表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第九章■ TO THE PAST(過去へ)!
65/86

[65]初めての瞋恚(しんい)?

「リル……リル……──」


 自分の名を呼ばれて目覚めるのは、もう何度目だろう?


「リル! リルっ!!」


 けれどその声色は、いつもの穏やかで優しいものではなかった。とても深刻そうで、とても必死で……あたしの意識も無理矢理引き寄せられるように覚醒した。

 

「ん……」

「リル! 大丈夫か!?」


 自分の右耳に吸い込まれた名を、奏でていたのはアッシュの声。

 僅かに開いた瞼から見えるのは……鍾乳洞の天井じゃない。アッシュが火口下のあたしの許へ飛ばされた時のように、きっとあたしも何処かへ飛ばされたんだ。そして呼び掛けるのがルクじゃなくて、アッシュだっていうことは……?


「……ア、アッシュ!?」


 あたしはようやく瞳をまともに機能させて、すぐさま声の方向へ顔を向けた。

 一気に鮮明になった視界には、同じようにこちらを心配するアッシュ。でもその身体は飛行船の脱出用シューターらしきカプセル状の空間に閉じ込められている。


「アッシュ! 大丈夫!? えっ……やだ、何これ……どうなってるの!?」

「リル、落ち着いて……あんまり引っ張ると手首がすりむける」

「あ……」


 動くと共に金属音がジャラジャラと耳障りに響き渡って、両手首が鎖で繋がれているのだと理解した。鎖の先を辿った視線が、左右に見える木製の細い柱に行き着く。寝かされている柔らかな布の手触り、支柱の繊細な彫刻、そして女性らしく小花の散りばめられた可憐な文様の天蓋は……これ、きっと王家のおばあちゃんの寝室だ!


「アッシュ……一体どうして?」


 徐々に状況を把握したあたしは、カプセルの向こうのアッシュに問い掛けた。鎖で繋がれているけれど、それなりに長さがあるので何とか身を起こし、行ける所まで寝台の端に近付いた。


「二人が消える瞬間、ビビアンさんに赤い光の上まで放り投げてもらったんだ。お陰でリル達と一緒に此処まで来られたけど、サリファは同時に先生のカプセルまで転移させたらしい。そんなことより……」


 そこまで話して一度歯を喰いしばったアッシュに、一瞬あたしの身体が震えた。初めて見せる憤怒の表情……それは明らかにあたしに向けられていた。


「どうして……どうして一緒に逃げなかったんだ! ビビアンさんが作ってくれた好機を、リルは……どうしてっ──」

「……」


 こんなに恐いアッシュをあたしは知らなかった。もちろん分かっている……あたしを心配してくれたからこその怒りなのだと。でも……


「……でも、ツパおばちゃんがもし本当に死のうとしていたのなら……」


 ──自分独りが逃げるだなんて、やっぱり出来なかった。

 あたしは……ツパおばちゃんに死んでなんかほしくない──誰一人、死なせたくない。


「ビビアンさんが残るって言ったじゃないかっ! あの人ならきっとツパイおばさんを守ることが出来た。あの場はビビアンさんが何とかしてくれると信じて、退却すべきだったのに……いや、僕が是が非でもリルを連れ去れば良かったんだ……僕が不甲斐ないばっかりに……!!」

「アッシュ……」


 後悔の念に(さいな)まれて頭を抱え込むアッシュの苦悶の姿に、あたしは二の句が継げなかった。

 またこうしてあたしは周りを苦しめるだけなんだろうか? 傷つけるだけなんだろうか? アッシュだけでなく、きっとツパおばちゃんもビビ先生も、パパもママもタラお姉様達も、今もあたしを心配してくれている筈だというのに──。


「ご、めん……ごめん、なさい。アッシュ……」


 振り絞った謝罪の言葉に、アッシュは刹那ハッと息を止めた。数秒落ち着きを取り戻そうとするように、胸に手を当てて呼吸を整える。やがていつものアッシュに戻り、それでもバツの悪そうな微笑みを、ようやくという様子でこちらに向けた。


「いや……ごめん、こんなことで取り乱して。過ぎたことは過ぎたこと、だね。それよりサリファの居ない内に、何とか逃げ出さないと」

「でも、あの、ルクはどうするの? サリファに乗っ取られたままじゃ……」

「今の状況では僕達だけじゃダメだ。応援を呼んだ方がいい。此処が本当に王室なら、合流するのも(やす)いかも知れない……それに、おばさんの言った言葉が気に掛かるんだ……『死よりも(むご)いこと』というのが。リルをそんな脅威には晒したくない」


 死よりも惨い……死よりも、なんてこと、他にあるのだろうか?


「アッシュはそれが何かを知っているの?」

「いや……正直分からない。でもいつも冷静なツパイおばさんが、あれだけの狼狽を見せたんだ。警戒するに越したことはない」


 アッシュは神妙に呟いて、ともかく脱出しようと足元の扉に手を掛けた。

 緊急用脱出シューターの出入り口は、奥の頭部側にパラシュートが設置されているため足側にある。

 アッシュが入れられたカプセルは現状「立って」いるので、扉を開けるには横倒しにする必要があるけれど、どうもそんなことくらいで簡単に開きそうにはないらしかった。


「参ったな……サリファが細工したみたいだ。リルの鎖も解かないといけないし……何か金属に勝てそうな工具とか近くで見つからないかな?」


 アッシュの言葉にあたしも動ける範囲から、道具になる物を見つけようと試みた。

 でもそんな悠長な時間、案の定続く訳もなくて──


『ご苦労様だねぇ……さて、そろそろ出番といこうじゃないか、ルノ』

「「サリファ……!」」


 回廊へ続く扉の向こうから、ルクのままのサリファが現れた──!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ