[26]とっておきの身代わり? 〈Ru&L〉+*
あの一瞬のたくましさは、やっぱり見間違いか奇跡だったのかしら??
あたしに抱きつかれたネンネのルクは、「キュー……」みたいなおかしな音を発しながら、パタッと倒れてしまったのだ。
とりあえず彼が正気に戻るまで、作戦会議は再びおあずけになってしまった。
ルクの寝かされたソファの端に座り、つい驚きと呆れたような眼差しで寝顔を覗いてしまう。その間に残されたあたし以外の三人は、これからについて念を入れていた。
五分ほどして我に返り、恥ずかしそうに謝ったルクを含めて、再び作戦が練り込まれた。
「……アシュリーがリルヴィちゃんを背負う分、ルクアルノの荷物は多くなるのだから、着陸まではとにかく頑張りなさいネ? グライダーに乗り込んで、中腹上空まで移動したらパラシュートで落下、その時ルクアルノはリルヴィちゃんから離れる分、標的になり易いから気を付けるコト。そしてそれは引き返すグライダーも同じヨ、シアン。山頂とリルヴィちゃんを結ぶ直線上に、極力機体を入れて逃げてきてちょうだい」
「了解、ハニィ。でもそれはハニィも同じだから。例え距離があっても、リルヴィが居ない飛行船はターゲットになりかねない」
「分かってるわ。ワタシも独りじゃないのだから気を付けるわネ」
そうして見詰め合った二人は……またルクが倒れてしまいそうな、ラブラブな口づけを交わした……!
「リルヴィちゃん」
ルクの目の前に掌をかざし、自分の瞳も逆の手で視界を遮っていたあたしへ、落ち着いたお姉様の声が呼び掛けた。
「ユスリハちゃんがアナタを庇ってこうなったことも、ラウルが単身救出に向かったことも……全部アナタの所為ではないから、もう気にするのはおよしなさい。ワタシもお腹にこの子を宿して分かったの。親ってネ、何が遭っても無条件に子供を守るように出来てるのヨ」
「お姉様……」
そう言って、お姉様はベビちゃんを慈しむように、丸みのあるお腹を優しく撫でた。その微笑みが全てを物語っている感じがした。きっとあたしがお腹の中にいた時も、ママはおんなじ眼差しをしていたに違いない。
「うん……ありがとう、お姉様」
満足そうに頷きを返すタラお姉様、けれど今度はちょっとおっかない顔になって、両隣のアッシュとルクを順に見据えた。
「最後にもう一度言っておくわヨ? 二人共、ココで無駄死になんてしたら、弟子失格と思いなさい。全員無事に帰ってこなかったら承知しないんだから! もう二度と……誰かが誰かの為に眠り続けるなんてこともないようにっ! 分かったわネ!?」
眠り続ける……きっとパパのことだ。
ウェスティとの闘いの後、パパは『ジュエル』を消滅させるため、自身を犠牲にしようとした。あの時タラお姉様は感じたのかも知れない……思い知ったのかも知れない。大切な人の笑顔を見られなくなることの辛さを。一緒に笑い合えることのなくなる哀しみを。
「「はい」」
アッシュとルクもそれを感じ取ったように、しっかりとした返事をした。
★ ★ ★
こうして!
あたし達はついに西の駐機場にある、タラお姉様の飛行船へ向かうことになった。
シアンお兄様の操縦する小型グライダーも、二人分のパラシュートも、船内の格納庫に収められているため、運ぶのは当面の着替えに食糧、夜は冷え込むので小型の折り畳みテントくらいだ。
乗り込んで早速パラシュートの操作方法を学ぶ。もし失敗したらアッシュも一緒に天国行きになる。あたしは緊張を抑えながら、一言一句聞き逃さないよう集中した。
「それじゃあ、そろそろ行くわヨ」
大きな三つのザックに全てを収納し、試しに背負ってみた二人が「OK」と頷いた。タラお姉様は「無理しちゃダメヨ」と声を掛けながら、一人ずつ強く抱き締め操船室へ消えた。シアンお兄様もグライダーの操縦席に乗り込み、あたし達三人もその後部に続く。定員は四名とは言え、大荷物を抱えているから機内はギュウギュウ詰めだ。(註1)
まもなくして足元が揺れ、景色は見えなくとも浮上する感覚を得た。重力が全身に圧し掛かり、思わずグッと目を瞑ってしまう。ノロノロしていればサリファの攻撃の確率も高くなる。だからお姉様は最速で高度を上げ、最速で行ける所まで近付くとあたし達に告げていた。
「大丈夫? リル」
目の前からいつもの優しい問い掛けが聞こえる。振り返るアッシュへ向け瞳を開き、強張った口元に笑みを作った。
横に並んだルクも心配そうにこちらを見詰めていた。彼は何も言わなかったけれど、その眼差しに「大丈夫だよ」という気持ちを込めた笑顔を返した。
やがて格納庫のハッチが開き、シアンお兄様の向こうに霞んだ空が見えた。雲間の左手下方に僅かながらシュクリの山頂が見える。……てことは、随分上空へ上がったんだ。確かにこの辺りは雲が多くて、飛行船を隠すには好都合に思われた。
『全員無事ネ? これから急降下するわヨ。シアン、グライダー準備! 見極めて飛び出してちょうだい。三人も降下の準備して! 用意が出来たら合図をよこしてネ!!』
グライダーの天井部にある小さなスピーカーから、良く通るお姉様の声が聞こえてきた。一瞬にして張り詰める機内。それを機にザックを前にぶら下げたアッシュが、パラシュートを背負ったあたしを背に括り付ける。隣でルクはパラシュートの下に大きなザックを背負い、更にアッシュと同様に前にも抱えた。全員がそれぞれ「準備万端」の頷きを交わす──ついに出立の時だ!
「ハニィ、こっちはOKだよ」
『了解~それじゃあみんな、良く掴まってるのヨ! 必ず全員無事に戻るコト!』
お兄様とお姉様のやり取りに、元気な返事を送る三人。けれどその直後、視界の端にあの真っ赤な光線が流れ──
「ま、待ってお姉様! サリファが誰かを攻撃してる!」
ずっと遠い眼下だけど、山頂から放たれた紅の光は、南部の麓で──爆発した!
『随分離れた裾野だわネ。あの辺りならラウルやツパイの心配はないわ! あーきっとロガールが言ってた「精鋭部隊」ネ! 彼らには申し訳ないけど、サリファの眼がそちらへ行っている今こそチャンスじゃない~という訳で……行っくわヨ~!!』
──えぇぇ~~~!?
心の準備が出来ない内に、飛行船が一気にダイブした──!!
[註1]グライダーの定員:通常は一~二名ですので、シアン機はほぼ小型飛行機と思ってください。




