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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第十章■ TO THE SKY(空へ)!
74/86

[74]真の救世主(メシア)? *

「ラヴェル、此処は私に任せてください」


 全員の沈黙を破ったのは、ツパおばちゃんだった。


「ツパ……」

「サリファに因縁を持つのは私です。それこそ生まれる以前から……──ですから。私にチャンスを頂けませんか? ちゃんと策はあります」

「ツパイ……」


 真剣なツパおばちゃんの訴えに、その名を呟いたのはパパとビビ先生だった。ツパおばちゃんの言う「策」。それは──


「ツパイ。貴女が変わらず命を賭して闘おうというのでしたら、ラヴェルさんには『ジュエル』を貴女に渡させはしません」

「ビビアンさん?」


 案の定ビビ先生は見通していた。やっぱり憑依したサリファごと、自分の命を絶つことしか策はないと、ツパおばちゃんが考えていると気付いているんだ。


「師よ……サリファの前で露骨な発言はお控えください。今の私はそのような野蛮な策は考えておりません。一番は全国民を守ること……既にサリファはリルヴィとの交渉で、全員の命を保証すると約束致しました。つまり……これから成すべきことは、サリファを滅ぼすことではない。ヴェル国家代表として、お互いにより有益となる道筋を作る──交渉を行うということです。その為には彼女が欲する『ラヴェンダー・ジュエル』は不可欠。ですからラヴェル、どうかジュエルを……僕を首相にと推薦してくれたのは貴方でしょう?」


 ツパおばちゃんがパパの目前まで近寄り手を差し伸べた。パパを見上げるおばちゃんの紅い瞳と、見下ろすパパのラヴェンダーと黒曜の瞳。どちらの真剣な眼差しも揺るがずに合わさっていたけれど、刹那パパの表情が緩み、フッと笑って瞼を閉じた。


「ラヴェル……?」

「いつもはお見通しの君だけど、今回は逆転したね、ツパ。君に……ジュエルは渡せない」

「──!?」


 パパは再び瞼を開いて、静かに見守るビビ先生に目を向けた。そう、二人は、そしてあたしも気付いたんだ……ツパおばちゃんが嘘をついたことを!


 ──『僕』を首相にと推薦してくれたのは貴方でしょう?


 動揺すると昔の癖で、自分を『僕』と呼んでしまうツパおばちゃん。パパもビビ先生もそれに気付いた!!


「ラヴェル! どうか、どうかお願いします!!」

「ダメだよ、ツパ。サリファは私が倒す。ビビアンさん、全員を連れて退避してください」

「はい!」


 即座に返事をしたビビ先生は、まずはあたしの背後のカプセルに走り寄った。そうしている間にもパパは剣を抜き、その動きに呼応した赤い煙が生き物のように渦を巻き始めた──でも。


「ごめんなさい、パパ」

「──えっ!?」


 切っ先の前に立ちはだかる──慌てて剣を下げたパパの瞳を、真っ直ぐ貫くあたしの熱視線。


「ごめんって……リル、逃げなさい!」

「ごめんなさい、パパ……ママにも、みんなにも。でも、ダメなの……パパじゃエルムを救えない。サリファは倒せても、エルムは救えないの!」

「エルム……!?」


 カプセルからようやく抜け出した二人と、アイガーの寄り添ったツパおばちゃんとビビ先生も怪訝そうに集まってきた。


「ツパおばちゃんが言った『名もなき少女』だよ……あの子はサリファなんかじゃなかったの。サリファが動くために操られてきた神様の使い……ココで決着をつけないと、また六百年後にエルムはサリファに取り込まれてしまう! だから!!」


 肩に乗ったピータンを、あたしは優しくパパに返した。


 ごめんなさい──パパとママの想いを、あたしは裏切ろうとしている。

 魔法とは無縁の普通の生活。でもたった一度だけでいいの。ジュエルの力をあたしに貸して!


「リル……」


 戸惑うパパの手は動こうとはしなかった。分かるよ……パパがあたしを危険な目に遭わせるような行為なんて出来ないことは。でも!!


「『ラヴェンダー・ジュエル』」


 あたしはパパの左眼(ジュエル)に呼び掛けた。


「エルムを、ヴェルを、サリファから永遠に救い出したいの! だから力を貸して……『リトス』」


 途端仄かに光り、ジュエルは反応を示してみせた。

 あたしはもう一度、ゆっくりとはっきりと呼び掛ける。


「協力して……お願い! 『リトス=ヴェル=デリテリート』!!」


 辺りが一気にラヴェンダー色の光に包まれた──!!



挿絵(By みてみん)




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