第6話 こう、機体登録のIDって地味なかっこよさがあるよね。
「おいっ!あのガキ達はどこに行きやがったぜ!!」
「わからねぇよ!ガキだと舐めてたらこうだ!!」
ただのガキだと思ったら俺達の追跡がバレてやがったとガニルは若干後悔をしていたが、ここでは一時の油断を許されないと判断しすぐさま行動に移した。
光が十分に確保されていない薄暗い中、ガニル達はライトを使って少女を探していると、移動している影を捉えた。
その隙を逃さないとヘベケは手に持っていたSMGの銃口を向けて発砲した。
「おい!ガキを殺してどうする!?居場所を聞き出さないと行けないんだぞ!」
「落ち着けガニル。俺が撃ったのは殺傷率の低いスリングショットだ。しかも薄い壁があるから威力は低下してるはずだぜ。」
ヘベケは所詮は多少足の速いガキだと楽観視して、先程撃った先の目標を確認しようと歩いた瞬間、左右にある鉄屑の瓦礫が爆発した。
ガニルは爆発に巻き込まれないように後方に下がり、崩れた壁を盾に体制を整えて銃を構え、巻き込まれたヘベケが生きてるかどうか叫んだ。
「クソがっ!!コケにしやがって!!おいヘベケ、大丈夫か!!」
「目がっ!!俺の目が見えねぇ!!」
運が悪かったのかあるいは迂闊だったのか、ヘベケは全身に鉄屑の破片が刺さって動けなかった。
「ッ!!今助けに・・・・・・」
その時、首筋から嫌な予感が漂った。
これは見知らぬにクリーチャーに狩られる時に感じる嫌な虫の知らせだとガニルはすぐ様感じ取り、その場に離れようと動いた。
ガニルが動いた直後、壁のすぐ横にグレネードが放り込まれ爆破した。
爆発から逃れようと退避するが、その爆発の衝撃に耐えられずガニルは吹き飛び、壁に激突した。
「ガハッ!うぅ…」
肺に呼吸がままならなく視界がぼやけながらも周囲の状況を把握しようと下を向いていた顔を上に向くと、そこには己の命を狩ろうとする死神がいた。
いや、死神ではなく銃口を向けた一人の少女だった。
「……何故、ガキがこんなにも動けるんだ?」
「貴方に送る言葉なんて必要ないよ?」
「まぁ待て、話を……」
そこで三発の銃声と共に会話は途切れてしまった。
「ガニル!!何処だ!ガニル!」
全身に破片が刺さっているヘベケは未だに身動きが取れず、ただ助けを求めて叫んでいた。
「あら?まだ生きていたのね。今すぐ楽にしてあげる。」
「この声……⁉︎まさか21区の悪魔じゃ……」
再び三発の銃声が鳴った。
「早くルシアの所に行きたいけどまずは戦利品、戦利品っと。」
ひとまず安全を確保したアルカは地面に転がっている二つの死体を物色した。
稼げる物があればどんな物でも取るのが探索者としての義務なのだ。多分。
「中々いい装備してるなぁ〜、サプレッサー付きのSMGがあるじゃないですか〜。頂戴しますわ。」
戦力増強だという建前を利用して、漁っていると破壊音が聞こえた。
「ありゃ、これは流石にピンチなのかな?」
基本遺跡の行き過ぎた破壊行為は禁止されているはずなのに。
「連中も後がないのかな?まぁ行きますか。」
収穫物を出来る限り持ち込んで、ルシアのいるであろうドールがあった場所へと向かうアルカはふと、親方から頼まれた試作品を見つめ
「やっぱり反動が大き過ぎて使い辛いって報告入れよう。」
と意外にも余裕なアルカであった。
◇
ユーリの行動は早かった。
敵性ドールが動く前にバックパックに入っているドローンを起動した。
「EMPドローン!相手を撹乱して!」
ドローンから発した青い光線が敵性ドールのメインカメラに当て、相手の視界を奪った。
(これで時間を稼げるがどうする⁉︎ルシアを連れて逃げてもドールの索敵からは逃れられない……‼︎)
なんとか船から脱出出来たとしてもここは広大な森の中、ドールに搭載されているレーザー装置のグレードが高ければ隠れ切れるのは困難になるとユーリは予想する。
とりあえず相手の機動力を削ごうと、バックパックからスカウトドローンを4機を起動し、ドールの関節部分を攻撃させるよう指示を出した。
「これで運良くドールを動けなくさせたらいいなー……って、ルシア⁉︎どうしたの⁉︎」
ルシアの異変に気付いたユーリは両肩を掴んで揺さぶるが、立ち止まったまま錆びたドールを見つめていた。
ルシアは呼ばれていた。誰に呼ばれたのか周囲を見ると、ドローンを展開して敵性ドールの関節部分を破壊しようとしてるユーリ、それに対してジャミングされている視界をなんとかしようとドローンを撃ち落そうとするドール。
それらは動いていなかった。
時が止まっていたのだ。
驚きつつあるもルシアは冷静を装い、呼ばれた方へと顔を向けた。
そこには先程ユーリがクラッキングを試みようとした人型機動兵、ドールがあった。
そのドールは錆びてもなお一際、存在感があり今でも戦えるという意思が感じられる。
そしてコックピットの部分から青色の粒子が溢れ出してきた。
まるで導かれているかのようにルシアを呼んでいる。
「そこに行けばいいのね。」
次の瞬間、ドールから溢れていた青い粒子がルシアに包まれた。
包まれた粒子は温かく、綺麗で、なぜか懐かしい感じがした。
気づいたら、ルシアの周りには精密な機械やモニター、両手に操縦桿があった。
ドールのコックピット内部だ。
ここがあの錆びたドールのコックピットの中だと認識した時、モニターから映像が映し出した。
ユーリと敵のドールが交戦している最中だった。
「ようこそ。私は高性能AIのイロナです。早速ですが個人認証登録の方をお願いします。」
どこからか分からない謎の声に戸惑っているルシアだが、AIはそのまま話を続けた。
「両手に操縦桿を握ってあなたの名前を!早くしないとあなたのお友達が力尽きてしまいますよ!」
友人であるユーリが危険に晒されていると分かった途端、ルシアは勢いよく操縦桿を握り。
「ルシア、私の名前はルシア。」
「分かりました。登録完了 UESF-UEE001 ソラス、起動開始。行きますよ!」
200年間沈黙を続けた錆びた英雄が再び立ち上がった。