[35]湯上がりの衝撃? *
「ルヴィ……ルヴィ……」
「……ん……。……え! ……ママっ!?」
うつ伏せになった頭の後ろから聞こえた声に、あたしは咄嗟に身を起こした。呼んだのはきっとママ! ママ……ああ、もうパパが助け出してくれたんだ!!
「ご、ごめん……ルヴィ。ボクだよ……ルクアルノ」
「え? あっ……ごめん! ルク……」
テントを飛び出そうと力を込めた足が脱力した。そ、だよね……こんな眠っている間に一件落着なんて、都合が良いのにも程がある。
「どうしたの? ルク。もしかしてあたし寝坊しちゃった??」
狭いテントの中で半回転して、少しばかり顔を覗かせたルクを見上げた。テントの中は元より、ルクの向こうも薄暗がりに見える。空気はツンと澄んで、辺りもまだ寝静まっているみたいだ。
「ううん、ま、まだ夜が明けたところだよ。昨日見つけた清水を沸かしたんだ。アッシュが布を吊るして、そ、その……目隠しを、つ、作ったから……」
「目隠し?」
どもり癖がついてしまったことは、今回再会した時から気付いているけど……と同時に顔を火照らせたのはどうにも理解不能だった。まったくツパおばちゃんといい、ルクといい、伯母と甥の二人して赤面ばっかりしているなんて……いや、あたしもか。
「そ、そろそろ湯浴み、したいでしょ? 少しだけど、熱いお湯を用意出来たから……その……」
「あ、そのための目隠しってこと!? ありがとう、ルク!」
もう二晩もお風呂に入れていないのだ。髪はベタついているし、身体は拭いてはいてもやっぱりスッキリしない。なのでこの思いがけない申し出には、天にも昇れそうな気分になった。でもその赤ら顔ぶりは……まさか変な想像、してないでしょうね?
「あの、でもみんなは? あたしばっかり優遇してもらっちゃ……」
「ア、アッシュとボクは、谷に水を汲みに行った時に、水浴びしてきたから大丈夫だよ。おばさんは、ル、ルヴィが済んだら、か、身体を拭くだけでいいって」
「こんな寒い朝に冷水浴びたの!?」
「す、す、すぐに焚き火に当たったから、平気だよ~……へ……ふぇっくしょん!」
言ってる傍からコレなんだから~!
ルクは鼻の下を人差し指で擦り、バツの悪そうな苦笑いをした。あたしは呆れ顔で腰を上げ、テントの外で背伸びをする。辺りを淡い靄が立ち込めて、幻想的な雰囲気が漂っている。
振り向けば遠くにその『目隠し』が見えた。ブランケットやタオルを利用したのだろう、木々の枝に上手に渡して、小振りながら立派な簡易個室が出来上がっていた。
「おはよう、リル。良く眠れた?」
ずっと左へ視線を逸らした先の焚き火に、二人と一匹のシルエットが見えた。静まり返った煙る森が、そこだけ赤々として鮮やかな色だ。
「うん。おはよう、アッシュ、ツパおばちゃん、アイガー」
いる筈のないパパとママの影も、つい探してしまった。ママ、どうか無事でいて……そしてパパに早く追いつきたい。追いついて一緒にママを助け出したい。
「準備は出来ているから。お湯が冷めない内にどうぞ」
「う、うん。ありがとう、アッシュ。あの、ツパおばちゃんも、本当にいいの?」
「私も先程髪だけは洗わせてもらいました。あとはリルヴィが終えた後に、身体を拭けたら十分です。どうぞ行ってらっしゃい」
「うん……じゃあ、お言葉に甘えて」
一旦テントに戻り着替えを用意する。幕の中には数本の枝にぶら下げられたテントの布に、湯気の立つお湯が満たされていた。アッシュが詳しく説明をしながら、小さな固形石鹸と、小鍋を手桶代わりに渡してくれた。
ああ~生き返る心地ってこういうことかも!
早速服を脱いで幕の上に掛け、頭からお湯をかぶった。埃も汚れも痒みも一気に流れ落ちた気さえする爽快感。急いで石鹸を泡立てて脳天から足先までを擦る。お湯は限られているから、上手く濯がないと足りなくなるかも知れない。
気持ちは良いけれど、のんびりしている場合ではないのだ。あたしは泡を流し尽くして、用意してもらったバスタオルで全身を拭った。
あとは服を着て、髪を乾かせば~となった頃。
「危ないっ!!」
誰かの声がそう叫んで!
途端、幕の向こうが赤く染まる!!
──って、サリファの光線!?
あたしは慌ててバスタオルを身に巻き付けた。
幕を寄せた先に見えたのは、何倍もの高さに燃え立つ焚き火だった──!!




