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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第九章■ TO THE PAST(過去へ)!
70/86

[70]二人の気持ち?

 瞼の向こうの眩しさが和らいだ気がして、あたしはそっと瞳を開いた。

 少しずつ鮮明になってゆく視界が見せてくれたのは、先程まで脅威に晒されていたおばあちゃんの寝室だ。エルムが現れる前のように、天蓋の支柱は床に転がったままだった。


「あっ……アッシュ!? アッシュ!!」


 折れた支柱の根元にも変わらずカプセルがもたれ掛かっていて、その中でアッシュは気を失っているようだった。


「う……ん。あ……リル?」

「大丈夫!? アッシュ?」


 ココへ飛ばされた時と反対にあたしの呼ぶ声で目覚めたアッシュは、少し()だるそうではあったけれど、しばらくしていつもの調子を取り戻した。


「残念ながら、まだサリファの手中みたいだね……」

「えっ?」


 カプセルの中から見上げるアッシュの視線の先を仰ぐと、確かにある筈の天井は見えず、代わりにドーム状の赤い膜が、まるであたし達を鳥籠に閉じ込めるように覆い尽くしていた。


「でも、どうやらサリファは力を消耗しているみたいだ。赤い光に力強さが感じられない。僕達三人を繋ぎ留めておくことで力を使い過ぎたのか、それともエルムが現れたことで何かしら影響を受けたのか……」

「アッシュ……? えぇと……エルムって!?」

「うん。僕にもリルとエルムの会話が聞こえたんだ。「あちらの世界」に呼ばれたのは、リルだけだったみたいだけど」

「……!」


 あたしはほっとしたように大きく息を吐き出した。エルムの存在、エルムから聞かされた過去……全ては夢ではなくて、本当のことだった! 何よりアッシュが聞いていてくれたとなれば、そこから導き出されることがきっとこれからのヒントになる筈!!


「リル、サリファが弱っている内にまずは逃げよう。悪いのだけど、ルクを起こしてくれる?」

「え? あ……ルクって、何処にいるの?」


 先程見渡した限りでは、ルクは視界に入らなかったのだ。それでも「あそこにいるよ」とアッシュが目で教えてくれたのは、あたしが眠っていた寝台の足元。ルク自体は見えないけれど、こんもりとまあるく布団が盛り上がっている。


「ちょっと、待っててね……」


 あたしは立ち上がって寝台に戻ろうとした。でも……その時、何かが邪魔をした。何か……じゃない、この気持ち、邪魔しているのは自分の気持ちだ。


 「怖い」……そう、思ってしまっていた……ルクを起こしても、もう大丈夫だろうか? もう、襲われたりはしないだろうか? 今は鎖などあたしを拘束する物は何もないけれど、今でもサリファには捕まえられている。ルクは……もうルノじゃなくてルクだろうか? あれがルクだったとしても……ううん、あの時のルクはルクじゃなかった。サリファはルク自身の意志だと言ったけれど、サリファに抵抗して手を止めてくれたのはルク本人だったのだもの!


「大丈夫だよ、きっと」

「う、ん……ありがと、アッシュ」


 向けていた背中を、アッシュの優しい声が後押ししてくれる。

 そうだよね! ルクはきっともう大丈夫!

 寝台に上がり、膨らんだ布団に近付く。遠目には眠っているように思えたけれど、目の前のふくらみは小刻みに震えていた。


「ルク……リルヴィだよ。ね、大丈夫?」


 優しく声を掛けて布団の上に手を乗せてみる。すると塊がビクンと大きく跳ねた。


「ルク、あの、ね……」

「き、来ちゃ……ダメだ! ボクは、もぅ……ル、ルヴィに、顔向け、出来ない……」

「ルク……」


 くぐもった声は困惑を露わにしていた。より一層縮こまろうと、ギュッと布団が小さくなる。

 ルク……あの時の記憶があるんだ。その事実は、あたしにとっても衝撃だった。

 でも……強制的な力にあんなに頑張って抗戦してくれた……あれこそがルクだったんだ。


「ルク、あの……」

「ルク」


 どうにか気持ちを切り替えさせなくちゃと思案していたあたしの声掛けに、割り込んできたのはアッシュの声だった。


「ルク、三年前、僕に宣誓したあの気持ちは嘘だったのか? リルを守れる存在になりたいと、剣を取ったあの時の気持ちは」

「アッシュ……?」


 頑なに布団に隠れたルクの震えが、その呼び掛けに刹那に止まった。


「そんな(やわ)な気持ちだったというなら、リルは僕が奪う」

「「……え?……」」


 驚きの声を上げたのは、ルクとあたし自身だった!

 アッシュがあたしを「奪う」って……どういうこと!?


「ルク、君は気付いていなかったみたいだけど、僕もずっとリルのことが好きだ。でも三年前、君からリルに恋していると聞かされて、君の真っ直ぐなリルへの気持ちに、僕は一度諦めた。だけど先刻サリファに言われて図星だったと自分を恥じたよ……僕はもう自分の家族から逃げない。ちゃんと向き合って、母を助けたい。家族を取り戻したい。それが出来たら……いつかリルに交際を申し込む。ルク、君にだって僕に負けない気持ちがある筈だ。なのに今、それを投げ出すのか? 諦めるのか? こんなことくらいで……終わらせる気持ちだったのか?」

「アッシュ……」


 あたしは……今どんな顔をしていれば良いのか分からなかった。

 メインはルクを叱咤激励しているのだとは理解したけれど、これって……アッシュはあたしに「告白」したの、よねぇ……? 二人のあたしへの気持ちは、その前にサリファが勝手にバラしていたけれど……あたし……こんなこと初めてだから、一体どうしていれば良いのかなんて分からないよぉ!!


「……」


 無言のままモソモソと布団から這い出てきたルクは、同じくどういう表情をしたものかといった戸惑いを載せて起き上がった。


「……そんなんじゃ、ない……」

「ルク……?」


 眼下の布団を見下ろしながら、微かに呟くルク。

 やがてその(おもて)を依然カプセルに囲われたままのアッシュへ向ける。

 そして……一瞬で変わる、決意を秘めた真剣な横顔。


「そんなんじゃ、ないっ! ボクは……ボクだって、ルヴィが大好きだっ!!」


 ──……ひぃやぁあああああ~!!


 お互い「あたしを好きだ」と告げながら、その視線は「あたしに向かっていない」というこの奇妙なシチュエーション! やっぱり……どんな顔して、二人を見たらいいんだってば──!?


 ──もうっ、本当にっ、分かんないよお~~~!!




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