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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
41/91

20

ヴァルの髪の毛が濡れている。今日も模擬試合と自警団志願者の訓練があったのだろう。日中にかいた汗を落とすため、風呂を使った直後を捕まえたらしい。


ヴァルの滞在する部屋に滑り込んだ私は、後ろ手でドアを閉めた。


「なんだ、イザドラ?」


「ねえ、ジェイミー・トラッパーの殺害状況、把握してる?」


ヴァルが頷く。


「死体はどこで発見されたの?犯人の状態は?」


「ジェイミーは完全に事切れていたらしい。喉の傷が致命傷で、発見された場所は、難民テントからあまり離れていない、土手だ。犯人の難民の男は、ジェイミーの遺体を抱えていた。遺体を捨てようとしていたんだろう。」


「襲われた場所は特定できたの?」


「いや、特定は出来ていない。ただ、男はかなり長い間ロクな食事もしていなかったらしく、骨と皮。体力もないから、遺体をそんなに長くは運べなかったろう。犯行現場は発見されたところから遠くはないはずだ。」


「テントである可能性は?」


「男のいたテントを確認したが、争った様子はないし、血の痕もなかった。喉からの出血は相当だろうから、テントであったはずがない。」


「他のテントは調べたの?」


「一応、テントは全て回って、どのテントにも大量の血はなかったとある。ジェイミーがテントに引き摺り込まれたのでもない限り、テントが犯行現場になるのは無理ということと、ジェイミーの遺体には、抵抗した形跡があった。ひどく殴られているし、音が筒抜けのテントで争ったということはないだろう。」


そうか。


「で、犯人と思しい男の精神的な状態はどんなもんだったの?遺体を移動させようとしたということは、悪いことしたってことを理解してたってことだよね。比較的安定してたんじゃないの?取り調べに反応はあったの?」


「最初に『やってない』って言ったっきりダンマリだったそうだ。そうだな、精神疾患は認められず、ってことだったよ。」


「最終的には、黙って処刑されたの?」


「ああ。」


その男、自殺の方法として、処刑を選んだな。


私はため息をついた。


「ということは、犯人じゃないわ。」


ヴァルは冷静だ。


「証拠は?」


「ジェイミーの遺体は、一時的にクリストフのテントにあったのよ。本人の言葉の切れ端から推測するに。クリストフはおっかながって、遺体に触りもしなかったのを、その男が、よろよろ運び出したんでしょ。」


「なんでクリストフのテントに遺体があったんだ?」


「クリストフのテントはめちゃくちゃだし、自傷行為でいろんなやばい痕跡も残ってる。本人はあの調子だから、言い訳もできない。犯人に仕立て上げるにはぴったりじゃない。クリストフが騒ぎ立てたから、その犯人の男はクリストフを庇って、遺体を捨てに行ったんでしょうよ。」


ヴァルが私の推理の穴を探している。だが見つからない。


「ということは、犯行は全然別のところで行われ、クリストフに罪を押し付けるためにジェイミーの遺体は、当初クリストフのテントに置かれてたということか。」


「そう。」


「犯人が誰かわかってるのか?」


私は指を一本、ヴァルの前に出す。


「第一に犯人はクリストフの精神状態を知っていた」


2本目の指を立てる。


「第二に、クリストフのテントの位置とテントの状況を正確に把握していた。」


で、3本目。


「そして、女癖が悪い。得に頼ってくるタイプの女性は全て自分のものだと思うタイプ。」


ヴァルも同じ結論に辿り着いた。


「ハリソンか。」


「間違いなく。どうする?」


ヴァルの口がへの字になった。


「今更処刑された男が無罪だったという告発は出来ん。推測だけで、証拠もない。いたずらに事を起こして、今難民達の信頼を失うのはまずい。街では、難民達の存在を、帝国に対する恐れを掻き立てるものとして・・・」


「利用してるのよね。そこは仕方ないでしょう。アンタの弟が言うように戦争になったら真っ先に襲われるのはこの街なんだから。」


難民達の姿を見れば、帝国に支配されることの恐怖は深く理解されるだろう。


「処刑した犯人が、無実だったということになれば、砦の権威が著しく損なわれる。」


砦と街の関係を強化したい時にそれは悪手だ。


「オスロフ隊長も納得しないだろう。よほどの証拠がない限り、再審を起こすことさえ難しいな。」


なんにしろ失った命は、どう足掻いても戻らない。冤罪であったことがわかったとしても、もうどうしようもない。


「ジェイミーの事件を蒸し返さないことには賛成。クリストフは証言できないだろうし、したとしてもまともに取り上げてはくれないでしょう。ただし、いずれ近いうちに、ハリソンには消えてもらわないと。」


ヴァルが眉を上げる。


「殺すのか?闇討ち?」


そうしたいのは山々だが。


「そんなことをしたら、神殿との関係がまずくなる。ヴァルもハリソンを合法的に抹殺できる方法と機会を探っておいて。あいつのことだから、長く女に手を出せなくて焦ってるはず。街の女達はあいつを相手にしないだろうし、難民達は騎士達によってまもられてる、はず、よね?」


ヴァルが頷く。


「ああ。大丈夫だ。」


ハニートラップ仕掛けるか。


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