表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第五章■ TO THE MYSTERY(謎へ)!
39/86

[39]名前の意味?

「原型って……『ジュエル』は人間だったというのですか!?」


 ルクとあたしは唖然と口を開け、声の出し方も忘れてしまいそうだった。アッシュだけが何とか質問を続けたけれど、それは随分と戸惑いを含んだ声色だった。


「ええ。ですがもちろん普通の人間が、魔法石に変わるなどということは有り得ません。その経緯にはラヴェンダーの力と、このシュクリが関係しているのだと文献にはありました」

「この山が??」


 やっと発したルクの問いに引っ張られるように、あたし達の目線は山頂へ上げられた。ヴェルの人々を優しく見守るが如く、高く聳えるこの静かな山が、一体どんな風に関わっているというのだろう?


「前述しました通り、この四人の少女の内三人は、ラヴェンダーを生業(なりわい)としている一族の娘です。この時未だジュエルの力は存在しておりませんので、ラヴェンダーと言っても通常の色素・香料・薬効を利用していたのみの筈ですが……三家系の少女達はこの力で、生死を彷徨(さまよ)う青年の命と心を癒したのでしょう。意識を取り戻し回復した彼と少女達は、やがて家々を修復し、同じく町を追われ逃げ延びてきた人々に、分け隔てなく食料と住居を与えました」


 一度全てを滅ぼされた町が、彼らと、そして集まった人達の手によって復興を遂げた。

 相当な苦難の果てであっただろうけれど、そこにどうしてシュクリ山が登場し、『ラヴェンダー・ジュエル』の生まれる物語となるのだろう?


「残念ながら文献はこの辺りより、虫食いだらけで正確には把握出来ておりません。ですが再び『町狩り』に襲われたこの地に、シュクリからの恵みが降り注ぎ、ラヴェンダー・ジュエルと化した青年の力によって救われた、という大筋は何とか読み取ることが出来ています」

「再び……」


 ……襲われてしまったんだ。

 

 あたしはさっきのヴィジョンに現れた、町を焼き尽くす炎を思い出して身震いした。あんな怖しい想いを二度も味わった人達は、どれだけ心を潰されただろう。そんな目に遭ってしまったなら……そんな時に人々を救うことの出来る大きな力があったなら──あたしもジュエルのように地を浮かべて、空へ逃げたくなるに違いない。


「この歴史によって名も知れぬ娘(サリファ)がどのような影響を受け、何を目的として現代に(よみがえ)ったのかは知れません。が、時の流れの中で彼女の存在が闇へと消え、ジュエルと敵対する立場になったことは確かだと思われます」

「敵……対」


 ヴィジョンの彼女はあたしよりもずっと幼く見えるほど、童顔で華奢(きゃしゃ)で可愛らしい小鳥のようだった。そんな彼女がどうして──?


「少々話が長くなってしまいましたね。この件はこれくらいにして、もう一つの話に参りましょう。私が……サリファから「ノーム」と呼ばれたことについてです」


 おばちゃんは一呼吸置き、手元のお茶を一口飲んで唇を引き結んだ。急に話題を変えようとしたのは、山頂へ向かう時間を考えてのことなんだろう。ツパおばちゃんが「ノーム」と呼ばれた理由。緊張の走るその表情に、あたし達は今一度息を呑んだ。


「……ご存知の通り「現在のサリファ」は私の叔母、私の母の妹として生まれました。彼女はのちに伴侶となる王の誕生二ヶ月後に生を受け、年齢の近いことを優先させるヴェル(この国)では、つまり妃の第一候補として、生まれる前から注目を集める存在となりました」


 長い人生を添い遂げるため──確かにそんな伝統が、ヴェルには残っていると云う。


「彼女は美しく聡明で、周りの期待通り王のお眼鏡に叶ったそうです。王家へ嫁ぐ日取りが決まり、ユングフラウの一族が慌ただしく準備を整える中、彼女の姉である母から私が生まれました」


 一区切りをつけた唇に、再びお茶が注がれていく。おばちゃんが生まれるまで、叔母であるサリファは素晴らしい女性であったように思われた。


「母と叔母は仲の良い姉妹だったと云います。これから妃となる幸運に恵まれた妹から、姉である母は祝福を受けたかったのでしょう。私の名付け親になることを求め、サリファも快く応じたそうです。そうして授けられた名、それが──ツパイ……ノーム、でした」

「ツパ……ノーム!?」


 ツパイノーム=ヴェル=ユングフラウ。


 ツパおばちゃんの本当の名前は、ツパイではなくて……ツパイノーム??


「それから彼女は私を好んで「ノーム」と呼ぶようになりました。只、其処には意図があったのです。リルヴィ、貴女はジュエルより過去の幾つかを教えられていますね? サリファの息子であったウェスティが、ラヴェルを本名ラウルの「ウル」と呼び、タラを本名タランティーナから「ティーナ」と呼んでいたのはご存知ですか?」

「え……あ、はい」


 突如(すく)い上げられた過去に、あたしは途切れながらも返事をした。ジュエルが以前見せてくれた昔のヴィジョン……確かにパパはウェスティから「ウル」と、タラお姉様も「ティーナ」と愛称を与えられていた。


「サリファとその息子ウェスティは……名前の一部を呼ぶ許可を得ることにより、その与えた者を操り……時に乗っ取る能力を有していたのです。理由は分かりませんが、彼らは常に名の後半を獲得してきました。ですからラヴェルもタラも、幼き頃からウェスティと過ごすことに疑問を持たず、彼が王位を継承する際も、何の反旗も(ひるがえ)さぬよう、彼らの思い通りに育てられたのです」

「う……うそっ──!」


 パパが……伯母(サリファ)従兄(ウェスティ)に操られていたなんて!?


 あたしは勢い良くパパの横顔へ振り向いた。

 視線に気付いているのに、パパはあたしと目を合わせなかった。

 話を止めた正面のツパおばちゃんをひたすら見詰めて……その口元は何も語ろうとせず、ただ引き締められていた。


「ここからは私の推測に過ぎませんが、現状ラヴェルやタラが操られていないことから見ても、サリファがその力を発動するには、彼女自身に実体が必要なのかも知れません。もしくはウェスティのような「名の許可を得た人物」に、サリファが力を与えることによって実行していた、という可能性もないとは限りませんが。二十年前、ユスリハと旅していたラヴェルの肉体を、ウェスティが一度乗っ取ったことがありました。その要因がもし後者であるとすれば、実際その力を保持しているのはサリファのみ、ということにもなりますね。だからこそウェスティは──……、……ああ……いえ」

「??」


 突如言葉を濁して口ごもったおばちゃんに、途端周りの空気が滞った気がした。

 おばちゃん? 今、何を言おうとしたの??


「……すみません、これは後に回しましょう。ともかく……二人と同じく私の名も、後半の名「ノーム」をサリファに捕えられてしまった訳です。何よりその名を授けたのがサリファ自身でした。私は……つまり、彼女の奴隷となるべくして生まれたのです」

「奴、隷……」


 アッシュなのか、ルクなのか……誰かの声が呆然としながら繰り返した。

 驚きで震えるあたしの唇からは、それすらも発することは出来なかった──。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ