[47]闇の向こう? *
──ゴックン!!
「ええ~……!?」
まさしくそんな擬音の聞こえそうな勢いで、ピータンは『ラヴェンダー・ジュエル』を呑み込んでしまった!
そのままクルリと旋回し、サリファから逃れるために背を向けて滑空する。やがて怒り心頭の酷く低い声が、あたしを半分包んだ光の中から、ゾワゾワと振動を伝えながら響いてきた。
『小癪なモモンガがぁ! その腹、切り裂いてやるわっ!!』
「や、やめて!!」
光が揺らいで激しく波打ち出した。きっとあのルクやシアンお兄様を狙った赤い光線で、ピータンを攻撃するのだと気付いた瞬間、灰色の紙飛行機みたいな小さな影が、今度は飛び出してきた白黒の身体に攫われた!?
──さっすがー、グッジョブ! アイガー!!
ピータンを口に咥えて見事に救出したアイガーは、発射された光線を避けながらすばやく逃げ去った。もちろんピータンを呑み込むことはなく、ずっと先で待ち構えているツパおばちゃんに引き渡し、ひとまず一人と二匹は大きな岩陰に隠れてくれた。
『ジュエルぅぅぅっ……!!』
そうしている間にも、ドンドンあたしの身体は光る柱の中へ引きずり込まれていく。ママの無事を確認したパパは、再びあたしへ向け立ち上がろうとしていた。その手前、辿り着いた「二人」が何度もジャンプして、あたしをどうにか捕まえようと格闘してくれていた。でも……ダメだ。あともう少しなのにぃ~届かない!!
「ルク! 僕の肩に乗れ!!」
「えっ? う、うん!」
アッシュが突然ルクに叫び、その背を彼に向け屈ませた。ルクは返事もそこそこに、アッシュの腰によじ登る。両肩を踏み締めた途端、真上へ勢い良く立ち上がったアッシュの力によって、飛び上がったルクの伸ばした両手が、かろうじてあたしの右足首を握り締めた!
掴まれている感覚はあるけれど、全身が硬直しているせいか重みは感じない。
「ルク! 持ちこたえろ!!」
そう叫んだアッシュが今度は自力でジャンプして、あたしにぶら下がったルクの左膝を掴んだ! アッシュは大きく前後に身体を揺らし、振り子運動を始めた。その反動を利用して思い切り飛び跳ね、ついにはあたしの右手首を捉えた!
「ア、アッシュ! ルク!!」
『仕方がない、一時退却だ……ウルよ……三人を取り戻したくば、次こそは『ジュエル』をわれの手に!』
「リル!!」
パパはあたしの名を呼びながら、あたし達の下を再び目指していた。けれどアッシュとルクごとあたしは完全に吸い込まれて、光の柱は地面を滑り、パパ達から後方へ離されてしまった。
物凄いスピードで向かった先は……シュクリの火口? 大きな空洞の真中に浮遊したと思ったのも束の間、あたし達三人は一気に奈落へ落ちてゆく!?
「パパ!! ママ!!」
光の中から呼び掛けた音声は、二人の耳に届いただろうか?
気を失う瞬間あたしの瞳に映ったのは、地べたに四つん這いになったまま悲痛に叫ぶ……ママの泣き顔だった……
頂に木霊する、あたしを求めるママの絶叫。
「ルヴィぃぃぃぃぃぃ──!!」
──ごめん、なさい……ママ……──
★
★
★
どれくらい落下して、どれくらいの時が経ったのだろう……?
火口の真中にそそり立った赤い光の柱。重力に逆らうことも出来ず、その中を流れ落ちたあたしは、気付けば仰向けで横たわっていた。
右眼に見えるのは真っ黒な暗がりと、遠く真ん中に小さな丸い明かり。きっと火口の入り口だ……パパ達はまだそこにいるんだろうか? 心配しながら下を覗いているの?
「いったた……」
あたしはだるそうに上半身を起こした。サリファの魔法なのか、何処も怪我はしていないみたい。でもどうしてだか赤い光は見当たらなかった。そして、そうだ……ルクとアッシュは!?
「アッシュ! ルク!」
二人の名は周りの闇に異様に反響した。返ってくるのはあたしの叫びばかりで、返ってこない応答が、あたしの胸を一息に締めつける。二人も一緒に落ちた筈。あたしは慌てて地べたを探った。光の柱を滑ってきたのなら、近くにいるのに違いないのだから!
「ルク!! アッシュ!! お願いだから返事してっ!!」
掌が感じるのは山頂と同じく固い岩盤だった。冷たい感触に温かく柔らかい人肌を求めて、とにかく辺り構わず手を伸ばした。
ねぇ、二人共、いつもの優しい声で「大丈夫だよ」って言ってよ……ねぇ……お願い! 一生のお願いだから──!!
■第六章■ TO THE SUMMIT (山頂へ)! ──完──




