[24]本当の宝物? *
ルクの声が小さく掻き消えて、しばらく皆も沈黙してしまった。あたしはその静寂が自分に与えられた時なのだと思い立って、思い切って口を開いた。
「あ、あの……ロガールじじ様」
じじ様に向けたあたしの思い詰めた表情が、皆の視線に捉えられた。
「ああ、何だい? リルヴィ、言ってごらん」
薄く笑んだじじ様の様子に、あたしの緊張は少しばかりほどけていく。
「ツパおばちゃんがサリファの前に現れた時、サリファはおばちゃんを「ノーム」って呼んだんです。それからパパには「二千六百年の執念」がどうとかって……」
「ふぅむ……」
ロガールじじ様は王族の一員だから、もしかしたらヴェルの古い歴史にも精通しているかも知れない。
案の定じじ様の太い指が、何かを思い出そうとするように顎髭を撫でた。斜め上に流していた瞳を、今一度あたしに戻し、
「ノームという呼び掛けは分からないが、後者には心当たりがない訳ではないな……確かこの国の起源は二千六百年程前になる。サリファの言う「執念」とやらが、ヴェルの過去に関係するのなら……が、確信は持てない。一度図書室で調べてみるから、少し待っていてくれるかい? それから既に精鋭部隊がラヴェルの援護の為にシュクリへ出発した。だからリルヴィ、此処で安心して待っているんだよ」
と言い終えて、手元のお茶を飲み干した。
精鋭部隊……王家の近衛兵のことだろうか?
じじ様の優しい眼差しに、あたしはじじ様を安心させようと大きく強く頷いた。でも……やっぱり心はそれを受け入れられない。ママが連れ去られてから、あたしの心はあたし自身にずっと問い掛けているんだ。
本当にこれで良いの? リルヴィ──!? ……って。
「では……とりあえず失礼するよ。もしツパイが現れたら、悪いが王宮へ連絡をよこしてくれ。こちらも今回の要因が分かり次第、また説明に伺おう。お茶をごちそうさま、タラ。君も身重なのだから、どうか無茶はしないでくれよ」
「ご心配は無用ヨ、ロガール。ワタシも念願の賜り物なんだから、バカなことはしないわ」
少しだるそうに立ち上がり、タラお姉様にお礼と忠告をしたロガールじじ様は、素直な返事に満足したようだった。再び焦りながらエントランスを目指し、あたし達への挨拶もそこそこに去ってしまった。
「さぁ~て! もうこれじゃツパイは来ないわネ。ルクアルノ、アシュリー、準備を始めてイイわヨ」
じじ様を見送った途端、元気良く声を上げたお姉様に、あたしは不思議そうな面差しを、ルクとアッシュは「待ってました!」みたいな頷きを送った。で……「準備」って何のこと??
「ル、ルヴィ……ボ、ボクちょっと……支度してくるね。じゃ、じゃあまた!」
「え? ──ルク? ちょっ──」
あたしの台詞が終わらない内に、じじ様に続くように駆けていってしまうルク。「支度」って、自宅で着替えでもしてくるのだろうか?
アッシュも無言で自室に向かってしまい、シアンお兄様は片付けにキッチンへ、あたしの前には楽しそうな笑顔のタラお姉様だけが残された。んん? 楽しそうってどういうこと??
「リルヴィちゃん、今のアナタにとって『宝物』ってなあに?」
「……え?」
このところやたらと聞くなぁその言葉──『宝物』。
『ジュエル』を手に入れるため、『宝物』をエサにあたしをおびき出そうとしたサリファから。あたしをアッシュとルクの『宝物』と称したシアンお兄様から。そして今、あたしにとっての『宝物』を尋ねたタラお姉様から。
そんなの絶対に決まってる! 一つしかないあたしの大切な『宝物』。
「──もちろん、パパとママ、だよ……お姉様」
あたしは答えた口元を引き締めて、頭一つ半高いお姉様の瞳を見据えた。その時残りの一つが繋がった。
そうだ……アッシュもルクも、あたしを「家族」として『宝物』と思ってくれたんだ!
「そうヨネ、リルヴィちゃん。で……『宝物』って、やっぱり自分の力で手に入れたいモノでショ?」
「え?」
お姉様の微笑みが、ニヤリと嗤いに変わった気がしたのは気のせいでしょうか??
「ウフン~これから出発しちゃったりするのヨネー、シュクリ山に!」
「え? ──ええっ!?」
「無茶しないでくれよ」「バカなことはしないわ」……そんなやり取りをした筈の数分前が、見事に消え去った瞬間でした──!?
■第三章■ TO THE PRECIOUS (宝物へ)! ──完──




