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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
勇者様編
7/91

7

セスと私が草むらの陰から匍匐前進で進む。我々の視線の先には、馬達たむろしていた・・・ユニコーン達と共に。


湖の畔で、くつろぐユニコーン達、と馬。ユニコーン達の美しい金のたてがみと白い体が光を弾いている。そのたてがみを、私の平凡な栗毛の愛馬が口でつくろっている。


「なんなの、これ?ユニコーンて、こんな感じだっけ?馬を魅了するの?」


セスが隣で呟いている。


「なんにしろ、馬たちを取り返す方法はないかな?少なくとも食料の入った荷物は必要だ。」


私はユニコーンたちから目を離さず答える。


「ユニコーンて、処女だったら近寄れるんじゃなかったっけ?」


そう言うと、セスが、後方に控えていた、イザドラにこちらへ来るよう合図を送った。止める暇もなかった。


イザドラだけならまだよい。殿下とアプレイウス師、おまけにテオまでごそごそ、もそもそと四つん這いで忍び寄ってきた。


こんなに大勢ではすぐに気配を悟られるぞ!


「何よ?」


イザドラがセスに問う。


「あんた、あのユニコーンのそばまで行って、荷物を運んでいる馬だけでも引っ張ってくることできない?」


イザドラが目を細める。


「なんでよ?」


「処女ならユニコーンを刺激しないかもしれないじゃない。」


セスが短く答える。


私は慌てて殿下の耳を塞いだ。


イザドラは、考え込むように左の口角を、キュッとあげると、


「処女じゃないからダメなんじゃない?」


とのたまった。


セスの目が少し大きくなる。


「聖女だとは信じてなかったけど、処女でさえないの?」


呆れたように呟く。


「神殿付きの養護院育ちだからね。とっくの昔にタチの悪い神官に手を出されてるわ。養護院育ちでヴァージンの聖女なんて今時いやしないわよ。」


表情一つ変えずに返事をするイザドラに、さすがのセスも言葉がないようだ。・・・私もない。私たちの視線は、思わずイザドラに集中してしまった。耳を塞いで、会話が聞けないようにしているはずの殿下でさえ、イザドラをまじまじと見ている。


そのイザドラが呟いた。


「何あれ?」


イザドラの視線の先を探る。


他のユニコーン達、そして我々の馬の1・5倍はありそうな真っ黒な馬が湖の中から出現する。


その巨体はまるで油を流したように、黒く照り返している。そして額には黒々とした一本の角。


黒いユニコーン、そんなものが存在するのだろうか。いや、目の前にいる。


他のユニコーン、そして馬達からの熱い視線を集めつつも、黒のユニコーンは、首を高く上げ、嘶いた。


ヒヒーン!!


呆気にとられている私の横で、セスとイザドラの会話が進んでいた。


「黒くてもユニコーンなの?ユニコーンと同じ性質なの?処女なら近づけるの?」


イザドラの問いにセスが鼻を鳴らす。


「処女じゃないなら関係ないじゃない。」


「いや、私じゃなく・・・」


セスとイザドラ、アプレイウス師の視線が、私に集まっている。殿下とテオも、こちらを見ている。


こっち見るな。


アプレイウス師が、


「いや、うーん、どうだろうかの。」


と呟く。どう言う意味だ。


眉をしかめた私の腕を、殿下が注意を促すように叩く。殿下の視線はすでに黒いユニコーンの方向に戻っている。ハッとして私もユニコーン達を再び見つめた。


黒の巨体が、セスの馬に後ろからのしかかっている。


「!」


私は慌てて殿下の目を塞いだ。


セスが、


「私の馬、雄よ!」


と、狼狽している。


思わず、


「「「あんたが言うな!」」」


と小さな声で囁いた。しかし、時を同じくしてイザドラとアプレイウス師同じ発言をしたらしい。皆声が重なって、結構大きなものとなってしまった。


黒い頭の黒い瞳がこちらをじっと睨んだかと思うと、その目がいきなり赤くなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ふふ(*`艸´)相変わらず個性的な人々と濃ゆい展開ですわね~♪ 加えて、臨場感に溢れたテンポの良い文章も健在で嬉しい限りです( *´艸`)♪ ほんと大島周防様の文章好きですよ~(ノ≧∀≦)…
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