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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第十章■ TO THE SKY(空へ)!
77/86

[77]ヴェルの旅立ち?

「ダメ……シュクリ、きっとサリファに操られてる……どうしよう、このままじゃ……」

「うそぉ~~~!?」


 神様までをも操るだなんて!! サリファは一体どれだけ強大な力を身に着けているというの!?


 シュクリの地響きは治まるどころか、次第に大きく激しくなっていった。やがてずっと下から赤黒い煙がスルスルと湧き上がって、まるで上方向へ逃げるように視界が晴れ渡った。

 もしかしてココって以前山頂からあたしが落とされた火口底!? あたし達を取り巻くシュクリの岩壁が、物凄い音を立てながら揺さぶられている。 


「シュクリ! お願い!! お願いだから──!!」


 エルムの必死な願いは届かず、ついにシュクリが……浮かび上がった!?


「うそぉ~~~!?」


 自分達の浮遊は静止しているのに、周りの景色は明らかに上昇しているのだ。どんどん眼下の地面が近付いてきて、あたしは慌てて上へと飛んだ。見上げた先のサリファの赤霧は、火口を塞ぐように傘状に広がっていった。


「一体どうなってるの……!?」


 エルムとあたしは空間に合わせて浮上し続けながら、上下左右を(せわ)しなく見回した。


『フフ……ヴェルは再び「空の国」と化すのさ。世界を支配する為にね……』

「……えぇ?」


 あたし達の戸惑いに、嬉々として答えたのはサリファだった。でも空の国って……またヴェルを宙に浮かべようというの!? それより世界を支配するためにって……?


『われがこんな小国で満足すると思ったか? 全ては世界を手に入れる為の布石よ……二十年前と三十年前の我が息子(ウェスティ)の功績を覚えておろう? あれはジュエル継承者の「種」を根絶やしにすることだけが目的だったわけじゃない……ヴェルを世界の中心へ()し上げる為の下準備さ。リルヴィ、お前が斬ったエルムの糸のように、ウェスティはヴェルから世界中へ『糸』を張り巡らせていたのだよ。つまり、これからその糸を辿って、ヴェルが世界を支配するのさ……!』

「ヴェルが……!?」


 二十年前・三十年前──国外の王族や三家系の子孫を虐殺するため、ウェスティが各国を巡ったあの時。サリファはヴェルにいながらそんな細工を仕込ませていた……!?

 悦びの笑い声が響き渡り、霧はあたし達の頭上でメリーゴーランドの天井の如くグルグルと回転した。が、それも一瞬の内に──ピタリと止まった!?


『……ちぃっ! 不完全であったか……? まぁ良い。本体は後でどうにでもなる。シュクリさえ手に入れればこちらのモノだ』


 サリファの独り言に、エルムもまた動きを止めた。何かを感じ取ろうと神経を研ぎ澄ませているみたい。やがて哀しそうな表情でこちらを向いたエルムは、サリファに聞こえないように小声であたしに呟いた。


(リルヴィ……驚かないで聞いて。シュクリ山がヴェルから分裂した。だから島本体は今も海の上だよ。サリファとアタシ達だけが、シュクリと一緒に空を飛んでる)

(えぇ!? そ、それじゃ、パパ達は!?)

(えぇと……うん、大丈夫! みんなもうシュクリの麓を抜けたから、無事に本体側にいる!)

(よ、良かった~~~!!)


 喜べることなど、とりあえずでしかないかも知れないけれど。五人と二匹が安全な場所へ避難出来たことに、あたしはひっそり安堵の息を吐いた。と言っても島の三分の一に当たるシュクリ山が突然飛んで行ってしまったのだから、地上は相当な大騒ぎだろう。大きな地震や崖崩れ、もしかしたら津波なんかも起きているかも……そんな心配に蒼ざめてゆくあたしを察して、『ジュエル』が地上の様子を脳裏に映し出してくれた。


 大勢の人々が呆けたように空を見上げているヴィジョンが見える。やがて視界はズームアウトして、俯瞰(ふかん)した街並みは徐々に小さくなり、島全体を見渡すことが出来た。海岸線はいつもの通り穏やかな波を立てているだけ。中央部、シュクリが(そび)えていた部分にはポッカリ巨大な窪みが出来ているけれど、他には特に問題はなさそうだ。こんなに被害が出ていないのは『ラヴェンダー・ジュエル』のお陰だったりするのだろうか? それとももしかして隣にいるエルムが? いえ……出来ればシュクリの恩恵であると願いたかった。ヴェルの神様が悪魔のようなサリファの言いなりになっているなんて、そんな怖しいこと信じたくないもの!


 それでもこの二千六百年の内に三度の失敗を経て、ついに四度目の今回サリファは五十年もの時を費やし、ウェスティを使って壮大な策略を仕掛けたのだ。神様ですら太刀打ち出来ない相手なのかも知れない……ネガティブな考えが心を黒々と染めてしまう。そんな気持ちが震えとなって、腕を絡め合うエルムにも伝わってしまった。


「ごめんね、リルヴィ……」


 弱々しい声音に顔を傾ければ、泣きそうな顔をしたエルムがあたしの顔を覗き込んでいた。


「えっ、あ、ううん……あたしこそごめん。ジュエルとあたしが一緒なら、もっと簡単にやっつけられるかと思ってた……」

「ううん……今までと同じ状況だったら、きっと簡単だったと思うよ。でもこのままじゃ……」

「そう、だよね……」


 シュクリが単独で空へ飛ばされているという緊急事態の今、そんなことをしたらどうなってしまうのか……あたし達には想像もつかないのだもの。

 とにかくシュクリを一刻も早くヴェルに戻して、サリファを封じ込めないと! その手段を考えあぐねている間にも、ジュエルが見せる外の景色はスピードを増して流れてゆく。眼下に見えるのはまだ海だけだけど……シュクリは東の大陸へ向かっているような気がした。

  

「サリファ……シュクリを、あたし達を何処へ連れて行こうというの!?」


 益々黒みの増していく天蓋(サリファ)を見上げて、あたしは大声で叫んだ。


『フン……もちろん決まっているじゃないか。お前の生まれた……そうさね、お前の恋し~い「お(ウチ)」へ、だよ……!!』

「うそぉ~~~!?」


 サリファの目指す目的地が……──「我が家」って一体どういうこと!?




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