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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
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予測通り難民達のための毛布と訓練兵のための毛布の発注が貰えたため、そっちの方がかなり忙しくなった。テオによって運び込まれた刈りたての羊毛は、かなり臭かった。もともと羊飼いをやっていたという元兵士は、懐かしがって匂いをクンカ、クンカしていた。昔の生活が思い出せるほどになって来ると、ポツポツと戦場の出来事を聞かせてくれるようにもなった。


回復までのまた一歩。


皆、洗って干した羊毛から、絡み付いた草やゴミをひたすら拾っている。クリストフに至っては、寝る間も惜しんで羊毛にしがみついている。彼が完全に治癒することはないだろうし、証言なんぞさせて、パニックを起こさせるわけにはいかない。ヴァルと私の判断は間違っていないと思う。


ブン、ブン唸る糸車を眺めながら、この作業は、街の職のない女性達ともシェアできるな、と考えていた。


『奥さん』が『聖女様』に援助されているという噂が、徐々に広まったせいか、神殿にぼつぼつ人が戻りつつあるのだ。


たいてい話を聞くだけで満足してもらえる。心のつながりとやらを求めている人が多く、『聖女様』に時間をかけてもらえるだけで、かなり満足して帰っていった。


『聖女様』を期待する人たちに、『聖女様』風に話しかけるのだけが、ちょっとめんどくさかったけど。


神殿を訪れる人は、女性だけではないので、念の為、テオは常に私の後ろにいる。そのテオに、


「巨大な猫をかぶってますねぇ。」


と言われた。うっさい。猫の毛皮をかぶれるのはアンタだろうが。


神殿が落ち着いて来た頃を見計らって、セスを呼んだ。



セスは砦からカマルを連れて来た。私に最初に泥団子を投げつけたあの少年だ。当時よりずっと生き生きしてるところを見ると、砦での生活がうかがわれる。物乞い時代よりかなり楽になったんだろう。


作戦会議ということで、ヴァルとテオも参加している。まず、私が口火を切った。


「ねえ、ハリソンを砦から追い払うことできない?行き場をなくして、こっちに戻って来させたいんだけど。」


私は、まずセスに相談を持ちかけた。子供に聞かせる話でもないので、リンデン語だ。


「なんであんなのを引き受けたいのよ?あいつサイテーよ?」


セスがそう言ったところで、思わぬ所から声が上がった。


「だから!母ちゃんがやるっていってるじゃん!」


おお、カマルがリンデン語を話している。


セスが、


「それを相談しようと思ってたのよ。ハリソンと来たら、難民の女性に手を出そうと、そりゃあ必死でさ。砦の外に出る分には、こっちで防いでたんだけど、近々砦の中にテントを移動させる予定でね。そうなると・・・」


テオが、不思議そうに、


「防ぐって?」


と、聞く。セスは、ちょっと鼻高々に、


「夜、城門を開けてくれって、うちの部隊の兵士に声かけて来てね。何するつもりなのか、こっちもピンと来たから、『金よこすんだったら考えないこともない』って金だけ受け取って開けてやらなかったのよ。部隊の全員に通達してたから、三人ほど試して、三人ともに金だけ盗られたってわけ。流石に学習したみたいよ。夜はお出かけできませんってね。昼はほとんど騎士達が作業場にいるしね。」


と、言った。テオも私もニヤッとした。


「ところが、気温が下がって来たし、テントを砦内に移動させろって、ハリソンが言って来てるの。一番危険な元軍人がいないのだから、中に移動させても大丈夫だって言われると、殿下もオスロフも断れない雰囲気なのよ。結構皆、掃除、洗濯なんかの仕事頑張ってるしね。近々移動になると思う。で・・・」


またカマルが声を上げた。


「母ちゃんがハリソンを罠にかけて、襲われるから。そうしたらハリソン、罰せられるだろ?」


うわっ。


「それやめて!」


私は急いで止める。


「なんでさ?」


カマルは不服そうだ。


難民を襲ったことで、罪を問われるかどうかは別として、(奴のことだ、同意の上とか言いかねない)カマルのお母さんに犠牲になってもらいたくはない。それよりなにより・・・


「同じ手を何度も使ったら、ハリソンだって馬鹿じゃないんだから、引っかからないでしょ?」


皆がキョトンとする。


「ハリソンは神殿に戻った後、街の皆から慕われる『聖女様』を襲うんだから。そうすれば、絶対に罪に問える。」


私は自信満々だ。


「えー、危なくない?」


まずカマルが立ち直った。


「大丈夫。作戦はあるから。アンタとお母さんの仕事は、ハリソンに気づかれないようにすること、難民の女性が誰もハリソンを相手にしないように徹底することよ。」


そういうとセスに目配せする。


セスが、


「カマル、元軍人達に、ハリソンの悪事を何か知らないか聞き込みにきたんでしょ?こんなとこで油売ってないで、さっさと作業場に行きなさいよ。後で決まったことは教えるから。」


と、カマルを押し出した。心配そうに何度も私を振り返りつつ、カマルが出ていく。


きっちりドアを閉めたとたん、セスが、


「イザドラ、アンタが囮になるのは反対。襲われて、またトラウマ増やす気?」


と、吐き捨てた。


私はニッコリする。


「ご心配なく。襲われるのは『聖女様』じゃなく、『聖女様もどき』だから。」


そう言ってテオを見る。セスとヴァルの視線もあっけにとられているテオに行く。


「ああ、そうか。うん、それなら、まあ。だが、テオ、イザドラに化けて、うまく抵抗できるのか?体力は失わないのか?いや、いざとなれば、元の姿に戻ればいいか。待てよ、そんなことで正体がバレるのは困るだろう・・・」


ヴァルときたら、最後の方はぶつぶつ独り言になっている。


セスの目が輝いた。


「ねえ、テオ!それって完全に女性に化けるってこと?それとも?」


セスが自分の下半身を指さしている。テオが慌てる。


「そんな詳しいことまで知りませんよ!どうすりゃいいんですか!顔と胸だけありゃあ誤魔化せるんじゃないんすか?」


お、乗ったな。


セスがニヤける。


「そうよね、トレッドロックだって再現できないのに。そのままよね。イザドラの胸にあれついてるわけね。わぁ、見てみたいー!」


セス、てめぇ、ほんと一回死んでくれ!


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