[29]三人の仲間入り? 〈A〉
驚愕の告白から、やっと落ち着きを取り戻したあたし達は、急ぎ歩みを進めた。
ボーダー・コリーのアイガーが待つ場所までは、ひたすら鬱蒼とした森が続いている。緑色の繁みと幹の茶色が交錯する中、明らかに異質な白黒を遠くに見つけた。アイガーも気付いたんだろう、こちらを見詰めて一吠えし、その尻尾はちぎれそうなほど振られていた。
「アイガー! 元気だったー!? ごめんねーお待た……せっ!!」
最後の台詞が途切れたのは、アイガーに飛び掛かられて草むらに倒れ込んじゃったからね。ココにピータンがいたら、もう二匹の興奮は冷めやらなかっただろうな。ピータンは……そしてパパは、一体何処まで登ってしまっただろう? あたし達が追ってきたことも、ツパおばちゃんのように気付いただろうか?
「三人分となるとなかなかの荷物ですね。今日は出来るだけ進みたいので……アシュリー、ルクアルノ、とにかく頑張ってください。では行きますよ、リルヴィ」
「え? あ、はい」
アイガーに頬を舐められまくったあたしに、ツパおばちゃんは声を掛けてスタスタと歩き出してしまった。その後に続く大荷物のアッシュとルク。あたしは後ろから駆け寄って「一つくらい持つわ」と手を伸ばしたけれど、どちらも笑顔で「大丈夫」とだけ言い、何も持たせてはくれなかった。
「二人はそれなりに鍛えている筈ですから、これ位は問題ないと思いますよ。ですからリルヴィは自分のことだけを考えてください。でなければその内にへたばってしまいます」
「え~あたしだって大丈夫だってば! いつもクラブで運動しているもの。ツパおばちゃんこそ、荷物持つわ。その弓だけでも重いでしょ?」
あたしは隣に並ぶおばちゃんのザックに目を向け、心外とばかりに口を尖らせた。おばちゃんも二人と同じように大きな荷を背負っていて、更に矢を入れた筒を肩掛けし、お腹の前にも小柄な身体には似合わない、たっぷりとしたウエスト・ポーチを巻いているのだ。
「私も大丈夫です。でしたら持てるだけで構いませんので、焚き火に使えそうな小枝を拾いながら登ってください。夜は結構冷えますし、食事を作るのにも必要です」
「うん!」
ようやく自分にも役に立てることを言いつかって、あたしは元気な返事をした。斜めに上がってゆく森の地面を見渡しながら、落ちた枝を拾っては駆け登る。途中開けた草地で遅い昼食を取った時には、一瞬ピクニックにでも来ているような、変な錯覚を起こしそうになった。
違う! 違う! ママを助けに向かっているんだから~!!
「……ラヴェルにもサリファの攻撃は見えていたと思いますが、三人が追いかけてきたことには、気付いていないかも知れませんね」
ツパおばちゃんは早々に食事を済ませ、片付けながら西の空を仰いだ。
「ラウルおじさんは西面の登山路を登っているということですか?」
おばちゃんの向けた視線を辿り、アッシュがスマートな推理をお披露目する。西面の登山路……確かあたし達が進んでいるこの東路に比べれば、頂上までの距離は短い筈だ。その分険しい断崖が多いので、利用する登山者はめったにいないという。
「そうです。ラヴェルが西路を選んだ理由は、夜間に体力を温存したいからでしょう。夜の見張りをピータンに任せれば、日中かなり進められますからね。ですからこちらは暗くなった後も少しでも登って、追いついておかねばなりません」
「うん……足手まといにならないよう頑張るね!」
あたしは両手に力を込めて奮起した。『ラヴェンダー・ジュエル』を持っているのはパパなのだ。パパが山頂に着いてしまったら、きっと闘いは始まってしまう。それまでに合流出来なければ、あたし達が行く意味なんてちっともない。
そうでなくともママの無事を保証するタイムリミットは、もう丸三日を切っている。ママがどんな状態でいるのか分からない限り、極力早く辿り着きたかった。
「アッシュ、今度はボクが持つよ」
ルクはお先に荷を背負い、隣で準備を始めたアッシュに手を差し出した。ザックは三つだから、背負う他に、更にどちらかが前側へ抱えることになる。ココまではアッシュが買って出てくれていたので、ルクはきっとずっと気に掛けていたんだろう。やっぱり……あたしは足手まといなだけなのかな……。
「ああ……じゃ、頼むよ。辛くなったらすぐに言ってくれ。ありがとう、ルク」
アッシュは少し申し訳なさそうに返事をして、それでも途中で笑顔になった。そう言えば今まで特に考えたこともなかったけれど、この二人ってお互いをどう思っているのかな? やっぱり兄弟みたいな関係なのかしら??
「リルヴィ、とりあえずこの中に小枝を入れてください。急ごしらえですが、これで貴女も背負えるでしょう」
「え? わっ、ツパおばちゃん、ありがとう!」
あたしは後ろからの声に振り向いて、途端視界を埋め尽くしたモスグリーンに瞳を輝かせた!
大きな麻袋に縫い込まれた太いロープが二本、立派にリュックサックと言える代物を、ツパおばちゃんが作ってくれていたのだ。
「これなら背負ったままでも枝を入れられそう!」
早速今まで拾った小枝を収め、ロープの間に腕を通した。中身の重みで上手く口が開いたので、頭の後ろに手を回し、枝を落してみると見事にシュートすることが出来た。
「良かったね、ルヴィ」
大荷物にサンドされたルクが、自分のことのように眼を細めて笑う。その後ろでアッシュも嬉しそうに見詰めてくれていた。
みんなと同じに背負っただけで、不思議と「一人前」になれた気がするから単純だ。
俄然ヤル気をみなぎらせたあたしは、率先して先頭に立った。
出発進行~!
早くパパに追いついて、ママを助け出しちゃうのだっ!!
けれどあたしは……まだまだ自分が「半人前」なことに、気付こうともしていなかった──!?




