[55]真相の深層? *
「では参りましょうか。そのザックもお持ちしますよ、リルヴィさん」
「い、いえ……これくらい自分で持てますから! ……え? あの、それで一体何処に……??」
担いだカプセルからツパおばちゃんと自身の弓矢セットを取り出し、ビビ先生は颯爽と暗い火口底を歩き出した。受け取った得物を装着したツパおばちゃんが、あたし達にアイコンタクトして先生の後に続く。方角すら分からなくなりそうな岩だらけの中を、どうして迷いもなく進むことが出来るのだろう? アッシュとあたしは不思議そうに顔を見合わせ、二人の後を慌てて追いかけた。
「師は狩りを生業としているお方です。シュクリの広大な裾野の森は、まさしく彼の領域。かつて偶然見つけた洞穴の入り口より、この火口底まで辿り着いたこともあるそうですから……つまり、出口もご存知という訳です」
「「……え!!」」
代わりに答えてくれたツパおばちゃんの説明に、アッシュとあたしは驚きの声を上げた。
この空間、上の火口だけでなく、他にも出口があるんだ!
「只、かなり道が分かれている上に、上手く辿れたとしても、出口まで丸一日は掛かると思います。ですからどうかはぐれずについて来てくださいね」
「「は、はいっ」」
ライトで仄かに照らされた大きな身体が、振り向きながら続きを語った。もう一度口を揃えたあたし達の真剣な様子に、ビビ先生は満足そうに微笑んで、前方へ向き直し歩を進めた。
「あ、あの、でも……ルクは?」
救出を一番に、と言ったのはツパおばちゃんなのに……見つけずに出ちゃって良いものなの??
「この火口底から出口までの間に、あの大昔「四人の少女」を隠した鍾乳洞があります。火口を降りる間に攻撃を仕掛けてこなかったことから考えてみても、サリファはそちらを拠点にしているのでしょう。もちろん私達を無事に帰すつもりなどない筈ですから、会いたくなくとも会うことになるとは思いますが」
「た、確かに……」
おばちゃんの言葉に納得しながら、色んな想いが溢れて言葉が詰まった。危険も顧みず、命懸けであたし達を助けに来てくれたツパおばちゃんとビビ先生。あの『ジュエル』の見せてくれたヴィジョンの洞窟が、このシュクリの森に在るのだということにもハッとしてしまう。やっぱりサリファは、あの時の少女なのかも知れない。
「ルクが囚われているのは、本当にその鍾乳洞なのかも知れません」
隣を歩くアッシュから、少しばかり緊張した声が聞こえた。幽かに浮かび上がる彼の横顔は、導き出された確証に自分でも驚いているみたいに見えた。
「リルにも話したね? ルクと僕がサリファの光に取り込まれていた時、此処よりもう少し明るくて、もっと湿気を感じたって。あの水の気が鍾乳洞ならではの物だったとすれば……それに水の滴る音も遠くで響いていた気がするんだ。だからあのままあの場所にルクが居てくれたら、必ず遭遇出来ると思うよ」
「よ、良かった! ルクが見つかれば、みんなで帰れるね!!」
──そして……その時こそ、ジュエルの力が必要な筈だ。その時こそ……あたしの中に眠るジュエルの力が必要な筈!!
ようやく火口底の端に到着し、ビビ先生はライトをかざして岩壁を照らした。左下の地面に周りよりも暗い丸い陰が出来る。それはカプセルが何とか通れる程度の小さなトンネルだった。先生はその中へカプセルを押し込みながら四つん這いに進み、ツパおばちゃん・あたし・アッシュとその後を追った。
「まもなく道も広くなりますので、もう少し辛抱してくださいね」
前から反響するビビ先生の言葉に励まされ、殆どしゃがんだ状態で横穴を抜けた。言われた通り広がった洞窟は、先生の身長でも余裕のあるほど天井が高く、しばらく真っ直ぐ続いていた。
「余り近付くのもどうかと思いますから、今夜はこの辺りで休むことに致しましょう。本題は明朝に回すことにして、どうかゆっくり英気を養ってください」
それから小一時間ほど進んだ先で辿った道が二手に分かれる手前、ツパおばちゃんの提案に頷いたあたしは、ホッと安堵の息を吐いて肩の荷を降ろした。丸みを帯びた広場のようなスペースに、カプセルとザックから取り出したテントを設営する。早目の夕食は持ってきてくれた食糧のお陰で、久方振りに豪勢な食事となった。あたしが使っていた一人用テントにアッシュ、あたしはツパおばちゃんと新しい二人用テントへ、ビビ先生は寝袋でOKですと言ったけれど、どうも朝まで見張ってくれるつもりのようだ。
「途中で交代しますから、師のことは心配せずに眠ってください。心は高揚していても、身体は相当疲れている筈ですよ」
テントの隙間から先生の様子を窺っていたあたしを気遣って、ツパおばちゃんはブランケットを広げる手を止めた。そう……分かってる。あたしはいつも救われる対象であって、誰かを救う主役にはなり得ない……それでも。
昔ジュエルから力を与えられたツパおばちゃんならば、あたしの願いを叶える方法も知っているかも知れない。
「おばちゃん、あたし……教えてほしいことがあるの」
間に置かれた小さなランプが、瞬きもせず一心に見詰めるあたしの瞳を照らしてくれて。
おばちゃんはこの眼差しが持つ意味に、もう気付いたみたいだった。
「時が……来てしまったようですね」
赤い双眸が寂しそうに震えても、あたしの意志は深く深く、地の底までも貫いていた──。
■第七章■ TO THE DEPTH(深層へ)! ──完──




