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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第十一章■ TO THE FUTURE(未来へ)!
80/86

[80]糸の先?

『何故だ! シュクリよ、一体何処へ行こうという!? 戻れっ、戻らぬのなら……せめて動きを止めよ!!』


 上空の赤黒い煙は、焦燥を隠せぬように右往左往していた。


(ね、エルム。シュクリは何処へ向かってるの?)


 サリファ同様行き先を知らないあたしも、さすがにエルムに問い(ただ)した。シュクリにはちゃんとした目的地があるのだろうか?


(うん、アタシの知らない国にあるのだけど、リトスがウェスティと一緒に訪れたことのある島だって。そこにもシュクリみたいに大きな山があって、火口の中はガスが沢山充満していて……ウェスティは二十年前にそこへ火を放ったの。ガスに引火した山の中は、それからずーっと燃えてるんだって!)(註1)

(うん!?)


 それって……何処かで聞いたことのある話だった。えぇと、何処だったろう何だったろう……あー頑張ってよ、あたしの脳ミソ! これだからママにもヴェルまで宿題持たされる羽目になるんだってば! ……ん? 宿題!? そうだ……宿題!!


(あたし、それ知ってる! 『悪魔の口(インターデビル)』って呼ばれている無人島の火山だ。確かに教科書には二十年前から急に燃え出して、今でも燃え続けてるって書いてあった。でも……まさかウェスティがその火を点けたなんて!!)

(リルヴィのママは気付かなかったみたいだけど、二十年前にウェスティはリルヴィのお家からその島まで『糸』を張ったのだって。今シュクリはその『(みち)』を辿ってるの。だからその内火口の上に着くよ。そして辿り着いたら……アタシ達の出番)

(あたし達の?)


 あたしの質問にエルムは大きく頷いた。


 ──リトスから聞かされた計画はこうだ──

①サリファの目を盗み、あたしだけシュクリの外へ。まずは『ラヴェンダー・ジュエル』が捕縛している「二千六百年()の悪意」を火口へ投げ落とす。

②次にシュクリの火口上空からサリファ達「二千六百年()の悪意」を『ジュエル』に吸い取り、再びインターデビルへ投げ落とす。


(ココなら山の中で炎がグルグルと渦巻いているから、サリファ達をずっと閉じ込めておけるって!)

(そうなんだ! でも……あたし、どうやって外へ出よう?)

(アタシも天使のはしくれだもん! リルヴィとリトスが頑張っている間くらい、アタシも頑張ってサリファを封じ──)

(あっ! ちょっと待って……確か向こうにビビ先生が教えてくれたトンネルが……それが崩れていなければ、きっと外へ出られると思う!)


 あたしは地面と岩壁の境界をグルりと見渡した。ツパおばちゃんとビビ先生が助けに来てくれた時に通った狭いトンネル。そこから外へ出られるなら、エルムの負担も少なく出来る!


(あ! あれ、あの窪みがそうだよ! でもあたしがいない間、エルム一人で大丈夫!?)


 光明を見つけた喜びとこれからの不安が、あたしの中で交差した。

 エルムを連れて外へ出られないこともないけれど、誤って彼女を落とすことにならないとは限らないものね。


(大丈夫だよ! リトスがサリファを吸い取ってくれるまで、リルヴィの幻影を造って惑わすから。だからゴメンね、ちょっとだけ髪の毛ちょうだい)

(あ、うん……っ!)


 エルムはおもむろにあたしの横髪をつまんで、「ゴメン」と再び一言、指に力を込めて数本を引き抜いた。この魔法も見事に繋がる──サリファが生み出したザイーダやママの幻影。やはりサリファはエルムを乗っ取ることで、エルムの持つ力を悪用していたんだ。


(それじゃあ、行くね。エルム、本当に気を付けてね!)

(うん、リルヴィこそ気を付けて! リトス、リルヴィをよろしくね!!)


 エルムの願いに、仄かに光るラヴェンダー・ジュエル。

 今一度上空のサリファを見上げて、あたしは一気にトンネルを目指した。今でもサリファはパニックに陥ったように、火口の入り口付近を波立つ海のように騒めいている。

 無事に通路の端に辿り着いて、その陰に隠れながら後ろを振り向いてみた。──本当だ! エルムはまるで怯えるようにあたしの幻影にしがみついている。これでしばらくはサリファの目も(あざむ)ける筈!!


 ──行こう、ラヴェンダー・ジュエル。ううん、リトス=ヴェル=デリテリート!


 心の声にリトスが再び反応を示した。淡く灯る薄紫色の光に導かれて、あたしとリトスは出口目指してシュクリの地下洞を進んでいった──!!




[註1]「悪魔の口(インターデビル)」はトルクメニスタンの天然ガス田「地獄の門 (タルヴァザガスクレーター)」をモデルにさせていただきました。こちらは既に五十年燃え続けています。




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