[71]男同士の絆?
「うん……それでこそ『サー・ルクアルノ』だね」
「アッシュ……」
呆然自失するあたしを横目に、アッシュとルクは……まぁ、何と言いますか……「良い表情」で見詰め合っていた。何だろう、この感じ……何か見えない絆で結ばれたような、堅固な信頼関係が築かれたような……とにかく何だか「イイカンジ」だ。
「じゃあ、ルク、これから言うことを良く聞いてくれ。まずサリファのことだけど、今相当に弱っているのだと思う。僕達を覆う赤い膜が、時々まだらに明滅しているのは分かる? で、光が暗くなる時、部分的に穴が開いているみたいなんだ。その瞬間を見極めてリルと一緒に逃げてほしい……いいね?」
「えっと……でも……」
最後の言葉にルクが戸惑いを示して、あたしもいい加減落ち着きを取り戻した。それってまた……アッシュは独り犠牲になろうとしているってことなの?
「さっきから格闘しているのだけど、残念ながらこの扉が開かなくてね……赤い膜の方がこれだけおろそかなのも、僕さえ確保出来ていればいいと思っているからなんだと思う。だからこちらに構わず行ってくれないか? 此処で手をこまねいている場合なんかじゃない」
「う、ん……」
ルクの返事は歯切れは悪いものの、早く行かねばと腰を浮かせてこちらを向いた。申し訳なさそうに、あたしに右手を差し出してみせる。「ルヴィ、行こう」そう訴えるルクの瞳に、けれどあたしは頭を振った。
「ルヴィ……?」
「……ごめん、ルク。あたしもココに残る」
「──リルっ!?」
「やっぱりあんなことをしてしまったから……」そんな想いに惑わされ始めたルクへ、あたしは咄嗟に「違うの!」と叫んだ。潤んだ翠の双眸は、それでも怯えるように見開かれていた。
「違うの、ルク……そんなんじゃないから心配しないで! ルクにもエルムとあたしの会話は聞こえていたのよね? あの時思ったの、サリファに縛りつけられているエルムを助けられるのは、もしかしたらあたしだけなんじゃないかって。だから……ルク、お願いがあるの。パパの所へ行って『ラヴェンダー・ジュエル』を取ってきてほしいの。もしまだピータンの身体の中にあったら、ピータンごとでもいい。ねっ、お願いよ! ルク!!」
「ルヴィ……」
あたしはエルムに謝った時のように両掌を合わせて、ルクに向けて懇願した。
ルクはあたしの名を呟いたきり押し黙ってしまう。
「リル、どちらにしても今は此処から離れた方がいい……それに『ジュエル』を手に入れたいなら、リル自身で行った方が……」
「ううん! あたし、まだまだエルムの言ったことを全部は理解出来てないの。でもアッシュはきっと色々分かったのでしょ!? 今はそれをちゃんと理解して、ちゃんと整理して……次の行動に移したいの。そのためにはアッシュの協力が要る……ルクがジュエルを手に入れて戻るまで、あたしにはその時間が必要なの!!」
「……」
あたしの必死な訴えに、アッシュも言葉もなく俯いてしまった。
エルムはきっと相当なエネルギーを使って、あたしの前に出てきてくれたんだ。だからこそこうしてサリファも消耗している。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。今知ることの出来る情報を、しっかり理解しておかなくちゃいけない。
「「……分かった」」
「え?」
あたしの願いに数秒置いて、応えた声が同時に二つ。それはもちろんアッシュと……そして、ルク、だった。
「ルヴィ、分かった……必ずジュエルをもらってくる! だからボクが戻るまで……必ず、約束して」
「約束?」
そうお願いしたルクの面立ちは、いつになく落ち着いて見えた。
「ボクが戻るまで、ルヴィもアッシュも、絶対、無事でいるって」
「え、あ……うん!」
慌てて返事をしたあたしに、ルクは一つ頷いて立ち上がった。次にアッシュに向けて大きく頷く。アッシュも言葉は発しなかったけれど、同じく首肯したのを見て、ルクも大きく頷いた。
「ありがとう、ルク。ルクも絶対、無事に戻ってきてね!」
「うん、お互い約束だよ!」
見送ろうと立ち上がった足が、布団にもつれてバランスを失った。よろけたあたしを咄嗟に支えたルクの腕は、力強くて温かくて……今までで一番たのもしく感じられた。
「ルク……分かってると思うけど、此処は王宮の東南の間だ。となれば南門を抜けるのが一番速いけれど、門番がいたら厄介だから……」
「そしたら南門から東へ三つ目の木の先を見て! 生け垣の下に小さな隙間があるの。あたしも通れるから、きっとルクも何とか行けるはず!」
「ラジャー! アッシュ、ルヴィ。それじゃ……サー・ルクアルノ、行ってきます!!」
ルクは寝台から颯爽と飛び降りて、クルりとこちらを向き敬礼した。再び背を向けて、アッシュの「今だ!」という声に合わせ、灼光の薄らいだ穴をくぐり抜けた!
まるで赤いトンネルを突き進むようなルクの後ろ姿は、今までに見たこともないほどの勇気と闘志に満ち溢れていた──!!




