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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第五章■ TO THE MYSTERY(謎へ)!
35/86

[35]湯上がりの衝撃? *

挿絵(By みてみん)


「ルヴィ……ルヴィ……」

「……ん……。……え! ……ママっ!?」


 うつ伏せになった頭の後ろから聞こえた声に、あたしは咄嗟に身を起こした。呼んだのはきっとママ! ママ……ああ、もうパパが助け出してくれたんだ!!


「ご、ごめん……ルヴィ。ボクだよ……ルクアルノ」

「え? あっ……ごめん! ルク……」


 テントを飛び出そうと力を込めた足が脱力した。そ、だよね……こんな眠っている間に一件落着なんて、都合が良いのにも程がある。


「どうしたの? ルク。もしかしてあたし寝坊しちゃった??」


 狭いテントの中で半回転して、少しばかり顔を覗かせたルクを見上げた。テントの中は元より、ルクの向こうも薄暗がりに見える。空気はツンと澄んで、辺りもまだ寝静まっているみたいだ。


「ううん、ま、まだ夜が明けたところだよ。昨日見つけた清水を沸かしたんだ。アッシュが布を吊るして、そ、その……目隠しを、つ、作ったから……」

「目隠し?」


 どもり癖がついてしまったことは、今回再会した時から気付いているけど……と同時に顔を火照(ほて)らせたのはどうにも理解不能だった。まったくツパおばちゃんといい、ルクといい、伯母と甥の二人して赤面ばっかりしているなんて……いや、あたしもか。


「そ、そろそろ湯浴み、したいでしょ? 少しだけど、熱いお湯を用意出来たから……その……」

「あ、そのための目隠しってこと!? ありがとう、ルク!」


 もう二晩もお風呂に入れていないのだ。髪はベタついているし、身体は拭いてはいてもやっぱりスッキリしない。なのでこの思いがけない申し出には、天にも昇れそうな気分になった。でもその赤ら顔ぶりは……まさか変な想像、してないでしょうね?


「あの、でもみんなは? あたしばっかり優遇してもらっちゃ……」

「ア、アッシュとボクは、谷に水を汲みに行った時に、水浴びしてきたから大丈夫だよ。おばさんは、ル、ルヴィが済んだら、か、身体を拭くだけでいいって」

「こんな寒い朝に冷水浴びたの!?」

「す、す、すぐに焚き火に当たったから、平気だよ~……へ……ふぇっくしょん!」


 言ってる傍からコレなんだから~!


 ルクは鼻の下を人差し指で(こす)り、バツの悪そうな苦笑いをした。あたしは呆れ顔で腰を上げ、テントの外で背伸びをする。辺りを淡い(もや)が立ち込めて、幻想的な雰囲気が漂っている。

 振り向けば遠くにその『目隠し』が見えた。ブランケットやタオルを利用したのだろう、木々の枝に上手に渡して、小振りながら立派な簡易個室が出来上がっていた。


「おはよう、リル。良く眠れた?」


 ずっと左へ視線を逸らした先の焚き火に、二人と一匹のシルエットが見えた。静まり返った煙る森が、そこだけ赤々として鮮やかな色だ。


「うん。おはよう、アッシュ、ツパおばちゃん、アイガー」


 いる筈のないパパとママの影も、つい探してしまった。ママ、どうか無事でいて……そしてパパに早く追いつきたい。追いついて一緒にママを助け出したい。


「準備は出来ているから。お湯が冷めない内にどうぞ」

「う、うん。ありがとう、アッシュ。あの、ツパおばちゃんも、本当にいいの?」

「私も先程髪だけは洗わせてもらいました。あとはリルヴィが終えた後に、身体を拭けたら十分です。どうぞ行ってらっしゃい」

「うん……じゃあ、お言葉に甘えて」


 一旦テントに戻り着替えを用意する。幕の中には数本の枝にぶら下げられたテントの布に、湯気の立つお湯が満たされていた。アッシュが詳しく説明をしながら、小さな固形石鹸と、小鍋を手桶代わりに渡してくれた。


 ああ~生き返る心地ってこういうことかも!


 早速服を脱いで幕の上に掛け、頭からお湯をかぶった。埃も汚れも痒みも一気に流れ落ちた気さえする爽快感。急いで石鹸を泡立てて脳天から足先までを擦る。お湯は限られているから、上手く(すす)がないと足りなくなるかも知れない。

 気持ちは良いけれど、のんびりしている場合ではないのだ。あたしは泡を流し尽くして、用意してもらったバスタオルで全身を(ぬぐ)った。

 あとは服を着て、髪を乾かせば~となった頃。


「危ないっ!!」


 誰かの声がそう叫んで!

 途端、幕の向こうが赤く染まる!!

 ──って、サリファの光線!?


 あたしは慌ててバスタオルを身に巻き付けた。

 幕を寄せた先に見えたのは、何倍もの高さに燃え立つ焚き火だった──!!




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