[66]○○の作り方? *
「サリファ……ルクを返して! 早く二人を解放して!!」
サリファはルクにニヤニヤとさせながら近付いてきた。いつもと違う気持ち悪さを感じたあたしは、寝台の上を極力後ろへ下がろうとしたけれど、すぐに幾つも重ねられた枕の壁に突き当たった。
『言ったろう? ルノは「任務」を終えれば返してやる……が、アシュリー、お前もしつこいねぇ……そんなに二人の睦言を聞きたいか?』
「「むつ……?」」
ルクはついに寝台の足元までやって来て、端に腰かけながらアッシュにいやらしく笑ってみせた。
「むつごと」というのがあたしには分からなかったけれど、どうやらアッシュはその意味を知っているらしい。そして……その理解と同時に戦慄した。
「そう……いうこと、か……おばさんが曖昧に「惨いこと」と言った意味がようやく分かった。サリファ、それだけは……どうか、やめて、ください。僕に出来ることなら何でもします! ですから!!」
「アッシュ!?」
今にもカプセルを倒しそうな勢いで、アッシュはサリファに嘆願した。どうして急に敬語になったの? どうしてまた身代わりになろうとするの!?
『お前もルノも、そしてリルヴィ、この可憐な王女様も、もちろん「初めて」であろうなぁ? かつて多くの王に愛されてきたわれが、手取り足取り教えてやろうというのではないか……お前も勉強になるであろう? 其処で瞬きせずに愉しめばいいさ』
「お願いですっ! どうか……どうか考え直してください!! 僕の身体でも何でも、出来る物は全て捧げますからっ!!」
「アッシュ……」
サリファの言っている意味が分からなくても、アッシュの焦燥からこれから始まる何かが「死よりも惨いこと」であるのは想像出来た。でも、どうしよう……アッシュはカプセルから出られないし、あたしもこの鎖、外せないよぉ!!
『さぁて、そろそろウブな王女様にも教えてやろうか? お前ももう十四歳だ……ぼんやりでも「子供の作り方」くらいは分かるであろう?』
「こ、ども……?」
「サリファ! サリファ、どうかお願いです!! 貴女は乗っ取る肉体が必要だと言った……今は僕の身体だけでも十分でしょう!?」
言われた意味を嚙み砕いている間にも、アッシュは必死に説得を試みていた。あたしの聞き間違いじゃ、ないよね? 「子供の作り方」って……えっと、それって、つまり……!?
『アシュリー、そんなに焦る必要などないであろう? リルヴィにもルノにも、苦痛を与える訳じゃあないんだ……むしろ快楽と言って良い。大人の階段を一歩上るだけさ……年上のお前を差し置いてになるがな』
「サリファぁぁぁ……!!」
アッシュが低い唸り声を上げた。あたしは多分……半分は理解したのだと思う。パパとママが愛し合ってあたしが生まれた。あたしと……誰かが、愛し合うってこと……? 誰が!? いや……近付いてきているのはサリファの乗り移ったルクだ……でもっ、やっぱり良く分からないってば!!
「何? 何なの? どういうこと!? 良く分かんない! 分かんないけど……とにかくこっち来ないでっ!!」
『フン……可愛いねぇ……まさか自分が男になって、女を押し倒すことになるとは思わなかったが……』
「どうか……どうか、お願いします!! それだけは、どうか……っ!!」
ルクは相変わらずニヤニヤと嗤いながら、とうとう寝台に上がって四つん這いに向かってきた。アッシュがカプセルの壁面を叩き、それは少しでもサリファの行動を遅らせようと、気を散らしてくれているのだと気付いたけれど、その間にココから逃げ出す手段なんて、幾ら周りを見回してもどうにも見つからなかった。
けれどアッシュの努力が功を奏したのか、ルクはふと動きを止め、ゆっくり彼へと面を向けた。
『アシュリー……お前はやはりリルヴィを諦めきれていないということか? 三年前の再会時、お前はルノにその道を譲ったのであろう?』
「……っ」
アッシュの拳も叩きつけたまま動きを止める。
『三年前……再会した十一歳のルノは、ようやくリルヴィへの恋心に気付き、お前と同様愛しい人を守りたいと剣を取った。その時お前は一度諦めたじゃないか……言葉の暴力を振るう父親を止められず、壊れてゆく母親は見て見ぬ振り、ついには家に帰ることからも逃げ出した自分に、リルヴィを愛する資格などないと』
「アッシュ……?」
雰囲気に呑まれたあたしの動揺する心は、サリファの話す内容も、アッシュの見せる表情の意味も、ほとんど理解出来なかった。
『……なのに、どうした? ルノでは頼りないと悟ったか? それとも……もったいないとでも思ったのか? やはりお前もリルヴィが欲しいと……だがそうはいかないんだよ。『王女様』と交わるのは、ヴェルに縁のないお前じゃあダメなのさ……なぁリルヴィ?』
そうしてルクは再度こちらを向いた。
再びこちらに四つん這いで近付いてきて、あたしは真後ろの枕をあるだけ投げつけた。だけど枕なんて柔らかい物、武器になんてなる訳がない。ルクは顔色変えず──いや、むしろ益々ニタニタとして──「来ないで!」と叫ぶあたしの真上に、ついには力ずくで圧し掛かった。
『鈍感娘め……まだ分からないのか? アシュリーもルノも、喉から手が出るほどお前が欲しいんだとさ。二人の男に愛されても、お前はまた「選べない」と言うのだろうけどね。結局ルノに抱かれるしかないんだよ……そろそろ気付いたかい? 王家の血を引くお前と、三家系の一つ【癒しの民】の血を引くルノ……性別は逆転したが、これで『ジュエル』を宿す依り代が作れるという訳さっ!』
「リル! リルっ!! サリファの言葉なんか聞くなっ!」
「……よ……り、しろ……?」
「よりしろ」という言葉も知らなかったけれど。前後の内容から、あたしの脳は少しずつ理解した。
かつてサリファが憑依した三家系の一人と、ヴェルの王族から生まれたウェスティ。サリファは再びウェスティのような『操り人形』を生み出そうとしている──?
舌なめずりをしながらあたしの両手首を掴んだルクの顔は、視界の端にようやく入れて把握しただけで、もう直視することなど不可能だった。
……怖い……怖い……良くは分からなくても、ルクの全てを拒絶しようと、あたしの身体は粟立っていった──。




