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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第四章■ TO THE CHOUCRE(シュクリ山へ)!
26/86

[26]とっておきの身代わり? 〈Ru&L〉+*

挿絵(By みてみん)


 あの一瞬のたくましさは、やっぱり見間違いか奇跡だったのかしら??


 あたしに抱きつかれたネンネのルクは、「キュー……」みたいなおかしな音を発しながら、パタッと倒れてしまったのだ。


 とりあえず彼が正気に戻るまで、作戦会議は再びおあずけになってしまった。


 ルクの寝かされたソファの端に座り、つい驚きと呆れたような眼差しで寝顔を覗いてしまう。その間に残されたあたし以外の三人は、これからについて念を入れていた。


 五分ほどして我に返り、恥ずかしそうに謝ったルクを含めて、再び作戦が練り込まれた。


「……アシュリーがリルヴィちゃんを背負う分、ルクアルノの荷物は多くなるのだから、着陸まではとにかく頑張りなさいネ? グライダーに乗り込んで、中腹上空まで移動したらパラシュートで落下、その時ルクアルノはリルヴィちゃんから離れる分、標的になり易いから気を付けるコト。そしてそれは引き返すグライダーも同じヨ、シアン。山頂とリルヴィちゃんを結ぶ直線上に、極力機体を入れて逃げてきてちょうだい」

「了解、ハニィ。でもそれはハニィも同じだから。例え距離があっても、リルヴィが居ない飛行船はターゲットになりかねない」

「分かってるわ。ワタシも独りじゃないのだから気を付けるわネ」


 そうして見詰め合った二人は……またルクが倒れてしまいそうな、ラブラブな口づけを交わした……!


「リルヴィちゃん」


 ルクの目の前に掌をかざし、自分の瞳も逆の手で視界を遮っていたあたしへ、落ち着いたお姉様の声が呼び掛けた。


「ユスリハちゃんがアナタを(かば)ってこうなったことも、ラウルが単身救出に向かったことも……全部アナタの所為ではないから、もう気にするのはおよしなさい。ワタシもお腹にこの子を宿して分かったの。親ってネ、何が遭っても無条件に子供を守るように出来てるのヨ」

「お姉様……」


 そう言って、お姉様はベビちゃんを慈しむように、丸みのあるお腹を優しく撫でた。その微笑みが全てを物語っている感じがした。きっとあたしがお腹の中にいた時も、ママはおんなじ眼差しをしていたに違いない。


「うん……ありがとう、お姉様」


 満足そうに頷きを返すタラお姉様、けれど今度はちょっとおっかない顔になって、両隣のアッシュとルクを順に見据えた。


「最後にもう一度言っておくわヨ? 二人共、ココで無駄死になんてしたら、弟子失格と思いなさい。全員無事に帰ってこなかったら承知しないんだから! もう二度と……誰かが誰かの為に眠り続けるなんてこともないようにっ! 分かったわネ!?」


 眠り続ける……きっとパパのことだ。


 ウェスティとの闘いの後、パパは『ジュエル』を消滅させるため、自身を犠牲にしようとした。あの時タラお姉様は感じたのかも知れない……思い知ったのかも知れない。大切な人の笑顔を見られなくなることの辛さを。一緒に笑い合えることのなくなる哀しみを。


「「はい」」


 アッシュとルクもそれを感じ取ったように、しっかりとした返事をした。



 

 ★ ★ ★




 こうして!

 あたし達はついに西の駐機場(マリーナ)にある、タラお姉様の飛行船へ向かうことになった。


 シアンお兄様の操縦する小型グライダーも、二人分のパラシュートも、船内の格納庫に収められているため、運ぶのは当面の着替えに食糧、夜は冷え込むので小型の折り畳みテントくらいだ。


 乗り込んで早速パラシュートの操作方法を学ぶ。もし失敗したらアッシュも一緒に天国行きになる。あたしは緊張を抑えながら、一言(いちごん)一句聞き逃さないよう集中した。


「それじゃあ、そろそろ行くわヨ」


 大きな三つのザックに全てを収納し、試しに背負ってみた二人が「OK」と頷いた。タラお姉様は「無理しちゃダメヨ」と声を掛けながら、一人ずつ強く抱き締め操船室(コクピット)へ消えた。シアンお兄様もグライダーの操縦席に乗り込み、あたし達三人もその後部に続く。定員は四名とは言え、大荷物を抱えているから機内はギュウギュウ詰めだ。(註1)


 まもなくして足元が揺れ、景色は見えなくとも浮上する感覚を得た。重力が全身に()し掛かり、思わずグッと目を(つむ)ってしまう。ノロノロしていればサリファの攻撃の確率も高くなる。だからお姉様は最速で高度を上げ、最速で行ける所まで近付くとあたし達に告げていた。


「大丈夫? リル」


 目の前からいつもの優しい問い掛けが聞こえる。振り返るアッシュへ向け瞳を開き、強張った口元に笑みを作った。

 横に並んだルクも心配そうにこちらを見詰めていた。彼は何も言わなかったけれど、その眼差しに「大丈夫だよ」という気持ちを込めた笑顔を返した。


 やがて格納庫のハッチが開き、シアンお兄様の向こうに霞んだ空が見えた。雲間の左手下方に僅かながらシュクリの山頂が見える。……てことは、随分上空へ上がったんだ。確かにこの辺りは雲が多くて、飛行船を隠すには好都合に思われた。


『全員無事ネ? これから急降下するわヨ。シアン、グライダー準備! 見極めて飛び出してちょうだい。三人も降下の準備して! 用意が出来たら合図をよこしてネ!!』


 グライダーの天井部にある小さなスピーカーから、良く通るお姉様の声が聞こえてきた。一瞬にして張り詰める機内。それを機にザックを前にぶら下げたアッシュが、パラシュートを背負ったあたしを背に括り付ける。隣でルクはパラシュートの下に大きなザックを背負い、更にアッシュと同様に前にも抱えた。全員がそれぞれ「準備万端」の頷きを交わす──ついに出立の時だ!


「ハニィ、こっちはOKだよ」

『了解~それじゃあみんな、良く掴まってるのヨ! 必ず全員無事に戻るコト!』


 お兄様とお姉様のやり取りに、元気な返事を送る三人。けれどその直後、視界の端にあの真っ赤な光線が流れ──


「ま、待ってお姉様! サリファが誰かを攻撃してる!」


 ずっと遠い眼下だけど、山頂から放たれた(くれない)の光は、南部の麓で──爆発した!


『随分離れた裾野だわネ。あの辺りならラウルやツパイの心配はないわ! あーきっとロガールが言ってた「精鋭部隊」ネ! 彼らには申し訳ないけど、サリファの眼がそちらへ行っている今こそチャンスじゃない~という訳で……行っくわヨ~!!』


 ──えぇぇ~~~!?


 心の準備が出来ない内に、飛行船が一気にダイブした──!!



挿絵(By みてみん)



[註1]グライダーの定員:通常は一~二名ですので、シアン機はほぼ小型飛行機と思ってください。




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