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殿下が目をパチクリさせながら聞いてきた。
「何かな?それは?」
テオの口が固く結ばれているのを確認して、私から説明する。
「シェイプ・シフターって、あらゆる生物に形が帰られる人?のこと。なんか色々変だと思ったから、王宮図書館で調べたの。理屈が合うとしたら、シェイプ・シフターしかないってのが結論。」
セスが口を開く。
「色々変って?」
「前回私たちが蔦に絡め取られた時、なんで一人逃げられたのよ。体むずむずさせたら外れるようなもんじゃなかったわよ。おまけに隙間を作るために服を脱いだ?おんなじように木に縛り付けられた私が宣言するけど、絶対服を脱ぐ余裕なんてなかった。変じゃない。私はわかんないことをそのままにしておくの嫌なの。
何が当てはまるか調べた結果が、シェイプ・シフター。なんかちっちゃい動物に変化して逃れたんじゃない?」
全員の目がテオに行った。
「・・・ネズミ。」
テオが吐き出すように言った。
「ユニコーン達から馬を取り戻した時は?」
この際だ、聞いてしまおう。
「・・・馬に化けて近づいた。」
だろうな。
「何にでも化けられるの?信じられない。ちょっとやってみなさいよ!」
セスが疑わしげに命令する。
テオが椅子から立ち上がった。
シュッ!
あっという間にセスがもう一人出来上がった。身長も体つきもそのまま。目の前で見るとわかっていても、驚愕の眺めだ。
ガタン!
驚きのあまり、椅子をひっくり返して本物のセスが飛び上がった。偽物のセスを穴が開くほど睨んでいる。しばらくの沈黙の後、セスが立ち直った。
「ちょっと待って。なんか変。」
元々テオが来ていた服がそのままだから、そこは違っているが、それだけではなさそうだ。二人の間を目が彷徨っていた殿下が気がついた。
「髪の毛だ。」
偽セスは一応トレッドロックにはなっているけれど、細かい三つ編みではなく、ただの髪の毛の筋だ。
「いちいち三つ編みにすんの、めんどくさいっすよ。」
テオの言葉に、セスがすぐさま、
「失礼ね!」
と、文句を言った。ついでに、
「声はそのまんまねぇ。」
と、感心している。
「動物にも化けられるのよね?やってみてよ。」
と言うと、セス風のテオが首を横に振った。
「動物になると、服が脱げるから、戻った時に、裸になっちまう。」
なるほど。形が変わるのは中身だけってことね。私に視線が来ているところを見ると、私のことを気遣ってのことらしい。偽物でもセスに気遣われるとお尻がむずむずする。
シュッ。
もとのテオに戻った。茶色の髪と暖かな茶色の目。セスに化けていた時は、筋骨隆々だったが、今はちょっと丸っこい、どこにでもいる平凡な男だ。
「ずっと化けてられるの?」
殿下が問う。
「いや、同じ人間なら2、3時間大丈夫ですけど、大きさが違う動物に変わると、短い時間しかもたないっす。結構負担が大きいんっすよ、サイズが変わると。ネズミとかだと10分もちません。」
「「「ほー」」」
期せずして、声が一緒になった。
「たくさんいるの?シェイプ・シフターって?」
殿下が聞く。
「いやどうかな?俺は母親しか知りません。その母もずいぶん前に死んだんで、それっきりです。幼い頃から二人っきり。どっかの里から俺たちは流れてきたんでしょうけど、母は何も言わなかったんで、同じような人がいるかも知らないっす。」
「味方にすると色々便利そうだけど、敵に回すと厄介よね。沢山いない方がいいと思うよ。まあ、一人いるだけでもめっけもんよ。これからせいぜい役に立ってもらうけど、まずは、街に探りに行ってよね!」
私は、そう言って話し合いを締めくくった。考えなきゃいけないことは山のようにある。やらなきゃならないことも。使えるもんはきっちり使わせていただこう。




