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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第八章■ TO THE FACT(真相へ)!
57/86

[57]「パパ」の理由?

 仕方なくおばちゃんに(なら)い、あたしもブランケットに身を委ねた。

 おばちゃんとは逆方向に寝返りを打って、眉根を寄せたままの瞳を開く。


 結局あたしは足手まといなままなんだろうか? 『ジュエル』の力でサリファをやっつけるのが、一番手っ取り早いと思うのだけど? 『ラヴェンダー・ジュエル』がピータンのお腹から出てきて、宿主として復活したパパがサリファを倒すというのなら、一体どれくらいの時間が必要なの? それまでにルクを無事取り返せるの? そうしている間に……サリファが全ての力を取り戻したら、ヴェルはどんなことになってしまうの??


「あっ……」


 再びあの温かい感覚を瞼の奥に感じて、あたしは微かに声を上げてしまった。ピータンが起きたんだ……見える視界は薄暗かったけれど、見覚えのある家具の配置が確認された。これ、パパとママの寝室だ……ベッドサイドに上半身を預けた広い背と、ベッドから起き上がった細い横顔が見える。看病しながら眠ってしまったパパと、目を覚ましたママ──二人は家へ戻ったんだ!


『……ユーシィ?』

『あ……起こしちゃった? ごめんなさい……随分取り乱してしまったみたいで……』


 ママに吊られたようにパパの後ろ姿が起き上がって、二人はお互いを気遣うように寄り添った。ピータンはそれに気付いて、二人の見えるベッドの上に飛んでいった。


『本当にごめん……自分の所為でリルが……』

『違うわ、ラヴェル。あの時ルヴィを優先しなかったわたしが悪かったの。貴方を信じて、わたしはルヴィと一緒に家へ戻るべきだった……なのに』


 ママの言う「あの時」って、パパを追いかけている途中王宮の空が赤く光って、ママがあたしに「帰りなさい」と言い残した時のことだ。違うよ……あの時ママの言うことを聞かなかった、あたしが一番いけなかった。


『ツパと、ツパに弓を教えたビビアンという青年が、リル達を救出にシュクリの火口へ降りてくれた。ピータンからジュエルを取り出せ次第、自分も合流しようと思う。ユーシィはタラの所に居てくれないか。君を独りにはしたくない』


 そう言ったパパの声はとても苦しそうだった。その胸に寄せたママの髪を撫でて、パパは深い溜息を吐き出した。


『ええ……タラが良いと言ってくれれば。ジュエルは今もピータンのお腹の中なのね? ピータン、大丈夫?』


 ママは眼下のピータンに、心配そうに手を差し伸べた。その掌にちょこんと乗ったピータンを見詰めて、ママはほんのり微笑んだみたいだった。


「ママ……」


 ピータンの視線と合ったママの温かな眼差しは、まるであたしに向けられているように重なった。ママ、あたしはどうしたら良いの? このままみんなに迷惑を掛けながら、守られていることが本当に望ましいと言えるの??


『ね、ラヴェル。行く前に、お願いだから全て話して。今回の帰郷で貴方が動いたのは何故?』

『……それ、は』


 ママはパパから身を起こし、ピータンを両手で包み込んでパパに相対した。パパを見上げたピータンの視界には、僅かに口ごもるパパの辛そうな表情が映り込んだ。


『スティを倒して二年後、眠りから覚めて一番気に掛かったのは、スティと共に結界に閉じ込められたサリファのことだった。彼女はスティが結界を破った後も姿を見せなかったから、きっと亡くなったものだと思っていたのだけど……その件に触れる度、ツパが話を(かわ)そうとするのがずっと心に引っ掛かっていたんだ。実は数日前にロガールから手紙が届いて、三年後の体制改編の折に、ツパを首相に任命したいと、今回の昼食会でその推薦を公表すると打ち明けられていた。もしもツパがまだサリファに縛りつけられているのなら、彼女はきっと承諾しない。だから……その鎖を断ち切るのなら今だって……』

『ラヴェル……』


 見えなかった糸の端が色を染めて、またあたしの前を流れる道筋の続きとなった。この糸が紡ぐ先は、次にどんな色彩を見せるのだろう? 現れた先端はどちらの方角を示すのだろう?


 ママがパパを切なそうに呼び、抱き締めて、ピータンはパパの肩に乗り、いつものように頬ずりをした。二人と一匹から湧き上がる愛情の熱が、あたしの心にも届いて胸の奥が温かくなる。もう少し見ていたいのに、映像を伝える瞼の上にまどろみが落ちてきてしまった。


『でも、もう一つ……動いた理由があるのでしょ、“パパ”?』


 パパのもう一つの理由?


 ママの「お見通しらしき」問い掛けは、楽しそうな笑みを含んでいた。その調子にパパも薄っすらと苦笑いを返す。一体どんな理由があるというのかしら??


 けれど閉じた瞼の裏にはもう何も映し出されないまま、あたしは眠りの海へ沈み込んでしまった──。




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