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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第四章■ TO THE CHOUCRE(シュクリ山へ)!
25/86

[25]二人の女神?

「ダメだよ、リル。君は連れて行けない。だから秘密にしてって言っておいたのに……どうしてこんなことになってるんだよ……」

「だって……! タラお姉様が行くって言ったんだもん!! あたしも行くわ……行かないでココでどうしてろって言うのよっ」

「行くのは僕とルクだけだよ。姉さんは途中まで! だからリルも大人しくしていてくれ」

「分かってる! 二人の足手まといには絶対ならないからっ! お願い~アッシュ!! パパを手助けしてママを助けたいのっ!!」

「君が一緒に行って、どうやって手助け出来るって言うんだよ……パパだって心配するに決まってるじゃないか。此処はどうか僕達を信じて──」

「??」


 ──あれから。


 驚いて固まってしまったあたしにお構いなしに、タラお姉様はこれからの『作戦』を事細かく説明した。


 まずはお姉様の操縦する飛行船で、シュクリには離れたまま上空へ。そこからシアンお兄様の操縦するグライダーでアッシュとルクを運び、パラシュートで山の中腹にダイブ! パパかツパおばちゃんと合流し山頂を目指す、と言うのだ。


 呆然としながらも少しずつ理解をしたあたしに、準備を終えて出てきたアッシュが気付いた。それから徐々に瞳に輝きを取り戻したあたしを、反面顔色を曇らせたアッシュが(いさ)め始めて……そんなやり取りが延々続いているところへルクが帰還、言葉もないまま「??」と首を(かし)げてしまった、という場面なのであーる。


「あ、ルクアルノ帰ってきたわネ。それじゃそろそろ兄妹ケンカも終わりにしてちょうだい。とりあえず『作戦』の詳細を頭に入れてもらうわヨ」

「姉さん……!」


 エントランスの廊下で立ち止まったまま、「兄妹ケンカ」をしていたアッシュとあたし、そして意味も分からず傍観していたルクを、リビングの扉からお姉様が手招きした。

 仕方なくといった様子で口をつぐんだアッシュが、唇をへの字にして先を歩く。分かってるって……アッシュは怒ってるんじゃなくて、心配してくれてるんだってこと。だってあたし達は「家族」だもんね!


「それじゃ、少し事情が変わったから、今朝説明した状況とは違うわヨ。一度しか言わないから、ちゃんと覚えなさい? まず、ワタシの飛行船で上昇、ココは変わらず。次にシアンのグライダーでシュクリへ。で、ココから変更ネ。アシュリーは荷物じゃなくて、リルヴィちゃんを背負うこと。パラシュートはリルヴィちゃんに装着。リルヴィちゃんはパラシュートの開き方だけ覚えたらイイわ。タイミングはアシュリーが見極めなさい。じゃあ、次。ルクアルノ」

「……」


 真剣な顔をした全員が集合するソファの上で、独りアッシュだけがお姉様の説明に頷きを返さなかった。とは言えルクも驚きの変更事項に、頷いても理解は出来ず、と言った顔つきをしていなくもないけれど。


「あらん……どうもアシュリーは納得いかないみたいネ? アナタ、頭がイイんだからもう気付いているのでショ?」

「……え?」


 あたしはつと驚きの声を上げてしまった。アッシュは何を気付いているのだろう?


「分かっています……だからこそ、(あと)が怖い」


 「怖い」──アッシュから聞いたことのない言葉が現れて、あたしは一瞬息を呑んだ。


「気持ちは分かるわヨ。でもこれは師匠(ワタシ)からの命令。リルヴィちゃんはアナタ達の予防線ヨ」

「予防線って……お姉様、お願い、説明して! あたし、一体何が何だか……」


 俯いて沈黙してしまったアッシュ。その隣で頬杖を突いたシアンお兄様は、横目で静かに見守るだけで、ルクとあたしは依然良く分からないまま、アッシュの言う「後」に不安を(いだ)いた。


 タラお姉様は伸ばしていた背筋を背もたれに預け、「一旦作戦会議は中断ネ」と言った様子で、あたし達に口を開いてくれた。


「アシュリーがリルヴィちゃんから聞いた話に依れば、サリファはラウルに、ユスリハちゃんと引き換えに「『ジュエル』と若い肉体」をよこせと言ったのでショ? だけどさすがにそんな代わりなんて用意出来る訳もないから、あの子はジュエルだけを持ってシュクリを登っていった。となれば、アナタは恰好の「若い肉体」になれるワケヨ、リルヴィちゃん」

「……え?」


 もう一度上げてしまった驚きの声に、隣のルクがワタワタし始めた。そ、それってあたしが(おとり)になるってこと!?


「イイ? サリファは飛行船で来たら容赦はしないとも言ったのでショ? 正直すばやい小型のグライダーでも、無事二人を山に送れるかは五分五分と思っているの。其処にリルヴィちゃんっていう「幸運の女神」が同乗していたら、リルヴィちゃんの肉体が欲しいサリファは攻撃出来ない筈ヨ。そして山頂に到着するまでは確実に守られる……どう? 一石二鳥でショ?」


 確かに……あんな紅い光のままのサリファだ。動くための身体が必要に違いない。そしてその「生贄(いけにえ)」が手に入るまでは……明らかにあたしと、あたしの背後にいてくれれば二人は無事だ。


「でも山頂に着いたら、一番に狙われるのはリルになる……姉さんはそれを分かっているのにどうして──」

「だから予防線になるって言ってるんじゃないの~アシュリー」


 辛そうに搾り出したアッシュの台詞が終わらぬ内に、重ねられたのはタラお姉様のあっけらかんとした答えだった。


「自分達が倒れれば、リルヴィちゃんはサリファの物になるわ。そう思ったら()られる訳にもいかないし、死んでる場合でもなくなるでショ? モノは考えようヨ。リルヴィちゃんをお守りだと思えばイイの」

「姉さん、だからって──!」

「ワタシはアナタ達が命を差し出してまで、完遂してもらいたいワケじゃないのヨ。危うくなったらリルヴィちゃんを連れて逃げなさい。第一、自分の為に二人が死んだら、この子は一生重荷を抱えるわヨ。それはココで待っていても、一緒に行っても同じ……だったら」


 再び背もたれから上半身を起こし、お姉様はピンと背筋を伸ばした。戸惑うアッシュの灰水色の瞳を、いつになく真顔で真っ直ぐ見詰めた。


「……だったら、この子を連れて行ってあげなさい。それでなくともこの子は自分の所為で、母親(ユスリハちゃん)が連れ去られたのだと自分を責めてる。更にもう今の時点で、ラウルとピータンとツパイとアイガー、二人と二匹の心配で胸が一杯なの。其処へアナタとルクアルノの心配までさせたら……この子の心は壊れるわヨ。せめて状況が分かる所まで連れて行ってあげなさい」


 見えるアッシュの横顔は、お姉様の言葉で硬く引き締められた気がした。


「ルヴィ……行こう?」

「ルク……?」


 その時、隣からすっと立ち上がり声を掛けたのはルクだった。見上げた顔はアッシュと同じく引き締まって、優しい薄翠色の瞳で見下ろしている。


「一緒に行こう。ルヴィは絶対、アッシュとボクで守るから」


 なんだろう……どうしてだろう?

 あたしと変わらない身長が、一回りも大きく感じたのは何故だろう??


「ああ……今回は完全に僕の完敗だ。リル、絶対に僕達から離れないでくれよ?」


 逆隣からもっと大きな影が立ち上がり、少しふてくされたような表情で見下ろしていた。変なの~まるで二人が逆転したみたい!


「ありがとう……ありがとう! ルク!! アッシュ!!」


 そしてあたしもすっくと立ち上がって、両手を二人の肩に伸ばした。勢い良く飛び上がって、二人をいっぺんに抱き締めた──!!




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