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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第三章■ TO THE PRECIOUS(宝物へ)!
18/86

[18]選択の不可能?

「リル! 大丈夫か? 怪我は……何処も痛くないかい!?」


 草むらにしゃがみ込んだまま、あたしは膝に顔を突っ伏して泣いた……ママが、ママが……あたしの身代りに連れ去られてしまった──!


 頭上から掛けられたパパの心配そうな声に、ただ「怪我なんてしていない」と伝えたくて首を振った。そんなあたしの肩がパパの両腕で優しく包み込まれた。


「ごめん……パパが悪いんだ。本当のことをリルにずっと黙ってきて……こんな真夜中に独りで片付けようとしたから……ごめん、リル……」


 左耳の傍で囁かれたパパの言葉は、とても悔しそうでとても悲しそうで……そしてひたすら自分を責め立てる、心からの謝罪だった。


「ちが……パパ、違う、の……! あたし……あたしがパパとママに、ずっと隠してた……それにあたしも……家を抜け出して、おばあちゃんの所へ行こうとしたんだ……『ジュエル』を、持ち出して……!」


 きっとパパとママがいなかったら、あたしはサリファに取り込まれて、あたしこそが連れ去られていたに違いない。それも……サリファの欲しがった『ラヴェンダー・ジュエル』と共に──。


 あたしはパパの抱擁の中で、顔を両手で覆って泣いた。「ごめんなさい、ごめんなさい、パパ……」そんな言葉以外、今のあたしには言えることが何も見つからなかった。


「君は謝らなくていい……パパが早く解決しようと焦ったのがいけなかったんだ。……でも、今度はしくじらない。ママを無事に助け出して戻ってくるから、リル……君はツパおばちゃんの所に居なさい」

「パパ……?」


 パパは力の抜けたあたしごと立ち上がって、後ろで言葉を失くしたようにうな垂れるツパおばちゃんを振り返った。


「ツパ……悪いけど、リルのことを頼む」

「ラヴェル……しかし──」

「い、いやっ! パパ……あたしも行く!!」


 パパの背中に慌ててすがった。嫌だ……あたしが悪いんだ……あたしもパパと一緒に行って、ママを助け出さなくちゃ!!


「リル……お願いだから言うことを聞いてくれ」


 パパはもう一度こちらを向いて、あたしの両肩に手を乗せた。言い聞かせるために腰を屈め、聞き分けのない幼子をなだめるように、あたしの涙に濡れた瞳を見据えた。


 嫌だ! 一緒に行く!! そんな思いつめた表情で、あたしはただひたすら無言でイヤイヤをした。


「リル、どうか分かってほしい……パパは……もしリルとママ、二人が同時に危険な目に遭ったら……どちらかなんて……選べない」

「あっ……」


 その時パパは本当に本当に……今まで見たこともない辛そうな眼差しをした。

 両方の瞳が潤んで沈む。片方の目は、義眼である筈だというのに……。


「……う……うん……分かった」


 こんなパパを見てしまったあたしは、その懇願に従うしかなかった。

 だって……あたしもきっと同じだと感じてしまったから。もし目の前でパパとママが危険に晒されたら……あたしもどちらかなんて、やっぱり選べない。


 パパは柔らかな雰囲気に戻って、一度「うん」と頷き姿勢を伸ばした。でもその瞬間に面差しは堅く引き締められ、視線はあたしの瞳とかち合った。


「ジュエル、時間がない。一度しか言わないから、今すぐ決めてくれ。ユーシィとリル、二人を守りたいなら、今すぐ宿主を自分──「ラヴェル=ミュールレイン」に変更しろ」

「あっ──!」


 その冷たく透き通った声に、ジュエルはあっと言う間に反応を示した!

 左眼がいきなり温かみと光を帯びて、あたしの意志とは無関係に、無抵抗に引き離された!!


「さすがに聞き分けがいいな、ジュエル」


 先に自身の義眼を外していたパパの左瞼に、吸い込まれるように嵌め込まれたジュエル。


 パパの全身はその途端、薄紫の光を帯びた気がした。不思議と力強いエネルギーを感じる……ジュエルのヴィジョンで何度も見てきた「宿主としてのパパ」なのに、実際目にしたその姿は、驚くほどに神々(こうごう)しかった。


「ツパ、リルを宜しく」

「わ、分かりました……それで、どうするつもりなのです? 飛行船を出すなら私が……」

「いや、「代わりの肉体」が用意出来ない以上、行っても撃ち落とされるだけだ。陸路で向かう。……ピータン、一緒に行くね?」


 パパは最後に優しく肩の上のピータンに問い掛けた。慰めるように力を与えるように、パパに頬ずりをしたピータンをくすぐったそうに見詰める。パパはあたしを今一度抱き締めて、芝生に放っておいた剣を拾い、北西の闇へ消えていった。


「パパ……」


 これで本当に良いの、リルヴィ? ──あたしは自身に問い掛けていた。


 もちろんパパのことは信頼しているし、あたしが生まれる前にもママのため・ヴェルのために、どれだけ力を尽くしたかを知っている。

 そしてこの十四年、危険なことなんて何もなかったけれど、パパは温かな微笑みで、ずっとママとあたしを守ってきてくれた。


 でも……だからと言って……!

 本当にこれで良いの? リルヴィ──!?




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