ひとつひとつ彼を知っていく。それだけで途方もなく嬉しかった。
彼は飲み込みが早く、一度説明したことは次から完璧にこなしていた。
「さすが、脳みそが若い!なんでも吸収できちゃうね。」
言いながら、昨日のことも忘れてしまう自分の衰えた脳と比べて、軽くため息がもれた。
ため息に気付いてか、こっちに視線をやった彼と目があった。
「あ、違う違う。つい自分の脳みそと比べちゃって‥」
彼が少し微笑んだ。
ドキッ
柔らかい表情の彼を見るのは初めてだった。
もっと色んな顔が見たい。
笑い転げたり、冗談を言ったりもするのかな…
私の頭の中は隼人のことでいっぱいだった。
ランチのお店をまだ知らないという彼に、穴場の定食屋さんを教えてあげると言って連れ出した。
知子も一緒にと思っていたが、面接の準備があるからと断られた。
2人で外を歩くだけでも緊張するのに、ご飯なんて、喉を通るか心配なくらいだった。
緊張が悟られないように、普通の会話をしようと意識しながら話しかけた。
「食べられないものとかってあるの?」
「いや、基本ないです。あ、卵は好きなんですけど、ゆで卵とか目玉焼きにすると食べられないです。」
「わかる!私も黄身が固い目玉焼きってダメなんだ。でも、ゆで卵は好きだなー。」
「え?黄身が固くなった感じ同じじゃないですか?」
他愛もない会話なのに、ひとつひとつ彼を知れることが途方もなく嬉しかった。