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「ミーガンというのですか、その赤ちゃんは。」
ネッドが私の膝に乗って満足そうな赤ん坊を見つめながら聞いてきた。
「仮。まあ、ミュリエルとモーガンの娘ってことで、ミーガンよ。」
ミーガン(仮)は目の前に出されたなにやら柔らかそうな物がはいった食器を一心不乱に見つめている。その様子を家令に給仕されながら、見やるネッドが、
「ミーガンについての多少の情報は、クリストフに調べさせて、報告させると、フリスが言っておりました。クリストフとは・・・」
と、説明を始めようとしたので、遮った。
「文官君よね。文官君も砦に来るのかしら?」
妹ちゃんが来るなら文官君も来るだろうという確信はあったけれど、念の為。
ネッドが笑いながら答えた。
「もちろん。もろもろの根回しが必要なようですが。」
「なんであそこはいつまでもグズグズしてるの?さっさと一緒になっちゃえば、移動の時もうるさく言われないだろうに。」
ミーガンの口元に匙を持っていきながら聞くと、ネッドが笑みを深めた。
「ストラウス家を継ぐにはクリストフでは役不足だからでしょうね。だからといってフリスにはクリストフを手放して、次を探すつもりは毛頭ないし。次世代のストラウスをどうするかで、いささか混乱しているのですよ。ヴァル姉様は女性だし、私はこの通りですから。ストラウス家の兄弟は、それぞれのしがらみと不平等を何としても打破し、誰が継ぐかのために足掻いている最中なのですよ。
私は生まれついてのこの体の障害を乗り越えて家を継ぎ、後継者を残せるかを親戚一同に問われていますし、ヴァル姉様は、姉様を女性として愛し、後継を作れるか疑問視されています。フリスは、そうですね、我々二人のうちのどちらかがストラウスを継ぎ、自分は愛するクリストフと一緒になろうとずっと動いていますから。」
「最初の二つはそうね、まあ、貴族として生まれてきたなら、そういうこともあると理解できるけど、最後のは・・・妹ちゃんのわがままのようにも思えるけど?」
ミーガンに匙を奪われそうになりながら、餌付けを続ける。ネッドの方を見る暇がない。
「そうですか?私もヴァル姉様も自分のわがままで動いてますからね。フリスだけが我慢する必要はないでしょう?」
思わず視線をネッドに向けた。
「わがままって?」
「ヴァル姉様は、女性騎士全体を押し上げるために足掻いてる。自分だけを、自分の実力だけを認めさせて、軍のトップに着くつもりはない。ここでゴリ押しすると、一人の特例で終わりますからね。『特殊な体で、特殊な例だから、あんなのはもう2度と出ない』じゃ、姉様納得が行かないのでしょう。」
まあ、ねぇ。面倒なことするわね。
「私もそうですよ。この体でも軍師の地位を手放す気がないのでね。領地に引っ込んでいれば良いものを、寝たっきりはつまらなくて。私が諦めれば、フリスも覚悟を決めたのでしょうが。中途半端な思いをさせてしまいました。」
三人揃って、めんどくさい人生選んでるわね。
「私にストラウス家の跡取りを作らせるために、フリスも随分工作してくれましたが、最近は、リオン殿下とヴァル姉様の方にも興味が向いているようですから。」
殿下とヴァル。
「案外いけるわよ、それ。少なくとも殿下は大歓迎でしょうよ。殿下が成人するまであの朴念仁が動くことはないだろうから、あと2年、余計な虫を追い払えばね。ま、それは殿下自身とフリスがやるんでしょうね。」
ネッドがにまにましている。
「砦に殿下が正式に移動したら、三分の二の女性が脱落するでしょう。現時点であそこに住もうという貴族令嬢はいないでしょうから。」
ストラウス家の砦への大移動は、この辺にも理由があるわけか。
「で?跡取りを作るための工作って、妹ちゃん、どんなことしてくれたの?最近枯れちゃってるからその辺詳しく聞きたいわね。」
大人しく給仕を続けていた家令の手が止まった。
右手だけで器用にフォークを扱っていたネッドが、吹き出す。
「お好みのような艶っぽい話はできないと思いますよ。次々とお眼鏡にかなったお嬢さん方を送り込んで来るだけですから。」
「機能するの?」
遠慮なく聞かせてもらったところ、侍女が私の腕からいきなりミーガンを奪いとり、部屋の隅に走っていった。ミーガンは目を丸くしている。
ネッドは動じない。食事の手も止めない。
「さあ、どうでしょうね。彼女たちのうち誰一人とも一緒にいることが想像できませんでした。」
そーお?
部屋の隅からミーガンの唸り声がする。
「うー。」




