てしまうと、そこにはめちゃカッコ美しいエミール様の優しい微笑みがあった。
私は思わず一瞬見惚れてしまって、そしてすぐさま視線をそらし、前を向く、向くんだけど、顔がめちゃ真っ赤なんで、顔を隠せないのがめちゃ辛すぎるな。
私はまたむぅっとした顔で、口を尖らせ、さらに顔を真っ赤にしていると、エミール様はやっぱりまた、クックックって笑い始められた。
……エミール様の『可愛らしい』は、絶対信用しないんだから、もう!
私はそんな風に、内心ぷりぷり怒りながら、小走りして向かっていると、ようやくクラウス先生の研究室に辿り着いた。
私はおもむろに扉を数回ノックする。そして、「ソフィーです」と私が言うのと同時に扉が開かれ、クラウス先生は開口一番に、
「光の筋が伸びているのは、どちらの方角ですか?」
と仰った。
もはや、『神体山解放ですか』とも、尋ねられなくなった。まあ、話が早くて全然いいけど。
私は息を切らしながら、例によって例のごとく「あっちです!」って必死に光の筋が伸びている方角へ指をさす。
「承知いたしました。……ところで、エミール様はどうしていらっしゃるのでしょう?」
クラウス先生はジロリとエミール様を見た。するとエミール様はキッパリと、
「それは、私が神体山の解放メンバーに選ばれているからです」
と仰った。するとクラウス先生は軽くため息を吐かれた。
「いえ、そういう意味ではなく、なぜ神体山解放のことを知っていて、ソフィー様と一緒に来られたのかということですが、とりあえず今は急ぎますので、お二人は部屋の中でお待ち下さい。私は至急、王に確認して参ります」
そう仰っるや否や、クラウス先生は、速攻転移魔法『ミコモーヴェレ』で宮殿に向かわれた。
私たちはクラウス先生の研究室に入る。
私はというと、『一年ぶりかあ』くらいの感想しかないんだけど、エミール様はクラウス先生と同じ研究者肌なのか、とてもとても興味深く、部屋の中をご覧になっている。
目がキラキラしてて、なんか新しいおもちゃを与えられた子供みたいな目だなって思った。
私なんかはこの部屋に入っても、難しそうなものばっかりでちんぷんかんぷん、よく知ろうとすれば脳震盪を引き起こすんじゃないかって感じだけど。見る人が見たら、分かるんだなあ……
私が他人事みたいにそんな感想を抱いていると、すぐさまクラウス先生が研究室に戻って来られた。
「ソフィー様、神体山解放です。行き先は、モーゼの杖の光が指してる方角と同じサナモニア山、騎士団とはいつも通り、凱旋門で合流します。ソフィー様は転移陣でお待ちください。エミール様は、神体山解放に参加するメンバーの招集を手伝って下さい。メンバーは、ご存じですよね?」
なんか、クラウス先生の言い方が少々とげとげしいような気がしたけど、気のせいかな? 急いでいるからだけかも知れないけど。
するとエミール様は、いと涼やかに、
「当然把握しております」
と仰った。
それから、クラウス先生は先生方と三年生の神体山解放メンバー、エミール様は二年生の神体山解放メンバーを招集することになり、私は転移陣で待ち合わせということで、それぞれの行き先へ向かった。
クラウス先生とエミール様は、最初の行き先が男子寮と同じなので、道中何やらクラウス先生が、『何故ソフィー様と一緒にいるのか』的なことを、問い詰めていらっしゃるような声が少し聞こえた。
とはいっても、二人とも足のコンパス長すぎで速攻行ってしまわれたので、何仰ってるのかほとんど聞こえなかったけど。
私は転移陣に行くだけだから、もう小走りする必要もなくなったしね。
まあ、エミール様なら適当に、良い感じでお返事なさることだろう。
「それでクラウス先生が、どうしてソフィー様と一緒にいたのかと問われましたので、『時期的に神体山解放が間近だと思った私は、ソフィー様から質問されていた入学式での模様を詳細に説明しながら、注意深く待機しておりましたところ、タイミングよくモーゼの杖からお告げがあり、一緒に参りました』と、答えました。私が他領地の生徒ながら、いかに神体山解放に熱心な生徒であるか、良いアピールになればと思いました」
と、飄々と仰るのはエミール様、ルシフェル以外の二年生を連れて私が今いる転移陣に来られて、私にクラウス先生との会話を説明をして下さっている。
ちなみにルシフェルと三年生、そして先生の神体山解放メンバーは、クラウス先生が連れてこられることになってるんだけど、まだ戻って来ていらっしゃらない。
ルシフェルはまあ、ルーク兄様に呼びに行かせたかも知れないなって思った。
そしてエミール様は、さらにお話を続けられる。
「ですが、さすがにクラウス先生はそんな簡単にはいきませんね。無理を承知でゴリ押しアピールしてみましたが、訝しそうに私を見られ、ひとつため息を吐かれてから、『今後は神体山解放時期が近くなっても、ソフィー様や私の周りをウロウロする必要はありません』などと仰り、三年生の部屋がある階へ、すぐに行ってしまわれました」
ま、まあ、確かにそうだよね、神体山解放メンバーに選ばれてるなら待ってれば招集かかるんだから、私やクラウス先生の周りを常にウロウロする必要はないと思う。
すると、エミール様が今まで見たことない(っていうか、今日が初対面だけど)悔しそうな表情で、仰った。
「それにしてもクラウス先生は、本当に謎多きお方です。ソフィー様にも先ほど申し上げましたように、私は王立学院の生徒の情報収取、またそれだけでなく、先生方の情報収集もしているのですが、実はクラウス先生の情報がほとんどないのです。ぜひともクラウス先生の趣味嗜好を理解し、今後の対策を練りたいのですが……」




