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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第八章■ TO THE FACT(真相へ)!
62/86

[62]宿主の選択?

「ルクアルノ、リルヴィを「リルヴィ」と呼ぶということは、サリファに操られていないということですか?」


 左横にあった細い影が、あたしの前をスッと覆った。ツパおばちゃんがまだまだ離れた先のルクに問い掛ける。お願い、どうかそうであって! そうすればみんなで逃げられる!!


「うん! サリファは山頂に一旦戻ると言って今はいないよ。でもココを出るまでは「リルヴィ」って呼んだ方がいいと思って」

「良かったールク! 無事で!!」


 ルクがこちらへ手を振り走り出して、あたしも浮足立って駆け寄ろうとした。けれど手前のツパおばちゃんが右腕を伸ばし、あたしの動きを制止する。「まだ分かりません。警戒してください」──おばちゃんの(ひそ)やかな声にハッとした。そうだよ……サリファはあたし達の動向に気付いている筈だもの。みすみすルクを逃がすことなんて有り得ない。あたし達は用心しつつも、恐る恐る広場へ足を踏み入れた。


 サリファの光の中で見たままの姿、屈託のない笑顔。目の前に立ち止まったルクは、以前と変わらないいつものルクだ。でもその左腰には意外なことに、あの火口底で見つけられなかったアッシュの剣を(たずさ)えていた。


「ルク、その剣……何処で? サリファが持っていたのか?」

「そうだよ。隙を見て取り返してきた。アッシュもボクの剣、見つけてくれたんだね! 取り替えっこしよう?」


 ルクは嬉しそうに声を弾ませて、ベルトに結わえた紐を解こうと身をよじった。少しばかり戸惑いつつ、アッシュも同じく自分の左脇に手を掛ける。先にほどいたアッシュがルクの前まで進んで、鞘ごと剣を差し出した。なのにルクはやっぱりいつものように手間取って、諦めたように……動きを止めた?


 アッシュが手に持つ剣の()が、いきなりルクの右手で捕まえられる。刹那アッシュの右手も押し留めるようにその柄頭(えがしら)を抑え込んだ。だけど……でも!


『ありがとう、アシュリー。でも()は「ルク」じゃない……「ルノ」だよ』


 ──え?


「なにっ!?」


 利き手同士の力比べで、アッシュがルクに負けるだなんて!!


 妨害の甲斐もなくスライドした抜身(ぬきみ)の剣が、折り返されて振り抜かれる! アッシュは一瞬の出来事に反応し、すばやく後ろへ飛び退(すさ)ったけれど、ルクの切っ先が左上腕を(かす)め、瞬間鮮血が飛び散った!!


「──くっ!」

「ルクっ!? あ、アッシュ!!」


 叫んだ時にはもう、あたしの身体は背後からビビ先生に抱えられて、立てたカプセルの後ろに(かくま)われていた。左腕をダランと垂らしたまま、剣先を突き付けられ身動きの取れないアッシュ。依然彼自身の剣はルクの左腰元にある。


「アシュリー、大丈夫ですか? サリファ……やはりルクアルノの中に居るのですね? どうやって彼を取り込んだのです?」


 アッシュの斜め後ろで弓を引き絞ったツパおばちゃんが、冷静な声でサリファに尋ねた。そんな……ルク……さっきまであたしの知っているルクだったのに! ルクの唇から出た音は、突然サリファの声になってしまった。そして呼ばれた「ルノ」──ルクアルノの後半だ。でも、待って……ママの時と同じくザイーダが化けているだけかも知れない!!


「皮一枚斬られただけです。すみません、油断したつもりはなかったのですが、思った以上に力が強くて……ルク、操られているのなら今すぐ目を覚ませ!」


 アッシュがツパおばちゃんに、そしてルクに叫び、血で染まった左腕を右手で押さえた。ああ、でも……もしもザイーダだとしても、変身をといて確証を得られるまで、誰も攻撃出来ないよぉ!!


『簡単なことさ……リルヴィがわれに囚われないよう「リルヴィ」としか呼ばないことを条件に、ルノの肉体を戴いた。つまりリルヴィ、もうお前は用なしだ』

「え……!?」


 思いがけない台詞に、一瞬意味が分からなかった。あたしを「ルヴィ」と呼ばないってだけのためにルクは……でも用なしってどういうこと!?


『リルヴィ……われはお前でなくとも甦ることが出来るのは分かっておろう? もちろん「娘」でなくなったのは計算外だがね。ルノはわれにとっては血の繋がった又甥(またおい)ゆえ、幾分扱い易いだろうて……これはこれで好都合というもの』

「で、でもっ……『ジュエル』も必要なんでしょ!? そしたらあたしじゃなくちゃ、左眼が……」


 左眼の中が空洞でないのだもの……ピータンみたいに呑み込むつもりもないでしょうに、一体どうやって『ラヴェンダー・ジュエル』を身に宿すというの!?


『どうってことはないさ……ルノの左眼をくり抜くだけだ』

「いっ、いや! やめてっ!!」


 サリファがまるでそうするかのように、ルクの左眼に自身の手を寄せた。ルクなのに……ルクじゃない。嘲笑うかのような意地悪な口元、愉しそうな嫌味な声。


『では……リルヴィ、われの許へ来るか? 今ならまだ間に合う。ルノの代わりにお前がわれの肉体となるか?』

「答えはノーです。リルヴィ、二人と共に逃げてください」

「ツパおばちゃん……?」


 あたしの代わりに答えたおばちゃんは、ゆっくりと弓から矢を外した。アッシュとルクの間合いに割り込み、そして──




「サリファ、どうか私の身体を使ってください」




 ルクならぬサリファに向かって、おもむろに(ひざまず)(こうべ)を垂れた──。




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