21 エピローグ
「いやよ。」
のっけからセスが拒否した。
華やかな祝賀会の開かれているダンスフロアの中心に、イザドラがいる。流れ来る音楽に乗って・・・くねくね踊っている。・・・一人で。まばゆいろうそくの灯ときらめくシャンデリアのもと、一人で揺れるイザドラの姿は異様としか言いようがない。祝賀会の参加者は、呆気にとられつつもその姿から目が離せないようだ。
私はといえば、恐怖と羞恥を感じながらも、口をあけてそれを眺めている。セスの眉間には深々とシワが寄っているうえ、イザドラから完全に目をそらしている。
フェルが吐く息の下から指示を出す。
「何言ってんのよ!こうなったら、勇者軍団全て参加してくねくね踊って、この踊りを正当化するしかないじゃない!さっさと行きなさいよ!」
セスは動かない。
「い や よ。」
そもそもこの祝賀会はフリスが手配したことだ。西の森魔女討伐から、やっとの思いで戻った私たちに、フリスは、
「で?どういうこと?」
と、聞いてきた。私はフリスに隠し事ができた試しがないのだ。というか、誰もフリスに隠し事ができないと言うべきかもしれない。討伐の真相は、私の胸の内から口へと流れ出た。
セスや、イザドラ、そのうえ殿下にまで説得されて、まあ、とにかくこの任務に成功した、という話を、もやもやしながら受け入れたこと。テオでさえ
「なんでー、いいじゃないっすか。」
と言うぐらい、皆納得していたが、騎士としての矜持を傷付けられたような気がして、なかなか気持ちは晴れない。
フリスはその辺りをすぐに理解してはくれたが、同意はしてくれなかった。むしろ全く意に介さず、大々的にこれを利用する計画を立て始めた。
「まずは、壮大なる西の森の魔女討伐譚を作らなきゃね。」
「いや、やめてくれ、なるべく事を大きくしたくない。」
と、文句を言う私の口を、
「ちゃんとした土台を作って、その上でイザドラやセオ、殿下にも納得していただかないと、どこからほころびが出るかわからないじゃないの!」
と、言って黙らせた。その土台とやらをあまり派手派手しいものにしてもらいたくなかったのだが。フリスの幼馴染の文官が作った台本は、どこの勇者譚だよ、というぐらい赤面物だった。仕方なく皆の間で回し読みして、辻褄を合わせるのに利用した。(私以外は当然のごとくこの読み物を楽しんでいた。)
こともあろうに、フリスはその台本をもとに叙事詩を創り、世間に広めやがった。
「うまくいけば劇になるかもね、勇者様。」
ニヤリと笑うフリスの首を絞めてやろうという衝動を抑えるのに苦労した。
そして、あれやこれやの賞賛が、今日のこの日の祝賀会につながったのだ。
「早く、フロアに出て!」
イザドラの独走をどうにかしようと、フリスが私を後ろから押す。力ではかなうはずもない。騎士服の私は、ビクともしない。同じく騎士の正装をしたセスもだ。
だが、殿下が飛び出した。止める間も無くイザドラの横に並び立つと、両手を掲げて、笑顔満杯でイザドラと同じようにくねくねし始める。
「殿下に恥をかかせるつもり?!」
フリスのその言葉が終わらぬうちに、セスとともに、フロアの真ん中に飛び込む。
かく、かく。
殿下が楽しいのならまあよいか。
くね、くね。
えーい、こうなったら、全ての因縁を振り払うために思いっきりやってやる。
セスのトレッドロックが、風を切り、殿下から笑い声が聞こえる。
フリスと幼馴染を先頭に、三々五々とフロアに人が出てきた。フリスは堂々とくねくねしているが、かわいそうな幼馴染は、視線を床からあげようとしない。そのまま手だけ空中で揺らしている。
胸を張れ!勇者は正義と自分に言い聞かせるのだ!
目を輝かせた殿下が私の前に陣取って、くねくねし始めた。
第1章終了です。物語の意外性を重んじて、あまり詳細なあらすじと情報を載せなかったにも関わらず、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。予想通り恋愛がもたついていますが、「異世界恋愛」に恥じぬようがんばります。ちょっとお休みをいただき、書き溜めて第2章に臨みますので、今後ともよろしくお願いいたします。




