表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第八章■ TO THE FACT(真相へ)!
64/86

[64]跳躍の行方? *

 二人と繋いだ自分の両手に力を込める。ルクの左耳近くの地面には、ビビ先生の投げた矢が突き刺さっていた。

 このドーム状の空間の出口は、あたし達が入って来た通路の対角にあった。だからアッシュはあたしを(いざな)って、最短に当たるルクのすぐ横をすり抜けようとしたのだ。けれど通り過ぎる瞬間ルクの左手を掴まえたあたしは、同時に連れ出そうとするアッシュの左手も引き寄せていた。


「リ、リル!? ダメだっ!!」

「リルヴィ! よしなさい!!」


 アッシュとツパおばちゃんの焦燥の叫びが共鳴する。ルクの表情も驚きを示していたけれど、それも一瞬の内に邪気を(はら)んだ(わら)いに変わった。


「いいの。あたしはツパおばちゃんとは違う……死ぬつもりなんてないもの。誰も死なせたくないもの。だからそれを条件にする。サリファ、取引はこのヴェルにいる全員の命の保証よ。それが約束されるのなら、ルクを解放してあたしの身体を使って!」

『ほぉ……賢い選択だ』


 ルク(サリファ)は身を起こしながら、感心したように息を吐いた。立ち上がるや、放られた剣を魔法で呼び寄せ、それぞれ取り戻した自分の得物を、ルクとアッシュがお互いの首元に突きつけ合った。


『良いだろう。その条件、快く呑んでやるよ……われの野望は「支配」することであって、「死滅」させることじゃない。その為にも……ノーム、お前はウルの許へ戻り、早急に『ラヴェンダー・ジュエル』を手に入れよ。それまでルノは人質だ。まだ重要な役目を果たしてもらう必要もある故……』

「え!? ちょ、ちょっと待って! ルクを解放してって言ったじゃない!!」


 あたしは慌てて声を荒げた。早くルクを元に戻して、おばちゃん達と逃がしたいのに!


『もちろん解放してやるよ、「任務」を終えた後にね……これまでもわれはしっかり約束を守ったであろう? ユスリハの時も、ルクアルノとアシュリー、一人を選べと問うた時も』

「そうだけど……」


 そうだけど、そうでありながら、結局結果的には(あざむ)かれてきたんだ。だから今この時点で、サリファを信用するなんて本当は有り得ない。それでもみんなの命が守られるのならば。例えルクの解放を先延ばしにすることが、あたしへの脅威になるとしても──


『アシュリー、さぁリルヴィの手を放せ……フフ、安心をし。二人は丁重に扱おう。何せわれを甦らせる大切な二人であるからのぉ……』


 ルク(サリファ)は含み笑いのような声を洩らして、アッシュの目前の切っ先をユラユラと揺らしてみせた。握るあたしの手が力を抜いたことに気付いて、悔しげにルクを睨みつけるアッシュの瞳が哀しげにあたしに移された。


「やめなさいっ! リルヴィ!! やめるのですっっ──」


 向けていた背に叫び続ける声が、一層の動揺を抱えながら近付いてきた。ツパおばちゃん……喉の奥から絞り出された声は、心からの懇願だった。まるで声帯を潰されたかのような濁りの混じった声音に、一瞬あたしの心に惑いが生じた。こんなに苦しいおばちゃんの声、未だかつて聴いたこともない……おばちゃんにこれほど辛い想いをさせてしまったあたしに、いつか顔向け出来る日は来るのか……そう思うと、どんなに叫ばれても振り向くことさえ出来なかった。


「リ──っ!!」


 おばちゃんの気配が真後ろまで迫った時、ルク(サリファ)があたしの手を放し、自分の髪をザッと一束乱暴に引き抜いた。息を吹きかけながら投げられた赤茶色の髪が、あたしの上空で十数体のザイーダと化す。ドスンと大きな振動と共に背後に降ってきた化け物達は、一斉にツパおばちゃんに襲いかかろうとした。が、その寸前に半数はビビ先生の矢で、またその半数はアッシュの剣で倒れ伏した。


 残された四分の一との格闘に、愕然とするあたしへ近付く影──ルク(サリファ)


『さぁ……行こう、リルヴィ。われら……二人だけの世界に』

「二人、だけの……?」


 かち合った翠の瞳がニヤリと嗤う。おもむろに抱き上げられたあたしはいきなりの展開に萎縮して、サリファの行為を拒絶出来なかった。気付いたツパおばちゃんが必死に妨害を試みるけれど、すぐさまザイーダの大きな身体に堰き止められてしまう。赤茶の毛むくじゃらの向こうから、くぐもって聞こえる切ない祈り──


「ア、アシュリー! お願いします!!」

「はいっ!!」

『そうはさせぬわ……』


 途端あたしの後ろに赤い光のドレープが燃え立ち、まるでカーテンを引き閉じるように流された!


「アシュリーさん、飛ばします!」

「はいっ!!」


 光は地面から湧き上がる噴水のように、上へ上へと伸びながら左へも広がっていった。ビビ先生の「飛ばす」という言葉に即座理解を示し返事をしたアッシュが、先生へと向きを変えたのが微かに映ったけれど、それ以降の三人の姿は光に遮られ隠されてしまった。


 そして視界を覆い尽くした赤い波は、ルクとあたしの身体を包み込むようにグルグルと巻きついて──


「リル──っ!!」


 頭上に微かにアッシュの声? 瞳の先で(くう)を仰ぐルクの横顔も、(いぶ)されるように赤い煙に掻き消されていく。

 シュクリ山頂同様あたしは再び……いえ、これは自らの意志を持って、だ──サリファの手中に身を委ねた──。



挿絵(By みてみん)




   ■第八章■ TO THE FACT(真相へ)! ──完──




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ