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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第六章■ TO THE SUMMIT(山頂へ)!
43/86

[43]誰の出番?

「ル……ヴィ──」

「ス、ストップ! ルク!!」

「──わっ!!」


 視界の真ん中まず目に留まったのは、あのザイーダと同じホワイト・ゴールド。けれどそれはその全身を覆ってはいなかった。細い身体があたしを「ルヴィ」と呼んで、目の前の草むらに倒れ込んだ。慌てて叫んだあたしの制止の声に、ルクの剣がギリギリ反応する! 間一髪その切っ先は(くう)を斬り、何物も傷つけない内にしまわれた。


「マ……ママ!? ママっ!!」


 ああ……あたしの足先に向け手を伸ばしたその背中は、まさしくママの後ろ姿だった! (さら)われた時に身に着けていた白いガウンは、土や葉片で汚れていて、大きく荒く吐き出される息も、必死に逃げてきたことを物語っていた。そんな疲れ切った弱々しい様子に、あたしは駆け寄りしゃがみ込んだ。


「ママ! ねっ、大丈夫!? ママっ! ママ!!」


 ママは右の頬を地面に触れさせたまま、数回咳き込んだのち落ち着いた。閉じられた瞼がゆっくりと開く。やがてぼんやりとしていた視線が、心配そうに応答を待つあたしを一心に捉えた。


「……ル……ヴィ……良かった、無事……だったの、ね……」

「ママっ!!」


 何とか上半身を起こしたママは、まだ辛いだろうに胸の内へあたしを寄せて、柔らかく抱き締めてくれた!


 ママ……無事だった上に、まさかサリファから逃れた状態で会えるだなんて……本当に、本当に良かったよ!!


「パパは……? ずっと眠らされていたみたいで……もうあれからどれ位経つの? 此処は一体……?」

「ずっと?」


 それならママは自分の髪が使われて、ザイーダが生まれたことにも気付いていないのかも! あたしは温かな胸の中でホッと安堵の息を吐いた。おもむろに顔を持ち上げて、少しだけ口角を上げて説明をした。


「ココはヴェルのシュクリ山だよ、ママ。もう少し上がれば山頂っていうくらいの高さ。ママが(さら)われてから……えっと、今は丸二日が経った午前……パパとはさっきまで一緒にいたんだけど、ツパおばちゃんとアイガーとアッシュと……その……ママを助けに山頂へ向かったんだ」

「わ、たし、を……」


 ママは言われたことを噛み砕くように、俯いて沈黙してしまった。こうして無事にママとは会えたけれど、結果パパとはすれ違ってしまったのだもの。落ち込むのも無理はない。

 それでもしばらくしてママは(おもて)を上げ、意を決したような真剣な眼差しで、あたしの両肩に手を置いた。


「ルヴィは山を下りなさい。ママはパパ達を助けに行ってくるわ」

「え? ダ、ダメだよ、ママ! またママが捕まっちゃったら──」

「でも行かなかったら、ママがもう無事なのをパパ達に伝えられないもの」

「それはそうだけど……」


 あたしは途中で口をつぐんでしまった。確かにパパ達は「ママを助けに」行ったのだ。でもそのママが既に解放されたのだから、正直言って無駄に戦う必要なんてない。だけどそれを知らせるためにママを独りで行かせるなんて、折角無傷で戻ってきてくれたのに……そんな危険にもう一度晒すような行為、決して出来ることじゃなかった。


「おばさん、ボ、ボクが行ってきます。二人で先に下りてください」

「ルク……?」


 あたしは呼びながら後ろを振り返った。あたし達の様子をじっと見守っていたルクの眼にも、決意したように力が込められていた。


「ルクもダメだよ! ルクが行っちゃったら、またザイーダに襲われた時に逃げられない……だったら、あたしが行ってくる! もうサリファの所には、あたしを「ルヴィ」って呼ぶ人はいないのだもの。何の危険もないじゃない!?」

「ええ~……そ、それもダメだよールヴィ! 向かう間にザイーダに襲われたら……」

「じゃあ、一体どうするのよ?」


 あたし達のやり取りに、ママは意味が分からず首を(かし)げた。ひとまず協議(?)を中断して、ツパおばちゃんが教えてくれた「名前後半の秘密」を明かす。再び無言になって思案したママは、仕方なさそうに口を開いた。


「それじゃ、三人で山頂へ向かうのはどう? もしわたし達がサリファに捕まっても、ルヴィを「ルヴィ」と呼ばなければ良いことなのだから、上手くすれば全員で帰ってもこられるでしょ?」

「うん……だけどママ大丈夫? ココまで逃げてくるだけでも疲れたでしょ?」

「大丈夫よ。さ、早く行ってパパ達に知らせないと」


 少しでも腰を落ち着かせたことで楽になれたんだろうか。ママは元気な声を出して立ち上がった。服が汚れているだけで怪我もなさそうだし、顔色も悪くはない。サリファがママのいなくなったことに気付いて、ザイーダを放つのも時間の問題かも知れない。


 ルクが先頭を切り、下りてきた道を登り出した。あたしはママと手を繋いで、その後を並んで追いかけた。

 隣を見上げれば、ずっと会いたかったママが微笑みを(たた)えて、あたしを見詰めている。

 あとちょっと、あと一歩……パパがみんなと無事に帰ってきて、この空いた片側の手を握り締めてくれたなら──!!




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