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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
32/91

11

「なにそれ?」


セスの方が早かった。


「帝国の脅威を理解してもらい、軍の必要性を理解、体験してもらうために、周辺の街から兵士を募る。」


ヴァルの返事に思わず疑問の声を挟んだ。


「徴兵するってこと?強制的に?」


そんなことできんだろ!誰がやりたがるんだよ!


「いや、徴兵は帝国の二の舞だ。無理矢理民を兵士にして、戦場に送り込んだ結果はイザドラも見たろう?大半が死に、生き残った者も屍同然だ。迎え撃つ方だって、やけっぱちになって突っ込んでくる平民を殺すのは、かなり精神的にくるものがある。アプレイウス師を覚えているだろう?彼があの戦いでどれだけ疲弊したか。」


あんたのお父さんが、そんな戦いの中で戦死したのも覚えてるよ。


「それだけじゃない。当初帝国では農家の長男などの働き手を残して徴兵を進めていたんだが、戦争が長引き、兵がどんどん死んでいったため、最終的に、誰彼の見境なく徴兵したんだ。老人や女性、子供たちだけが残された。働き手を失った農地は荒廃し、彼らの食料も確保できなくなった。その結果が難民だ。」


ヴァルがため息をついた。


「こちらとしては我慢できなくなった民による内戦で帝国が倒れることを期待していたんだが、これほど疲弊した民には帝国の皇帝を倒すだけの力が残っていない。故郷に戻っても食べるものさえない兵は、食料を提供してくれる軍から離れられず、戦い続けざるを得ない。その結果使い物にならなくなった兵は、難民の中に紛れ込ませて、リンデン国に送り込む。と、ここまでが現状だ。


将来的には帝国内で不満が高まったら、『リンデン国は我が国の民を虐待している』ことを理由にリンデンに戦争を仕掛ける、と読んでいる。」


ちょっと、その読みによると、難民の虐待で戦争になるってことじゃない。確かに虐待してるけど。放置してるからねぇ。となると、後がない!


「帝国の緊張が高まりつつある中、一番最初に矢面に立つ砦を立て直す必要があるというのが、見解だ。」


「誰の?師団長?」


セスが聞くと、ヴァルが頭を掻いた。


「師団長も同意している。だが、もともとの見解は私の弟から出ている。フリスの双子の弟だ。体は弱いんだが、戦略作戦に関しては、天才的だ。絶対に前線には出せないが、常に周辺諸国の情報を集めて、状況判断をやってるよ。寝たっきりだから、チェスのようにそういうのを楽しむんだ。今回の作戦はベネディクトと相談の上立てたものだ。」


「「弟?!」」


殿下とセスが驚きの声をあげてるが、そこじゃないだろ!


「ちょっと待って。作戦まだ聞いてない。」


私が突っ込む。


「第一に、帝国から突っ込まれないよう、難民の面倒を見る。むしろ難民の生活が向上することで、帝国に残っている民を揺さぶる。」


うへ。


「第二に、周辺地域と砦の関係を強化し、帝国の脅威を民衆に植え付ける。民衆の間にリンデンに対する愛国心を育てる。」


難民達の困難を利用するしかないな。


「その上で、第三、民衆自ら戦うすべを教える。冬の期間の訓練なんかが理想だ。まずは成人前の10代の子供達、まだ労働力として家庭の中心となっていない子供達に、学問とともに剣を教えるという案がある。女性騎士ならば、民の間で受け入れられやすいのではないか、ということで、今回の人選なんだ。」


「まどろっこしいわね、もう成人の前に、みんな強制的に1年間兵役につかせたら?」


まるでカタツムリのようなのろい手順にイラッとして、私が文句を言ったら、ヴァルがこっちを真っ直ぐ見た。


「神殿と周辺地域の関係が良ければ、神殿の威光を借りて、徴兵の説得も考えたが、ベネディクトにその路線は諦めろと言われた。民衆の信仰が神殿から離れつつあると。」


うっ!ブーメラン。


セスが首を傾げる。


「司祭のせいってことはない?神殿そのものに対する信仰がなくなったんじゃなく。それなら聖女様の力でなんとかできんじゃないの?」


私は首を縦に振る。


「うん。その可能性は大きいわ。とにかく、街での司祭と神殿への評価の聞き込みが必要だよね。テオ、あんた街にいって探ってきてよ。」


「へっ?」


それまでずっと黙っていたテオが、いきなり指名されて驚いている。


「自分でいってきなさいよ。」


セスがいち早く返事をした。


「私はこっちで司祭をどうにかしないと。アイツの所業を暴いて、難民の生活を向上させることに全力を尽くす。第三はヴァルにしかできないけど、第一は、私が切っ掛けになる。第二は難民の口から帝国を語ってもらわないといけないよね?今の状態じゃ難民の協力なんて得られないよ。と、いうことで、第一が最優先だね。司祭は、そうだな、私を襲わせるかなあ。手っ取り早く。」


考え込んでいたら、テオが嘆いた。


「俺、聞き込みなんてできないっすよ。誰も知らないし。俺にそんな内密の話てくれる人なんていないっすよ。」


あーあ。黙ってやりゃあ、正体ばらさないのに。一応チャンスはあげる、ということで、誘導してみた。


「別に聞き込みしなくても、街のお偉いさんの部屋に忍び込んで聞き耳たてりゃあいいじゃん。」


テオが答える前に、セスが吹き出した。


「忍び込むの?テオが?」


「そうよ。犬かなんかにばけりゃあいいんじゃないの?シェイプ・シフターなんだから。」


「「「は?」」」


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