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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第七章■ TO THE DEPTH(深層へ)!
50/86

[50]それぞれの選択?

 しばらくの沈黙のあと、パパはゆっくりと近付いた。お師匠様を立ち上がらせて、パパも挨拶とお礼を伝える。二十年ほど前、たった三年でも王様であったパパに、敬意を表したお師匠様の表情は、何処となく嬉しそうだった。


 それから全員が席に着き、何やら話が始まった。ピータンはアイガーの許へ預けられたようで、白黒の毛先が画面の下半分を覆う。次第に揺らいで狭くなったり広くなったり、ピータンはアイガーに包まれながら眠りについたようだった。


 パパ達、きっとあたし達を助けるための算段をするのだろうけれど、どうやってあの火口を降りるつもりなのだろう? 降りたところでどうやって逃げようというのだろう??


 あたしは見えなくなったヴィジョンに心細さを感じながら、辺りの暗闇に目を凝らした。あたしもアッシュとルクに一秒でも早く合流したい。でなければ助けが来ても、三人一緒に戻れない。


『何やら面白そうなモノを見ていたようじゃないか。本来なら……われがその力を手に入れておる筈なのに!』

「サ……サリファ!?」


 目の前の真っ暗な空間に、突如湧き上がるように赤い光が現れた。それはジワジワと広がって、今までと同じような光の柱となった。でも……中にいるのはもちろんママではなく、宙に浮かんで並ぶのは……悔しそうにこちらを見詰めるルクとアッシュだった。


「アッシュ! ルク!」

「リル……」

「ルヴィ!」


 三人の声は良く通り良く響いた。二人は後ろ手に縛られているような状態で、時々振りほどこうと身体を揺さぶるけれど、どうにも自由にはなれないみたいだ。


「サリファ! お願いだから二人を放して!!」


 あたしは起き上がって二人の手前まで駆け寄った。手を伸ばしてもどうしてだか触れられない。これは幻影なんだろうか? 実体は何処か違う所にあるの!?


『リルヴィ、お前だけでも十分と思ったが……二人を得たのは好都合やも知れぬな? どうせ『ジュエル』は手放すしかないのさ。ウル達が来るまで……さて、われ等は何をして遊ぶ?』

「あ、遊ぶだなんて……意地悪しないで二人を返して! 返してあたし達を解放して!!」


 サリファはあたしの切望に、悪戯に(わら)っただけだった。『ラヴェンダー・ジュエル』と『動くための肉体』──二つが必要である以上、一つでも「あたし」という条件が手の内にあるのは、優位でいられる証拠だとしても……今までも今も、どうしてサリファはこうして猶予を与えているのか……あたしには彼女の真意が見えなかった。


『そうだな……では二人の内、どちらか一人なら返してやろう。リルヴィ、どちらを選ぶ? アシュリーとルクアルノ、お前はどちらを返してほしい?』

「どちらをって……! どっちもに決まってるじゃない!! だから早く二人をっ──」

『相変わらずつまらぬ答えだ。ジュエルも結局「全て」を求めた……それは何故だ? ジュエルは「全て」を欲っしたからではない……単に選べなかったからであろう?』

「……え?」


 途中でジュエルの話になったのはどういう意味? 全てが欲しかった訳でないのに、全てを求めた?? 選べなかったから? ジュエルが?? サリファは何が言いたいの!?


「サリファ……ルクを解放しろ。リル! ルクを選ぶんだ!!」

「アッシュ……!?」


 訳の分からない台詞に惑わされている内に、アッシュがサリファとあたしに叫んだ。ルクを選べって……どういうこと? だったらアッシュはどうするというの??


『ほぉ……アシュリー、自分よりもルクアルノを優先するのか? 地下の結界からでは、ぼんやりとしか見えなかったが……確かにお前ならそうするのだろうな。なのにお前は完全に諦めきれていない。その中途半端な振る舞いが、今のリルヴィを作ったのではないのか?』

「……」

「今の……あたし?」


 あたしは疑問の声を上げた。ジュエルについて、アッシュについて、サリファは一体何を知っているのか……アッシュはただ苦虫を噛み潰したように押し黙っていた。


「ダメだよ……アッシュ! アッシュが一緒でなかったら、ボクも行かない!!」

「「ルク……」」


 今度はルクが拒絶の言葉を発して、アッシュとあたしは驚きにその名を呟いた。横からの必死なルクの眼差しに、想いと言葉を詰まらせたような面差しをしたのも束の間、アッシュは鋭い顔つきを見せる。


「ルク、僕のことなんていいから行くんだ! 三年前に決めたんだろ!? 決意を貫きたいなら、僕に構わず自分を優先しろ!!」

「で、でも……」

「リル! とにかくルクを選ぶんだっ!!」

「アッシュ……?」


 三年前。ルクは何を決めたというの? そしてそれがこの状況とどう関係するの??


『随分と複雑な三角関係だな……なかなか面白いが此処までにしよう。リルヴィ、一人を選べ』


 ハテナだらけの心に、再び『究極の選択』が突きつけられた。あたしは一旦俯いて、パパのように拳をギュッと握り締めた。一つ静かに息を吐き、おもむろに二人の顔を見上げる。無言で「ルクを選べ」と諭すアッシュ。戸惑いを瞳に載せるルク。あたしにはどちらか一人だけなんて選べない。一緒に帰るなら三人同時でなくちゃ!


「答えは変わらない。サリファ、二人を返して。それが無理なら代わりにあたしを光に取り込んで!」


 元々あたしだけが奪われる筈だったんだ……二人が捕まっている必要なんて全くない!


『やはりお前もジュエルと同類か。まぁいい、どうせわれが復活すれば、全ては生きるも死ぬもわれの采配次第だ。リルヴィ、ジュエルを得るまでは、お前に生きていてもらわねばならぬ……その手段の為、アシュリーは手元に返してやろう。が、ルクアルノは預かっておくよ……利用価値はまだあるからな……』

「ちょっ、ちょっと待って! どうしてルクを──」

『三人を取り込んでおけるほど、まだ力が戻っていないということさ……』

「待って! サリファ!!」


 サリファの言葉が小さくくぐもり、途切れると同時に光も(にじ)んで消えていった。差し伸べた両手は何も掴めずに、ただ口惜しそうなアッシュの姿と、困ったようなルクの顔が、指の先で散りぢりに弾け飛んでいく。あの言葉の通り、これはきっと暇潰しの「(あそ)び」だったんだ……どっちを選んでも、あたしの願いなんて叶えられる筈もなかった。


「サリファの嘘つき……! アッシュは手元に返すって……一体何だったのよ……」


 再び真っ暗闇になった火口底の真中、嘆きながらうな垂れてしまう。

 顔を向けても見えない足元から、石の擦れ合うような響きが起こり、それから何やらゴソゴソと蠢く音が聞こえた気がした。何か……いるの? 慌てて後ずさりしようとした足首が、強い力で拘束された──!?




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