6
乱暴に揺さぶられて、頭がガクガクする。振動に耐えながらも、慌てて殿下を右手で抱きしめた。左手にある手綱を引っ張ったが、すでに遅し。崩れてしまったバランスを取り戻すことはできなかった。鎧から足が外れ、そのまま後ろ向きに落馬した。
「ギャッ!」
頭を打たないよう、必死に抱え込んだ殿下が叫ぶ。声がでるんだ、と、驚きながらも、首を伸ばして他のメンバーの様子を見ると、イザドラを後ろに乗せていたテオとイザドラはすでに落馬していた。テオはいきり立つ馬の首からぶら下がっている手綱を引っ張りながら、
「どう、どう!」
と叫んでいる。だが、馬は興奮状態から覚める様子は全くなかった。
イザドラは地面から半身起こして腰をさすっている。おそらく鞍からお尻で滑り落ちたのだろう。命に関わるような衝撃はなかったようだ。
アプレイウス師も地面に横たわってはいたが、首を伸ばしてあたりを窺っているところを見ると、大丈夫のようだ。
セスだけが、必死に愛馬にしがみつきながら、なんとか落ち着かせようと苦心している。だがセスの馬はぐるぐるその場を周りながら、再び前足と後ろ足を交互にあげた。
たまらずセスが落馬する。
引きずられそうになって手綱を離したテオから、馬が走り去る。テオの馬とセスの馬は、呼吸を合わせたように同時に森の奥に向かって走り出していった。
後には茫然自失の我々人間だけが残された。
「・・・何が起きたの?」
セスが走り去る愛馬の姿を凝視しながら呟いた。
テオが、
「ガラガラヘビですかね?」
と言いながら首をひねっている。私は立ち上がって殿下に怪我がないことを確認すると、アプレイウス師を助け起こした。イザドラは、テオにすでに手をとられて立ち上がっている。
アプレイウス師が、
「いや、5頭同時に蛇に驚くとは思えんがな?」
と語尾を上げながら答える。
そういわれれば、荷物を運んでいた1頭もいない。食料を運んでいたのだ。あれがないと旅を続けられない。私の決断は早かった。
「跡を追うぞ。」
すかさずイザドラが、
「じゃあ、ここで待ってる。」
と、再びお尻をさすりながら口を尖らせた。それは容認できない。
「いや、離れ離れになっても君たちは身を守ることもできんだろう。全員で行くしかない。なに、私たちの馬は、訓練された軍馬だ。主人からそんなに離れた場所にいるとは思えん。」
そう言うと、私達は蹄の方向に歩みを進めた。