[41]「カレ」の理由? *
昇ってきた陽に照らされて、煌めき出した木々の葉群れも爽やかな緑の匂いも……今はむしろ気障りに思えた。
あれから三人と一匹が見えなくなるまで、ルクとあたしは静かに見送っていた。見えなくなるまで……見えなくなっても振り返らないあたしに、ルクはしばらく付き合ってくれた。
「ごめん、ルク……もう大丈夫だから……下りよう」
「う、うん」
足元を見下ろしながら踵を返す。足場が悪かったからじゃない。ルクと顔を合わせる元気がなかったからだ。
まさかこんな山頂を目の前にして、引き返すことになるなんて。
とぼとぼと歩きながら、依然あたしの心と脳内は混沌としていた。
沢山の謎が明かされた筈なのに、また沢山の謎が生まれてしまった気がする。
ヴェルが島となって空へ飛んだ時、シュクリ山はどんな「恵み」を与えたのか。
名も知れぬ少女はどうやって歴史から消えてしまったのか。
そして本当に彼女が先代王のお妃として生まれ変わったの? だとしたら何故──?
「ねぇ、ルク。ツパおばちゃんがウェスティの話をしていた時、途中で何か言うのをやめたよね……あれって何だったのかな」
──『……二十年前、ユスリハと旅していたラヴェルの肉体を、ウェスティが一度乗っ取ったことがありました。その要因がもし後者であるとすれば、実際その力を保持しているのはサリファのみ、ということにもなりますね。だからこそウェスティは──……。……ああ……いえ』
「え……? ご、めん……覚えてない」
「そっか……気にしないで」
隣を歩くルクの視線はこちらを向いたものの、申し訳なさそうな声色と共に、正面に戻されたことが気配で分かった。
いつまでもしょげていちゃダメよね。きっと謎はいつか全て解ける。今はパパ達を信じて、これ以上迷惑を掛けないように、無事にタラお姉様のお家へ帰りたい。
「荷物重いでしょ? あたし、もう少し持てるから遠慮しないで」
「だ、大丈夫だよ……ボクこそまだ余裕あるから……ルヴィの分、わ、渡してよ」
アッシュとルクが運んでいた三つのザックの内、二つがあたし達に託された。というのもみんながママを奪還し、サリファを倒すことが出来れば、ツパおばちゃんが弓のお師匠様に合図を送り、山頂まで飛行船で迎えにきてもらう手筈になっているというのだ。
だからみんなは必要最低限の道具と食料だけを持って、再び数日を要してしまうであろうあたし達に全てを渡してくれた。と言っても飛行船から見つけられれば、あたし達も乗せてくれるということだけど。
「ね……そう言えばルクって、何であたしを「ルヴィ」って呼ぶの?」
「え! ──……っとぉ~」
ルクに「ルヴィ」と声を掛けられて、あたしはふと疑問を口にした。いつの間にか定着したアッシュの「リル」とルクの「ルヴィ」。思えばどうしてそうなったのだろう?
突然の質問に途端赤面してモジモジと俯くルク。そんなに恥じらう理由が、あたしの呼び名にあるのだろうか??
「は、初めてルヴィに会った時……ルヴィのママがルヴィを「ルヴィ」って呼んで……ボ、ボクは嬉しくなったんだ……」
「嬉しい?」
どうしてあたしが「ルヴィ」と呼ばれて嬉しいのだろう?
「……えと……あの……その……」
「??」
随分もったいぶるなぁ~そんなに何が恥ずかしいのよ!?
木々の合間を抜けながら、斜面を下りてゆくルクの足取りは、高揚と共に速まっていった。
いや、それってもしかして、答えるのが恥ずかしくて、急いであたしの前を歩こうとしているの?
追い抜かれぬようにあたしもスピードを高めた。いつの間にか競歩みたいな足並みで二人山を下りながら、それでもなかなかルクは答えなかった。
「ねぇ、ルク! どんな理由でルヴィって呼ぶのよ!!」
「え、えぇ~? ……ぜ、絶対、笑わない??」
笑わない? って~笑える理由な訳!?
攻撃的な鋭い視線にようやく覚悟を決めたのか、ルクは歩みを緩め、ついにはあたしに身体を向けて足を止めた。いきなり立ちはだかった前身頃に、危うく体当たりする手前で急ブレーキを掛ける。もう~まったく危ないなぁ!
「えっと、ね……「ルヴィ」って、ボ、ボクの「ルクアルノ」と同じ、「ル」で始まるから──」
「えっ!?」
そ、そ、そ、それだけ!?
あたしの眼も口も、一気に最大に開かれた。
ビックリ仰天! 思わず顎が外れてしまうかと思ったよ──!!




