表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第八章■ TO THE FACT(真相へ)!
56/86

[56]取引の代償?

 生まれてから十四年──あたしはずっと『ラヴェンダー・ジュエル』と共にあった。

 与えられた魔法は、唯一「()える」ということだけであったけれど。


「おばちゃん、知っているんでしょ? 本当はあたしにも『ジュエル』の力が使えるって。あたしにもジュエルの「跡」が残されているって──」


 三歳のツパおばちゃんはウェスティの花嫁候補に選ばれた際、年齢を近付けるためにジュエルの力で時間を止められた。その時『名前の呪縛』のことを知り、名前の後半「ノーム」を切り離せたのもジュエルの恩恵だ。


 ジュエルは力を与える時、必ず「跡」を残すと云う。だからおばちゃんは時を止める魔法を解かれた後も、自ら四日に三日は眠り続けるように、ジュエルと契約を結ぶことが出来たのだ。同じくジュエルから力を与えられたアイガーと、意思疎通が出来るようにもなったのもそのお陰だった。(註1)


 だから。あたしにもきっと出来る筈。視ること以外、何か役に立てることがきっと──。


「……これは、ラヴェルとユスリハの意志であったのです」

「え? パパとママの……意志??」


 「致し方なく」といった調子で語り始めたツパおばちゃんの言い出しは、あたしには理解が困難だった。


「二人が貴女をヴェルではなく、ユスリハの故郷で育てることに決めたのは、ジュエルの影響を最小限に留めたかったからでした。もちろん貴女が次期継承者の姿で生まれてしまった為、ジュエルから完全に切り離すことは出来ませんでしたが。ヴェルへの帰省も三年に一度と間隔を空けているのもそういうことです。二人は貴女に魔法とは無縁の、普通の生活をさせてあげたかったのですよ」

「普通の……」


 難しく思われた話の切り口は、ココまで聞けば意味も分かった。パパもママもジュエルを巡る騒動に巻き込まれなければ、きっと家族を失うことはなかったのだもの。だからこそ……二人は「普通」を望んだんだ。


「ジュエルが何故ラヴェル達との生活を選び、貴女を次期継承者に選んだのかは存じません。が、ジュエルも二人の望みを知ったからこそ、貴女の「眼」になることだけで満足してきたのだと思います。ですから、どうかこれ以上の力は望まないでください。貴女が力を求めれば……二人が悲しむことになります」

「う……」


 まただ。また……何も出来ない。

 あたしは沈黙して俯いてしまった。

 パパとママの気持ちは分からないでもないし、そう想ってくれるのは本当にありがたい。でも……ココであたしがジュエルの力を目覚めさせられれば、この事件は早急に解決出来るのかも知れない。


「それと……ルクアルノのことですが」


 あたしが反論を始める前に、おばちゃんは話題を変えてしまった。ルクのことって……何だろう?


「アシュリーが言っていましたね、サリファにとってルクアルノには利用価値があるのだと。おそらく彼女はユスリハの時のように捕らえておくだけではなく、彼を取り込もうとするでしょう。そして……ルクアルノは遅かれ早かれ取り込まれてしまうと思われます」

「え!? あのっ、だって……ルクが名前の後半を呼ぶ許可をサリファに与えなければ、サリファはルクを自由に出来ないでしょ!?」


 ツパおばちゃんの思いがけない未来予測に、あたしはつい声を荒げていた。外で番をしてくれているビビ先生と、隣のテントで休んでいる筈のアッシュにも聞こえてしまっただろうか?


「仰る通りですが……だからこそサリファはルクアルノに取引を持ち掛けるに違いありません。その天秤に乗せる物が貴女の「命」であるのか、もしくは私の「解放」であるのか……分かりませんが」

「ツパおばちゃんの……解放?」


 名前の後半をなかったことにして、サリファの束縛から逃れた筈のツパおばちゃんなのに、今でもサリファに囚われているってこと??


「私はそれでも構わないと思ってきましたし、これまでも特に不自由はなかったのです。只、ルクアルノは気が優しい。あの子は好条件を与えられれば、自分のことは二の次にしてしまうでしょう。それが貴女にとって脅威になり()る行為であることも知らずに……」

「あたしにとっての脅威?」


 現状ルクがあたしを「ルヴィ」と呼べば、あたしはまたサリファの光に吸い込まれてしまうのだろう。けれどルクがルクとしての意識を持つ以上、彼はあたしを「ルヴィ」と決して呼ばないだろうから、確かにルクが取り込まれれば、彼はあたしにとっての脅威になる。でも……おばちゃんの声色が(はら)む得体の知れない暗い響きは、もっと違う脅威を暗示している予感がした。


「おばちゃん……ルクはあたしにとって、どんな脅威になってしまうの?」


 ランプのオイルが切れたのだろうか。下方から灯されていたおばちゃんの表情が、少しずつぼやけて闇に溶けていった。


「十四歳の貴女には、言い(はばか)る内容です」

「……え?」

「もちろんそうならない為にも、私達は全力で貴女を守ります。貴女にはそれに応える義務がある。どうかそれだけは忘れずにいてください」


 明確な答えが手渡されないまま、ランプは一切の光を失ってしまった。おばちゃんはそれを機に、ブランケットの中へ身を横たえたみたいだった。


 あたしの心は目の前の暗黒に、(にじ)んでしまいそうな弱さに怯えながら──。




[註1]ジュエルとの契約:ツパイは花嫁候補となるべく時間を「止められた」一年弱だけではなく、もはや候補とならぬよう自ら時間を「止めていた」二十八年があります。その期間が「契約」と言われる部分です。アイガーもジュエルの力によって瀕死から復活した為、やはりジュエルの「跡」を持っています。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ