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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第六章■ TO THE SUMMIT(山頂へ)!
46/86

[46]真打の登場?

「ルヴィ──!!」

「あ……──えっ?」


 その瞬間、あたしの両手はフワリと浮いていた。自力で起きようとしたんじゃない。見えざる力で強制的に……掌に付いた小石がポロポロと零れ落ちていく。上半身が起き上がった頃、それに続くように足先も浮かび上がってしまった。あたしの全身は、まるで誰かに抱えられたように空中で静止し、そして一気に赤い光へ吸い寄せられた!


「「リル!」」

「「ルヴィ!」」

「リルヴィ!」


 全員の声が次々とあたしの名前を呼んだ。抵抗しようと身体に力を入れても、全く自由の利く様子もない。視界の端にツパおばちゃんの弓を引き絞る姿が映った。射られた矢があたしの後ろへ飛んでいく。きっと標的はママ・ザイーダだ。思った通り背後から、化け物のおぞましい断末魔が聞こえた。


「ママっ!!」


 あたしの身体で機能しているのは声だけだった。近付くにつれ鮮明になるママに叫んだけれど、何をどう伝えたら良いのか分からない。「サリファ、約束したじゃない! お願いだから、ママを解放して!!」そうだ……そうだよ! そう叫ばなくちゃ!!


「ジュエル!?」


 なのにその時パパの慌てた声が右耳の方向から聞こえてきて、それどころでないことに気付かされた。サリファの光に引きずられていくあたしへ向け、駆けつけるパパの拳の中で、『ラヴェンダー・ジュエル』が紫色の強い輝きを放ったのだ。


「だ、ダメ! ジュエル!!」


 あたしと『ジュエル』が同時に捕まってしまったら、きっとサリファの思う壺になってしまう。サリファはこれを狙っていたんだ。ママとあたし、二人が危険に晒されたら、ジュエルは出ていかざるを得ない……だからルクがジュエルを手に入れる前でも、パパの瞼から外された時点で、サリファは行動に出たのに違いない!


『心配は無用さ、リルヴィ……われは民を想う善良なお妃。ちゃんとユスリハは返してあげるよ……』


 サリファの声はもう後ろの命尽きたママ・ザイーダではなく、本物のママが囚われている赤い光の中から響いてきた。一体どこが「善良なお妃」だというの!? 今でもママを放さないくせにっ!!


「リル!!」


 まもなくあたしが光の中へ取り込まれるという頃、パパの伸ばした手も、あと数センチの距離まで迫っていた。その大きな手に自分の手を差し伸べたい。だけど浮遊する身体は指一本ままならない上に、突如上方へ吹き上げられてしまった。光の中から伸ばしてくれたママの手も、ずっと下方へ消えてしまった。


「パパ! アッシュ! ルク!」


 パパの後ろに続くアッシュとルクの必死な表情も横目に入った。どうしたらいい? どうしたらいい?? お願いせめてママだけでも……!!


『約束だ、ウル。愛妻を返してやるよ、ほうら受け取れ……』

「……何っ!?」

「ママ!!」


 邪悪な声があたしとパパの間に割り込んで、その言葉通りママが光の中から放り出された! けれどママの身体はサリファの声と同じく、あたしとパパの間に割り込んで、パパのあたしへ向けた両腕の上に……投げ落とされた!?


「ユーシィ!!」

「ルヴィ!!」

「パパ!! ママ!!」


 パパとママとあたしの声がシンクロした。ママを無事に受け止めたパパが、そのまま沈んだ反動を利用して踏み込み、空けた右手をあたしへ向け跳んだ! 抱えられているママの左手も同時にあたしへ伸ばされていた。なのに二人の指先はギリギリ届かないまま、パパとママは地面に倒れ込み、あたしはもう半分光の中へ、そしてパパの手中に握られている筈のジュエルは、いつの間にか消えていた!!


 目の前から放たれるラヴェンダーの微かな香りと、穂のような細長い淡い紫光──って? 空飛ぶジュエル!?


「ジュエル、お願い!」


 どうせ来るのならあたしの中に入ってよ! あたしを宿主に戻して、力を与えて!!


 心の中でひたすら拝んだ。けれどあたしの義眼はピクリともしない。この眼が外れなければ、ジュエルはあたしの元に戻れない。だからジュエルは単身サリファに挑もうとしているの!? だったら──


「来ちゃダメぇ! ジュエル!!」


 あたしの叫びに刹那「何か」が反応を示した!?

 パパの胸ポケットから勢い良く飛び出す小さな毛むくじゃら! 徐々にあたしに近付くジュエルを追いかけてきたその姿は──!!

 丸まった灰色毛玉がパッと飛膜を広げ、小さなマントに変わる!


「ピータン!!」


 なのに何を思ったのか、ピータンは宙を流れるジュエルを捕まえず……


 パクッとお口でキャッチした──!?




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